ー幕間ー 警邏艦灰墨 艦橋ログ
星間護衛総隊の主任務には、通商路の護衛だけでなく、星系内の航路誘導なんかも含まれております。
特に灰墨は首都星系担当なので、これからもちょくちょく出番があるかもしれないですね。
-海皇都から17万キロ エスト星系
翠暦3172年9月13日、海都時間午前6時45分。
昨日行われた「生亡戦争終戦十周年記念式典」のために、首都星系は普段よりも賑わいを見せていた。こういうきっかけがなければそうそう首都に来る必要がない、というのも一つの理由だろう。
エスト星系担当警邏艦「灰墨」は、星系内の航行管制や誘導といった定常任務に当たっていた。
宇宙には昼も夜もない。だが人間というのは、ある程度の生活リズムを保っていなければ、簡単に体調を崩してしまう。そのため、ほとんどの艦艇では海皇都中央区の時刻を標準時として採用している。
警邏艦の通常のシフトであれば、早番の乗組員は8時から勤務開始となる。
遅番の者にとっては、後もう一踏ん張り、といった時間だった。
当直の戦術長が大きく伸びをする。
警邏艦の戦術科など閑職もいいところではあるが、一応軍艦である以上失くすわけにもいかない。
「右方向より次元震、信号照合、『すみれ4号』。海皇都永栄区直行高速便ですね。」
艦のサブフレーム、灰墨が窓の外を眺めながら言う。
「あいあい、予想航路に障害となるオブジェクト無し、他の艦艇との間隔も問題無し」
通信士がレーダーを見ながら軽く返す。
そのまま誘導して、軌道管制に引き継いどきますね」
「あぁ。それでいいぞ」
戦術長も許可を出す。大型の艦艇-例えば戦艦ほどの大きさになると、誘導するために先導する必要があるが、普通の民間船程度の大きさならその必要はない。むしろ彼らの方がこのあたりの航路には慣れているほどである。
「…おっと、軌道管制から引き継ぎ来ました。外務省専用艦『和律』及び第三遠洋艦隊出発します。とのこと」
通信士が少し真剣な口調になった。
「えーっと目的地は『シュターヌ』… 灰墨、どこのこと?」
そのまま灰墨に尋ねる。聞いたことのない名前だ、少なくともこの近辺の星系や惑星ではないだろう。
「…惑星シュターヌはカラン恒星系にあります。つい最近連合に参加した惑星国家らしいです」
灰墨が思案するように少し目線を上にあげながら提案する。
「たか座方向ですので… コース014がいいかと」
「了解、友鶴に連絡しときます」
通信士がコンソールに向き直る。星系内の各航路はある程度設定されており、銀路ほど決まってはいないものの、それぞれの艦のサブフレームや航海士であれば大体の道順が分かるようになっている。
「こんな朝早くから大変だな… いや向こうだと8時ぐらいか?」
と戦術長が呟く。当たり前だが海皇都の中でも区によって時差はある。例えば今の時間だと中央区は早朝でも工業地帯の広瀬区は夜中だ。
「航海士、先導行くぞ。緑扇星軌道まではワープ禁止区画だからな、そこまでは誘導だ。」
「了解です。両舷半速、取舵25」
航海士が海皇都の軌道上都市区画へ向けて舵を切る。海皇都の端から主星の光が見えた。
「本部より入電です。『現在かご座方面で餐界の進出を確認、国防艦隊対応中により航行には注意されたし』」
通信士が護衛総隊本部からの指示を読み上げる。かご座はたか座方面へ向かう際に通り道になる。
「わかった。多分旗艦ネットワークで友鶴も知ってるとは思うが一応連絡入れとけ」
と戦術長は応じた。
「旗艦ネットワークって何です?」
操艦中の航海士が前を向いたまま尋ねる。
「ん?ああ、艦隊旗艦のサブフレーム同士は結構密に連絡とってんだ。俺らで言うチャットグループみたいなのを持ってる、みたいな感じでな」
昔取った杵柄ってやつだ、と戦術長は話す。
「へぇ~ そういえば戦術長って確か…」
友鶴への通信を終えた通信士が思い出したかのように口を開く。
「…そろそろ反転します。ハタラさん、友鶴に通信お願いしますよ」
航海士がハタラ通信士に声をかける。
「あ、了解。警邏艦灰墨から旗艦友鶴へ、コース014を誘導する。我に続け」
窓の外を流れる星を見ながら、戦術長は昔を思い出した。
「戦術長。交代の時間だ、変わるぞ」
聞きなじみのある声をかけられて思考が中断される。
「ああ、わかった。航海長へ任務を引き継ぐ」
「航海長、承った」
「戦術長、お疲れ様でした」
もう交代の時間になっていたらしい、灰墨の挨拶に軽く返事をしながら艦橋を後にする。他の要員もじきに交代するだろう、飯を食って休むとするか。
ただ唯一気にかかるとすれば、かご座の餐界だ。あそこには第七遊撃艦隊が出張っているらしい。古巣の無事を祈りつつ、戦術長は食堂に向かって歩みを進めた。
オマケ
艦艇解説
有彩型警邏艦
全長:92m
武装:13.2cm連装実体弾兼用集束徹甲式陽電子砲塔
2基4門 (上部前方1基 後部1基)
垂直ミサイル発射管 計12セル
(上部と下部に6セルずつ)
多目的投射機 4基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔4基
艦載機搭載数1機
星間護衛総隊の主力警邏艦 主任務としてはそれぞれの星系内においての航路管制や艦艇の誘導や臨検などを行う 場合によっては密輸船の摘発や追跡任務を行うこともあるため 最低限の武装は搭載されている
本格的な戦闘に関しては全くと言っていいほど考慮されておらず そもそも護衛総隊艦艇が最前線に投入されること自体が異常であり その時点で敗北しているという護衛総隊引いては統合司令部の意思の表れでもある
一般論として警邏艦のサブフレームは 国防艦隊所属艦艇のサブフレームよりも民間に近いこと 規律が比較的緩いことから 身につける物や身だしなみの点においてかなりの個性が出るらしい




