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タダシイ冒険の仕方5  作者: イグコ
三章 少年は仮面を破る
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4

城に戻ったわたし達を出迎えたのはブルーノだった。裏口からの通路の先、芝生の上に立つ姿はその威圧感とは対照的になぜか儚げに見えた。

「国王がお会いするそうだ」

「え」

思わず戸惑いの声が出る。会うってこれからだろうか。

「今すぐ?」

セリスが尋ねるとブルーノは深く頷く。

「短いが空き時間があるそうだ。他の仲間は謁見の間の前にいる」

そう言ってさっさと歩き始めるブルーノにわたし達は顔を見合わせた後、ついて行く。王様ってそんなに忙しいのかな。分刻みの生活なんだろうか。

「よく考えてみりゃラグディスの一件なんて、王様自ら褒めてくれてもいい話だよな」

デイビスの軽い口調に焦るが、ブルーノが咎めてくることはなかった。わたし達に慣れた、ということかもしれない。

城の中に入り、前を行くブルーノにそのままついて行くこと暫し、二階建ての建物程ありそうな高さの扉が見えてきた。その光景に圧倒される暇もなく見知った仲間が駆けてくる。

「おかえりー!ちょっと聞いた?」

興奮気味のローザに落ち着くよう手で示すと頷く。

「今聞いてきた。いきなりだから焦ったわよ」

「そうよねえ、あたし達もさっき急に言われたのよお。誕生日会まで会うことないと思ってたから慌てちゃったわあ」

オカマ全開の口調に脇にいる兵士の目が泳ぐ。王子の友達って聞いてたのに、というところかも。

城に残っていた他のメンバー、サラとアルフレートは普段の様子と変わらない。アルフレートに至っては黒いオーラを撒き散らす不機嫌顔だ。昼寝の最中を起こされたのかもしれない。

どこからやって来たのか、すうっと現れた侍女がブルーノに小声で何か伝える。

「開けろ」

短い命令に兵士二人が両開きの扉を開けていく。大掛かりな様子に緊張してきてしまった。

「はあ……」

中の光景にローザが感嘆の声を漏らす。広い広い謁見の間は明かりが届ききらないのか薄暗い。でもそれが重厚な装いをかもし出しているようにも感じられた。奥の階段の上に王座が並んでいる。右が国王で左が王妃に違いない。国王の横に立つエミール王子がこちらを見てにこにこと微笑んでいる。

「王冠かぶってねーじゃん」

アントンのお馬鹿な感想にセリスが彼の足を踏みつけた。

ブルーノに手で促されるままに前に進んでいくと国王夫妻の様子がよく見えてくる。二人とも見事な金髪だ。エミール王子もレオンも王妃似なのかもしれない。国王は意思の強いそうな目元に太い顎、ととても男性的な人だ。

自然と観察するように目が動き、王妃を見た瞬間、息を飲む。美しい、というものあるが若い。陳腐な言葉で申し訳ないがとてもエミール王子程の子供がいるようには見えないのだ。微笑む顔は王子によく似ている。座る体勢でも窺えるすらりとした全身に「王子って大人になったらかっこいいだろうな」なんて考えてしまった。

王達のいる場の下、段の前でわたし達が横並びになるとブルーノは国王に向かって頭を下げる。

「ラグディスで大変な働きを見せた冒険者達です」

ブルーノがそう伝えると国王は軽く頷き、立ち上がった。そのままゆっくりと降りてくる姿に心臓がばくばくと音を立てる。予想していた展開としてはこのまま座る王様に一言二言貰うだけだと思っていたからだ。

一番端にいるデイビスから順に握手し、何か短く話している。国王が終わると王妃と挨拶する。段々と近づく自分の番に緊張で手に汗を掻くのと同時に「イルヴァが変なこと言いませんように」と祈っていた。

「リジア・ファウラー様です」

国王の横にいる男性がわたしを手で示しながら国王に伝える。差し出された手を握ると温かかった。

「ラグディスでの騒乱、それを鎮めた働きは聞いている。……感謝している」

「もったいないお言葉です」

そう答えながら、わたしは王のまっすぐな目を見据えてしまった。感謝とは王子のことなのか、レオンのことなのか、瞳を見る限り後者の色合いが濃いように感じてしまった。

「ソーサラーだとお聞きした」

「まだ見習いですが……」

「厳しい学問の道だね。頑張りなさい」

わたしは深く頭を下げる。これで「よっしゃがんばるぜ!」なんてやる気がモリモリ、とはいかないが重い言葉を受け取れた気分だ。

溜息をつく間も無いまま、王妃が目の前に現れる。やっぱり近くで見ても綺麗な人だ。少し赤く染まった頬が少女のようだ。

「魔法使いさんなのね」

出てきた台詞も少女そのものなのに少し面食らったが、国王に返した言葉をそのまま口にする。

「羨ましいわ!私も魔法使いになりたかったのよ。空を飛んだり、良いわね」

「簡単な魔法でしたらお教え出来ます」

わたしが言うと王妃は嬉しそうに笑った。とても貴族様には見えない無邪気さだ。

「ウェリスペルトからいらしたのよね?」

「そうです」

「ローラスは良いところだと聞くわ。私も一度行ってみたいの」

行ったことないのか、と驚くと共に「ウェリスペルトの名産品持って来ました」なんて言いそうになる。これはお誕生日会まで出さない方がいいよね。



謁見の間を出ると誰ともなく大きな溜息が重なる。

「肩凝るな、こういうのは」

デイビスがやれやれ、といったように首を回す。その様子を見ながらヴェラが低い声でぼやき始める。

「でも皆さん、なんだかんだできちんと応対してましたよね……。私緊張で全然駄目でした……」

失神寸前の顔で「はいー」しか返してなかったもんな。でも普段からそれに近いような、というのは黙っていよう。

周りの侍女に促されることで歩き出した時だった。

「どうしたのよ!」

サラの声に振り返るとイリヤが膝をついている。顔色も悪いし何かを振り払うように頭を振る姿に背中がひやりと冷えた。

「ちょっと……、ごめん何でもない」

「何でも無いってなんだよ。貧血か?」

イリヤの返答にアントンが舌打ちする。そのやり取りの横でアルフレートがすました顔のまま言い放つ。

「部屋に戻るぞ」

ここでは言いにくい『何か』があると踏んだのだろう。アルフレートはイリヤを起こしながら声を掛ける。

「お兄さん、あんたここじゃ力使わん方がいい。あんた純情過ぎるんだよ、その力持つ割には」

呟きに近い声だったが、イリヤはそれに何度も頷いてみせた。



「で、何があったの?」

セリスが腕を突くとイリヤはぼーっとした顔のまま口を開く。

「真っ黒い、何かが急に襲いかかってきて……食われるかと思ったんだ」

イリヤの部屋に集まった全員が床に円を作って座り込み、彼の話を聞いている。なぜ床に座り込んでいるのかと言われれば、落ち着くから、というのと何となく隠すべき話だと感じているからだろう。

「黒い何かって……やっぱり精神の話しよね?」

わたしが聞くとイリヤは一瞬の間の後、頷く。

「国王と握手した時に『あれ?』って思ったんだ。彼は俺らの事、あんまり来て欲しくなかったと思ってる」

「……そんな気配、微塵も出してなかったな」

ヘクターの呟きはイリヤを信用していない、というより国王の態度に感嘆したようだった。

「余計な動きするなよ、ってところか」

アルフレートは急に生き生きとしだしたようだ。ブルーノの事といい、知恵比べの気配にやる気が出てきたのだろうか。

「そんな感じかもな。……まあとにかくそういう雰囲気があったんで、広間を出る瞬間に探ってみたんだ」

イリヤは「そしたら」と暗い顔で続ける。

「感じたことのない真っ黒い何かに、頭から丸呑みされるような感覚がして意識が遠くなったんだ。多分ショックからだと思うけど」

話しを聞いて皆、何ともいえない顔で固まる。わたし自身、少しでも動けばイリヤの言う黒いものに飲み込まれそうな気がしてしまって動けなくなっていた。

「で、その危ない思考してんのは誰なんだ?やっぱり国王なのか?」

デイビスが眉を寄せながら尋ねると、イリヤは首を振る。

「分からない。あの場にいた……国王かもしれないしそうじゃないかもしれない。王妃かもしれないしブルーノかもしれない。エミール王子かもしれないし」

「それはちょっと・・・・・・無いんじゃない?」

わたしは少し声が大きくなってしまった自分に恥ずかしさは感じつつ、イリヤの目を見る。

「うん、無いと思うよ。でもそれくらい誰だか分からなかったってこと。それ以外の大臣とか、そういう人もあの場にはいっぱいいたし」

なるほど・・・・・・。エミール王子とはラグディスから何度も顔を合わせてるから、イリヤが王子の内面を判断出来ていなかったって線は低そうだけど、ブルーノなら分からないかも。こっちに来て丸っきり雰囲気が変わってたとも言っていたし、何より彼はわたし達に負い目がある。それに『真っ黒な何か』って物を精神的な攻撃と見るなら、そういうものに長けていそうなのが彼になるわけだ。



夕飯の後、わたしはベッドに横になりながらファムさんに尋ねる。

「どう思う?」

「今の話を纏めると、要するにあなた方を『何故か敵対視』している人物は誰か、ってことですよね?」

予想通り頭の回転の速い彼女に嬉しくなりつつわたしは頷く。ファムさんは暫く眉を寄せていたが、口を開く。

「私もエミール殿下はありえないと思います。嘘をつくのさえ、下手な方ですもの」

「他はあり得る、ってこと?」

起き上がるわたしに紅茶を手渡しながらファムさんは首を傾げる。

「王妃もない、と言いたいですけどね。でもイリヤさんとは初対面なわけですから、彼のように内面を覗ける力が無い私達は『表の顔』しか見てないのかもしれないですし。まあ、エミール殿下と王妃様は似ていらっしゃいますよ」

わたしの受けた印象と同じということか。となると残りは・・・・・・ブルーノか国王ということか。もちろん第三者もあり得るのは忘れてないけども。

わたしの表情を見たのかファムさんは深く息を吐く。

「もし国王が、という事態なら私もあまり深追いはお勧め出来ませんね」

「どういうこと?」

侍女としては当然の台詞だが、何とも彼女らしくない言葉にわたしは少し驚いていた。

「この国全体が大きく揺れ動く事態に成りかねない、と思うからですよ」

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