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タダシイ冒険の仕方5  作者: イグコ
四章 夢の国、時の砂
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卵はかき回すのがお好き

わたしが応接室に戻るとトマリのしゃがれ声と食器の音が聞こえた。

「へー、あの王子生きてたの、あそう。そんな話し全然聞かないけど……え?城に戻りたくないんだ?へー、俺ならすぐさま戻っちゃうね」

簡単な夜食を出して貰ったらしく、大きな口をいっぱいにしてがっついているトマリ。

「俺、金属苦手なんだよなー。キーンってするじゃん?木のフォーク無い?そう、無いよな、普通」

ファムさんに睨まれて大人しく引き下がる。わたしはお茶を飲むローザの肩を叩いた。

「アントン、起きたわよ」

「騒ぎ声が聞こえたわよ……。で、どうしてる?」

「まだ今晩は嫌でも寝かしつけとくって、サラが」

本人はこちらに来たがったがサラの言うことには大人しく従っていた。何しろ今日から彼は『紳士』にならなくてはいけないのだ。

ヴェラが殆ど寝ているような状態で船を漕いでいる。デイビスはまだイライラするように足が揺れていた。トマリの食事も終わったので部屋は静かになる。

すっとアルフレートが立ち上がると自然に皆の目線が彼に動く。それを充分知っている様子で「さて」とアルフレートは胸を張った。

「どうしたいんだ?」

試すような視線がわたしに向いている。言いたいことは分かっている。でも、どう答えるべきかが自分の中でも出ていない。答えたのはデイビスだった。

「すっきりしない状態はどうも駄目だな。こっちは仲間が死に掛けたんだ。あの黒ずくめの集団の目的と、影にいる奴を暴いてやりてえ」

「レオンのこともそれで分かっちゃったりするかもな」

フロロが同調する。アルフレートは目を細めて彼を真っ直ぐ見るデイビスと視線を合わせる。

「で、どうして貰いたいんだ?」

「力を貸して欲しい、アルフレート」

皆が押し黙る。空気を読めないのか敢えて読まないのか、トマリがずるずるとお茶を啜る音が響いた。

「……協力を要請された訳だが、どうするかね?」

アルフレートが今度はヘクターを見る。迷うように組んだ手の指を動かすヘクターを見てわたしは立ち上がった。

「だ、駄目よ、リスクが高すぎる。意味分かってる?この国の王室相手にするってことよ?あの男達相手にすることだって……」

そこまで口にしてわたしは先ほどのヴォイチェフの言葉の意味が分かってしまった。

今の状況でわたし達に何かがあった場合、呼び戻されるのは王城なのだ。表ならまだしも、正式な招待状を受けて城にいるわたし達に何かあったら不味いに違いない。王子からの依頼でこの地にいることを学園も知っている。学園に所属する意味を少し実感出来た気がした。

「珍しく消極的だな」

アルフレートの台詞と皆からの視線に顔を上げた。わたしは低い呟きで返す。

「……城に戻る流れになるなら」

「今、父が今日の事を城に報告に行っています」

わたしはファムさんに頷いてからアルフレートを見る。

「オグリさんが帰ってきたら、城に戻るのに誰が『反対派』にいるのか聞いておきたいわね」

「なんだ、もう首突っ込む気満々じゃないか」

「しょーがないですねー」

アルフレートとイルヴァにわたしは「うるさいな」と返した。気難しい顔のローザに苦笑するヘクター。

「俺の意見も聞いて欲しいなあ」

とぶつくさ言うイリヤを見てアルフレートがびしっと彼の顔を指差す。

「そうだ、そうだよ」

「え、何?……ごめんなさい!別に反対して空気悪くしたりしないよ!?」

「うるさい、黙れ。今回、一番守るべきはお前だ」

慌てるイリヤにアルフレートはよく分からないことを口にした。イリヤは目をしぱしぱとさせていたが、真顔に戻り口を開く。

「俺が心を読めると思ってるから?」

「違うの?」

聞き返すローザにイリヤは大きく首を振った。

「『誰が十二年前にレオンをサイヴァ教団に渡して、今現在アサシン雇って後始末させようとしてるか』って?そんな事まで分かんないよ!一人一人に『貴方がやりましたね』って聞いて回るなら可能かも、だけどね。大体、あの城にいる人達、皆が腹黒い物もってるっていうのに」

「全員腹黒いか、面白いな。だがな、ラグディスの件……双子の王子の話はお前が紐解いたんだ。少なくとも連中はそう思ってる」

アルフレートが淡々と言うとイリヤは後ずさり、フロロは、

「何それ、つまんないの」

と口を尖らせた。

確かに表向きは全員のお陰、ってなってるけど、実際には『たまたまビーストマスターを含んでいたヒヨッコパーティー』って扱いかもな。わたしは「別にいいけど」と呟いた。

アルフレートがもう一度椅子に座り込む。

「ま、今ので要点は絞られたな。……『レオンをサイヴァ教団に渡した者』『目撃者であるクーウェニ族の男を始末したい者』『ラグディスの件を片付けた面倒な冒険者達を遠ざけたい者』がいる、と。こんな感じか?」

彼のテーブルに並べた三つのコップを全員が見つめていた。

「え、全部同じ人がやってる事なんじゃないの?」

ローザが困惑の声を出す。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないってところか」

アルフレートの言葉に首を傾げるローザへわたしは質問してみる。

「ローザちゃんはわたしがもし、余所様の財布を拝借してるところ見ちゃったら、どうする?」

少しびっくりしたような顔をしたが、ローザは「うーん」と唸ると、

「然るべきところに通報させてもらうわあ」

と答えた。思った答えが引き出せずにイライラするが、そんな事するわけない、と信用されているのだと良い方に解釈することにする。

「あ、庇ってる人間がいるかもしれない、ってことか」

「そういうこと」

腕組みを解いたヘクターにわたしは頷いた。ローザも「ああ、そういうこと」と納得している。

「王妃がやったことを国王が庇う、とか国王がやったことをブルーノが庇う、とかね。……あ、今のはあくまでも例だけど」

わたしはびっくりした顔でこちらを見るクララさんに聞かせるよう、付け足した。ファムさんとクララさんが顔を見合わせる。ファムさんは母親に「心配するな」というように頷いていた。

「では『舞台に上がってきそうな人物』を挙げていくことにするか」

アルフレートがテーブルの方へ身を乗り出してから、言葉を続ける。

「まず国王夫妻、異論は無いな?……よし、そして国王の兄弟達、姉と弟の二人で間違いないか?」

ファムさんとクララさんが頷く。アルフレートはそれを見ると指折、数を数え始める。

「他の……まずは王室関係者から挙げていってもらおう。『レオン連れ去り事件』の日に、城にいた可能性があった者だ」

考え込む素振りを見せたクララさんにアルフレートは手を振った。

「ああ、事件の日を思い出そうとしなくていい。その当時、城にいても不自然じゃない者を言ってもらえると助かるね」

言われたクララさんは「それなら」と彼女も指を折っていく。

「当時、ご存命だった王室の方、と解釈して答えさせていただきます。まず王太后であられるグレース様」

「まだご存命?」

ローザの問いをファムさんが肯定する。

「元々先王に比べて若い方ですので、今も元気ですよ。王宮の離れにいらっしゃいますが、エミール王子の事も大変可愛がっておられます」

アルフレートをはじめわたし達の頷きを見ると、クララさんが話を続ける。

「あとは……先王の妹君でいらっしゃるルイーズ様、そのご子息のユベール様、その長男レイモン様は……当時まだ十六ですね」

数に入れるか?というニュアンスを含んだ言葉にアルフレートが首を振る。

「例外を入れ出すとキリがない。一応含ませておくか」

「ではレイモン様。ユベール様の奥方は当時既に亡くなっております。後はイザベラ様の旦那様とご子息アシル様は、ずっと年に一度の聖誕祭シーズンしか城には参りませんでしたので、この二方ばかりは除外出来るかと」

わたしは火を噴きそうな頭をどうにか冷静に保ちつつ折った指を上げる。

「全部で八人ね。後はブルーノに……大臣とかその辺かしら」

「じゃあ次は王族以外の王城常駐者を、片っ端から説明してもらう」

アルフレートがクララさんとファムさんに視線を送る後ろで、デイビスが手で顔を覆いながら呻く。

「……任せる、っつったら怒る?」

「怒らない、端から期待してない」

ぴしゃりと言い放つアルフレートは目が爛々としていて、全部を吸収してやろうと言わんばかりの体勢に見える。彼ほど優秀な脳みそを持ち合わせていないわたしは嫌気が差しながらも、ファムさん達の話をじっくり聞いていった。

ファムさんの「先々王の時代から腰巾着な態度を崩さない大臣一族」の話に眉間に皺寄せていると、アルフレートがトマリを見る。こっくりこっくり首を揺らす大男に呆れているのかと思いきや、そうではないらしい。

「こいつも片付けておかないとな」

恐ろしい台詞にトマリが飛び起き、ソファーの背もたれによじ登る。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!大丈夫!あの夜のこと今からばっちり思い出すから!」

「無理に思い出されても意味無いよ。記憶なんていい加減なもんだ」

フロロの吐き捨てる台詞にクーウェニ族の男の顔は可哀想な程、綺麗な紫色になっていった。

「大丈夫、悪いようにはしないさ」

悪い顔で言うアルフレートに引いていると、彼は窓の方を見る。すっかり雨の上がった暗がりがカーテンの間からちらりと見えた。

「やるなら暗い内だな。……おい、ヴェラを起こせ」

「ヴェラを?」

セリスが驚きを露にして聞き返すが、アルフレートは頷いてみせる。また先程のようにトマリを魔法で縛り上げるとデイビスに視線を送る。

「ブン殴れ」

アルフレートに言われたデイビスは少し前の勢いは何所へやら、「冗談だろ」と口ごもりながら頬をひく付かせた。

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