第六話 狩りの時間
ようやく戦闘シーンになりました
艦隊戦になるとさらに書くのが難しそうです…
―ジルヨ星系外縁部
何本ものミサイルが、一斉に宇宙空間を突き抜けていく。一拍置いて、円形状に爆炎が広がる。
「着弾!」
「敵艦隊変針、こっちへ来ます」
分艦隊の救援に向かっていた深霧の艦橋で、次々と声が飛び交う。
「白霧と若霧は無事そうだな、引き付けるだけ引き付けてから逃げるぞ」
深霧の艦長は冷静に命令を出す。目標は一つ、撤退までの時間を稼ぐことだ。
「深霧から白霧へ、ワープ準備いける?ひとまず逃げるよ」
『こちら白霧、潮が荒れていて今は難しいかも、もう少し距離取る。先に行ってて、すぐ追いつくから』
深霧と花霧から見ると右側前方に、白霧と若霧が全速で星系中心方向へ離脱していくのがレーダー上でわかる。
ワープするためには、時空間がある程度安定している必要がある。しかし餐界の個体がこうもワープアウトを続けていると、宙域そのものが歪んでしまう。そんな状態で無理にワープすればどうなるか分かったものではない。
餐界の群れは深霧と、その後ろにいる花霧に突進してきているのが目視でも分かる距離になった。逃げるなら今が最後のチャンスだろう、僚艦を置いていくなら。
「航海長、面舵一杯、最大戦速!戦術長、左砲戦用意、弾種徹甲、各砲塔自由射撃。傘も自由に使っていいぞ、とにかく時間を稼ぐ。」
「ヨーソロー、一斉回頭面舵180!機関最大戦速へ」
「了解、砲塔旋回します。VLSハッチ開け、11,12番発射始め!」
「花霧聞こえる?ひとまず引き付けるだけ引き付けて時間を稼ぐよ、白霧と若霧は早くこっちに来て!」
-そもそもそんな選択肢は存在しない。
艦全体が一つの生き物かのように動き出す、旋回に合わせて砲塔が回り、ノズルから青白い閃光が放たれる。
『こちら花霧、任されました』
『…わかった。すぐに行く、けどそれじゃ…』
「ついてくる奴らはこっちで迎え撃つから大丈夫。速いやつを叩いて、さっさと逃げるよ!」
後方にいた花霧が先に砲撃を始めた。砲弾は弾速と弾数に制限があるものの、有効射程はエネルギー兵器よりも長い。
白霧たちが転舵してこちらへ向かってくる。白霧たちを追っていた餐界も一緒だ。朝霧型の速力は基本的な餐界個体よりは速いものの、高機動型の小型個体には追い付かれてしまう。
-ただ違和感がある。今回の個体たちはまるで「戦い方を知っている」ようだった。今までの場合単に突っ込んでくるだけだった小型個体が、回り込むように包み込むように迫ってくる。
「オルム個体多数、射程内です!」
レーダー手がそう叫ぶ。
「照準完了!」
深霧が瞬時に照準し、砲門はピタリと狙いをつける。
「全砲門撃ちぃ方始め!銛雷発射始め、目標中型個体!」
深霧の砲塔から眩いビームが放たれた。高速で群がろうとする餐界の小型個体がほの青い閃光に貫かれて消滅する。その奥から開口部を開いて、今まさにエネルギーを放射しようとしていた中型個体は、銛雷が突き刺さって爆発する。花霧は変わらず実体砲弾、それも間接炸裂型の砲弾を用いて小型個体を効率的に殲滅していく。
「敵艦発砲!」
「回避運動、底舵60、取舵20!」
「砲塔連動、射線を維持して射撃も続行」
「了解。各砲門個別照準良し!」
いつもはお調子者な深霧も戦闘となると、照準や僚艦との連動に集中している。そもそも余計な思考に割くリソースがないのかもしれない、とまさに余計な思考を頭の隅に追いやって艦長は指示を飛ばす。
「白霧と若霧が合流次第、全速で現宙域を離脱する。突破口開けるように、銛雷と傘はいくつか温存しておけ」
「了解」
戦術長が短く返答する。刹那、後方で爆発が起きた。
「…っ花霧被弾!損害は!?」
深霧が報告半分心配半分で通信する。
『こちら花霧。第3主砲塔と…後部の銛雷発射管が大破、航行に支障はない…はずです』
花霧から若干歯切れの悪い報告が返ってくる。恐らくまだ収拾がついていないのだろう。ただこのままではジリ貧だ、一刻も早く離脱しなければならない。
「白霧と若霧、合流しました!」
通信士がそう報告する。
『花霧はこっちが援護する、だから深霧は突破口を!』
対宙機銃で弾幕を張っている若霧から通信が入る。今しかチャンスはないだろう。今回の餐界の数は異常だ、百体を超える個体が一星系に集まることなど今までなかった。それもおそらく統制された群れが。
「火力を前方に集中しろ!傘は右舷に面上に展開!少しでいい、足止めする。」
「了解、VLS、13から16番発射始め。艦首銛雷一斉射!」
空間に水色の球がいくつも弾ける。突進していた個体が、壁のぶつかったかのように跳ね返され、中型個体のビームは内部で霧散する。
回り込もうとしていた個体は深霧の放った銛雷と白霧の砲撃で消滅した。
「全艦連動!緊急ワープ!」
「ヨーソロー!緊急ワープ!」
半ば無理矢理潮に乗る。激しい揺れの中、四隻の小型艦は光の渦に呑まれていった。
その後を追うかのようにして餐界が群がる。ただすぐに隊列を立て直し、暫し何かを待つかのように一ヶ所に集まった。
一時するとその空間が歪み、巨大な個体群が姿を現す。戦艦級とも言える大型個体が四体、そしてそれを守るかのように周りを動き回る中型個体が多数。前哨部隊と合流した彼らは悠々と、そして整然と動き出す。それは動物の群れというよりも「軍隊」のようだった。
「こちら第71航空戦隊、オルムの大群を確認した。数は、大型4、中型およそ30、小型多数、直ちに援軍求む。」
その報告に第七遊撃艦隊の指揮官である、フィルナは顔をしかめる。
「明らかにおかしいね… なんで急に…」
「…ひとまず第721駆逐隊は離脱に成功した模様です。どうしますか?一旦艦隊を集結させてからの方がいいように思えますけど」
蒼城がそう提案する。損傷があったとはいえ離脱できた以上、喫緊の課題だった救援任務は終わった。ただ遥かに厄介な問題が繰り上げられただけだ。
「…奴らがワープする前にケリをつけたいけど、一回艦隊を集めよう。戦術…いや戦略…?とにかく急にアイツらが賢くなった、ってことね。司令部にも報告お願い、多分これただの始まりかも」
「わかりました」
フィルナは一度考えをリセットする。難しいことを考えるのは上の仕事だ。今考えるべきなのは部下を死なせないことと自分が生きて帰ること、ついでに国を守ること。
「ワープ準備完了しました。」
「分かった。全艦へ通達、オラット星系にて陣形編成後、敵餐界群がワープする前に、これを叩く!」
「了解、全艦連動!目標オラット星系、跳躍開始!」
機関の音が一段階高くなるのを感じながら、フィルナは一つ深呼吸をした。
オマケ
艦艇(?)解説
オルムディア超個体群 基本個体
全長:190〜230m
武装:開口部ビーム一門
投射型強酸
捕食用触手多数
備考:オルムディア超個体群(餐界)における基本的な個体。より正確にいうなら一番餐界っぽい個体。
遠距離ではビームを発射し、近距離になると強酸や触手を用いて対象を捕食しようとする。
恐らく生物だろうとは言われているが、人工的なものなのか、自然発生したのか、そもそもなぜ宇宙空間で生きられるのかなど、多くが謎につつまれている。
エルディア側からの情報で「艦艇を捕食する」性質があることはわかっているものの、艦艇を「食料」としてみているのかすらわかっていない。




