第七話 様子見
空母の艦名って難しいですよね。
今回も戦闘前の話になります、しばしお待ちください。
―ジルヨ星系 第三惑星軌道
餐界の群れは大型個体を中心にして、立体的な矢じりのような陣形を組んでいた。目的地は恐らく最寄りの居住惑星だろう。餐界は基本的に星系内でのワープを行わない、それが習性なのか単に重力勾配に弱いのかはわかっていないが、ひとまずこの星系を抜けるまではワープはしないだろう。
「…バカみたいな数だな、あのデカブツも初めて見るやつだ」
第三惑星軌道より外側に広がるアステロイドベルト、その小惑星の裏側に一機の複座偵察機が張り付いていた。有人機はエストライでは珍しい、無線封鎖状態での隠密偵察や複雑な任務における嚮導機としての任務ぐらいしか行わないからだ。
「データは取っておきました。どうします、門鴇に戻りますか?」
後ろの座席にいたナビゲーターが声をかける。連絡を取ろうと思えばとれるのだが、餐界はどういうわけかある程度、超空間通信の内容を把握できるらしい。ジャミングをかけてこちらの位置をぼかしたとしても、少なくとも見られていることぐらいは把握するだろう、となると動きを変えてくるかもしれない。
「そうだな。数と針路はわかったし、帰るか」
偵察機はスラスターを吹かして小惑星から離れる、そのままエンジンから光を迸らせて急加速し離脱していった。
―オラット星系 第二惑星重力安定点
灰色の岩だらけの惑星を背景に、青と水色の光が渦巻く。その渦潮から数十隻の艦艇が次々滑り出てくる。
「乙七任務部隊全艦ワープ終了確認~」
ワープのわずかな余韻が消えた艦橋にどこかユルい声が響く。
「各部チェック、特に機関は念入りに」
艦長がそう指示を出す。艦隊が集結次第すぐに戦闘になるだろう。先日も餐界と戦ったばかりで、各部に負荷がかかってしまっている。
「今回は一筋縄ではいかなさそうですもんね」
火器管制や武装の点検を行いながら、戦術長が誰ともなしに呟いた。
「うん、本隊所属の偵察隊からの報告だと相当数が多い上に、妙に統制が取れてるらしい」
そのつぶやきを拾って艦長が情報を共有する。
「この間戦ったやつらとは全然違うはず。春薙、全艦艇に念入りに点検するよう指示しておいて」
「了解です~ 乙七の全艦艇へ、集結前に念入りに点検してください」
春薙が周りの艦艇に連絡する。と同時に少し離れた空間が歪んだ。
「次空震観測、IFF照合。第71航空戦隊。甲七任務部隊が到着したみたいですね」
ひとまず一個戦隊の信号だけ確認してから、通信士がレーダーを見て報告する。
想定より早い空母を中核とした任務部隊の到着を見て、艦長が驚いたように口を開く。
「もう来たのね。ジルヨで偵察してから合流するって聞いてたんだけど」
「門鴇から映像で偵察情報来ました、メインモニターに出します」
そう言いながら通信士はコンソールを操作する。艦橋にいた全員が上のモニターに視線を向けた。
「こいつは…」
戦術長が絶句する。第721駆逐隊からの報告よりも明らかに数が多い、その上陣形が整っている。
「この間のやつらもちょっと戦ってすぐに逃げてたし、なにかあるよね…」
裏に何かがいる、それは前線で戦っていたものだからこそ出る違和感だった。ただの群れではない、艦隊になっている。
「…門鴇と連携開始、陣形編成を開始します~」
その思考を遮るように、春薙がいつもの調子で動き出す。わかったところでやることは変わらない、やり方が変わるだけだ。航海長が空気を変えるようにため息を一つ吐いてから口を開く。
「わかった、オートに変えるぞ。操艦は任せる」
「いただきました~ 戦隊各艦連動、第二空間跳躍序列へ」
操艦権限を委譲された春薙は戦隊ごとに最適な配置を計算し、それぞれのサブフレームへ位置を指示する。
80隻近い数の艦艇が一つの群れのように形を変えていく、その動きがある程度落ち着いたころ、オラットの太陽に覆いかぶさるように光の渦潮が見えた。
「IFF照合、第71戦隊。第七遊撃艦隊本隊です」
もうすぐ戦闘が始まることがほとんど決まったからか、多少の緊張が見える通信士がそう報告する。
「思ってたよりも遅かったね。距離的には一番近いと思うんだけど…」
第七遊撃艦隊が駐留していたフォルド星系は、単純な距離で言えばオラット星系から50光年程度だ。ワープ二回程度で行ける距離であり、春薙たち乙七や門鴇たち甲七が駐留していた星系よりも近い。何かトラブルでもあったのだろうか。
「あ、721駆逐がいますね。無事でよかった~ 蒼城たちは合流を待ってたんじゃないでしょうか?」
艦長の疑問に答えるかのように春薙が持論を述べる。
緊急ワープは多少の場所の融通が利くが、周りでほかの艦のワープアウトがあるとそちらに引きずられるケースがよくある。時空間の潮の流れに無理やり乗るので、ほかの艦が出るときにその流れに巻き込まれるのだ。
とりあえず無事でよかった、と春薙の艦橋は安堵した空気になった。
一方で蒼城の艦橋は物々しい雰囲気になっていた。
「全艦ワープ終了、各部点検行われたし」
蒼城は真面目な声色で艦内に放送する。
「みんな集まってるみたいね。よし、陣形を再編してジルヨに行こう。ワープされると面倒だから。あと721はここで分離、さすがに戦闘には参加させられない。ここの小規模ステーションで応急修理後にフォルドに向かわせて」
艦隊指揮官のフィルナは淡々と指揮を出す。とにかく時間が惜しい、ただ急いては事を仕損じる。深霧たちを途中で拾えたのは幸運だった、負傷者はいるようだが死者はいない、最高の結果だ。
「了解、陣形変更、第二序列へ」
「春薙及び門鴇より指揮権が返還されました、甲七と乙七、第七遊撃艦隊へ再編成されます」
航海長の復唱と、通信長の報告が重なる。
「…え? 指揮官、天翔と黒鯨からなんですが、ジルヨ星系に第二の二個巡洋戦隊と三個駆逐隊回したらしいです。どうします?行き先変えてもらいます?」
予想外だったのか、蒼城が先ほどまでの真面目な声色を忘れて普段の口調に戻った。第二打撃艦隊はジルグラードへの牽制も込めてたか座方面にいたはず、行き先を変えずともこちらがジルヨ星系に着くのが先だろう。
「行き先はそのままで大丈夫よ。それよりワープを急ぎましょ」
「了解です、陣形は組めました。いつでもいけます」
蒼城はコク、とうなずき、航海長は準備万端そうである。
「よし…第七遊撃艦隊全艦ワープ開始、目標ジルヨ星系第五惑星軌道」
「ヨーソロー、全艦艇連動。ワープ開始!」
空間自体が震えているのではないかと思えるような機関の音が響く中、艦隊を包むように光の糸が集まっていく。数秒後にはつい先ほどまでいた艦隊が、光の残渣をわずかに残して消えていた。それを見送った後、4隻の駆逐艦は第三惑星の軌道上にある小規模な宇宙港へと針路をとった。
オマケ
艦艇解説
奏薙型巡洋戦艦
全長:298m
武装:30.5cm連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔
4基8門 (上部前方2基 後部1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計40セル
(上部と下部に12セルずつ 両舷に各8セルずつ)
80cm銛雷発射管 計8門
(艦首4門 四連装旋回式発射管1基)
13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔
両舷各2基4門
多目的投射機 6基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 24基
40.2cm艦首固定式集束炸裂型陽電子砲
艦載機搭載数2機
同型艦:8隻
第七遊撃艦隊の主力巡洋戦艦。
量産型蒼城を目指した艦艇、蒼城と同様に単艦での戦闘能力よりも艦隊での戦闘機動を重視している。近接戦闘も考慮しているため、副砲と空間機銃に関しては蒼城と同等かやや上回る水準。




