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第四話 よくある緊急出港

ようやく艦隊が出てまいりました

多分この国で一番忙しそうな第七遊撃艦隊ですね

今後ともなにとぞ良しなに…

ジルヨ星系から銀河中心方向に68光年

フォルド星系 前哨基地

第七遊撃艦隊旗艦 蒼城


「そういえば指揮官は降りないんですか?」

寄港中の蒼城の艦橋で、船務長が艦隊指揮官に尋ねる。

艦橋要員を含めて、おおよそ半分かそれ以上の乗員は星系基地で休息をとっていた。

残っているのは当直だった者ぐらいである。

「ここの港狭いしね〜 結局こっちの方が快適だったり」

軽いノリで返すのは、明るい髪色を三つ編みにして横に流した女性。

艦隊指揮官という肩書きの割に、とてもフランクに話す。

「それに、なんか私が居た方がいいような気がしてね〜 な~んとなくだけど」

茶目っ気の見えるオレンジ色の瞳に、若干の影が差す。

先ほど星系基地を仲介して送られてきた通信、紹介中の第721駆逐隊の分艦隊が通信途絶したとの報告。

即応待機を出すには早すぎるものの、今更降りる必要もない。

「あまり不吉なことを言わないでくださいよ?フィルナ指揮官がそういうことを言うと本当になりそうですから」

艦橋の自動ドアが開き、一体のサブフレームが入ってくる。

この艦の主である蒼城である。

この指揮官あって、この艦ありと言うべきか蒼城自体もかなり砕けた性格をしており、

他の艦のサブフレームと話すときもこんな調子である。

「なに〜私のこと信じてないの?」

「信用してるから言ってるんです〜」

他の艦隊指揮官とサブフレームも、独特な関係性を築いている組も多いが、

ここは完全に悪友のようで公私共に仲がいい。

蒼城はフィルナの直感や機転を信頼しているし、フィルナは蒼城の状況把握と計算は信頼している。

乗組員同士や艦のサブフレームとの強い信頼関係は、戦闘時の即応力と即興での戦術を支えている。

そんないつものことと思えるやりとりをしていると、

通信が入ったことを知らせる通知音がした。


通信士が声を上げる。

「第721駆逐隊より入電です ジルヨ星系で…餐界と交戦中!増援求むとのことです!」

艦橋の空気が一気に張り詰める。

フィルナがため息を一つ吐き、

「もうやってると思うけど念のため撤退を優先するように命令、第七遊撃艦隊全艦出港準備!針路ジルヨ星系!」

と指示を飛ばす。


先ほどまで穏やかな休憩中だった前哨基地内にアラートが鳴り響き、艦内もバタバタと騒がしくなる。

航海士は出港前の点検を慣れた手つきで行い、船務長が現在搭乗中の乗員の名簿を確認し、

補助機関が起動した振動が微かに伝わってくる。

蒼城は基地の出港管制との交信を始める前に、

「嫌な予感ってなんでこんなに当たるんでしょうね…」

とため息混じりに溢してから仕事に取り掛かった。

フィルナは、

「そりゃあこの艦はフラグシップだもんね」

と言ったが慌ただしい艦橋でわざわざ突っ込む者はいなかった。


宇宙空間に浮かぶ独楽のような形をした、いたって普通の前哨基地。

大小さまざまな艦艇が並んで停泊し、

その間を基地本体から伸びたトンネル状の桟橋が葉脈のように伸びている。

アラートが鳴ってからすぐに、桟橋は慌ただしく歩く人たちでいっぱいだった。

上着を羽織りながら足早に歩く者、

通路を間違えていたことに気づき慌てて戻る者、

別の艦に乗る友人とあいさつを交わしてから分かれる者、

三者三様であり、それぞれが艦を動かすうえで必要な人材たちだ。


旗艦以外の艦の中も騒がしい、

特に機関科と航海科は出港準備のために指示や報告が飛び交っていた。

「補助機関始動」

「補助機関始動確認 回転数上昇 定格出力で安定」

起動時の低い駆動音が回転数が上がるにつれて徐々に高くなっていく、足の裏から軽く揺れを感じる。

補助機関ノズルがほの青く発光し、艦が目を覚ましたことが傍目でもわかる。

「補助機関安定了解、主機関に伝導開始」

「主機関への動力伝達開始 フライホイール回転数上昇中 起動回転数到達」

主機関の弾み車がゆっくりと回り始める、やがて主機関ノズルからも青白い光が見えるようになる。

「主機関起動」

「主機関点火 出力、回転数ともに上昇中 出力安定」

点火直後に一瞬、ノズルから強い青い炎が吹き出る、機関の音はより大きくなり、振動もはっきりとわかるようになった。

操作室は機関本体を見下ろせる位置に防音・防振措置を施されているため、音と振動は大したことはないが直に機関の横に立っていると、まともに会話することすら難しいほどの轟音が響いている。

福祉健康省と労働省が作業環境における騒音規定を定めるまでは、イヤーマフを付けて機関科員同士がハンドサインでやり取りしていたらしいが、今はそもそも稼働中の機関に近寄らないように決められている。

「了解 機関出港準備完了」

航海科は機関科とも連絡を取り合いながら、操舵系や姿勢制御系のチェックする。


機関科と航海科のやり取りを横目に、

通信科とサブフレームは基地の出港管制や僚艦との連絡で忙しくしていた。

「こちら第73巡洋戦隊所属、舞雪型航宙重巡洋艦 柚雪、出港の許可を求む」

「フォルド宙港管制より柚雪 出港を許可する。第31路を使用し出港、港内は微速で進行されたし」

「柚雪、了解した」


通信士が管制との連絡を終えると、サブフレームは僚艦に指示を送る。

「第73巡洋戦隊旗艦柚雪より戦隊各艦へ、各艦宙港管制に従い順次出港、港内管制路通過後集結。陣形形成後本隊へ合流する」

艦長はそれを聞きながら、航海長へ命令を出す。

「港内管制路に従い微速前進、付近の艦艇からの相対重力に注意しろ」

「了解。姿勢制御を自動制御に切り替え。微速前進ヨーソロー」

「いただきました。姿勢はこちらで補正しますので、操艦はお任せします。」

サブフレームの柚雪は引斥偏向装置や慣性平滑化装置を艦のメインコンピューターを通して制御し、

揺れやズレを限りなく減らしながら前進させる。


小回りのききやすい駆逐艦や巡洋艦から順番に出港していく、

宇宙港のいたるところで機関の起動する音とかすかな振動が伝わる中、旗艦の蒼城が出港した。


「こちら第七遊撃艦隊旗艦、蒼城。港内管制路通過後、各戦隊順次本艦の周りに集結せよ、陣形編成後ジルヨ星系へ向かう」

蒼城は真面目にそう連絡した後、

最寄りの重力安定点やジルヨ星系への最適針路を計算する。

ジルヨ星系までは二回ほど跳躍を挟めば到着するだろう、となると陣形は…

という処理の最中にフィルナが口をはさむ。

「陣形は未編でもいいから急ぐよ、早くしないと間に合わなくなる。

通信長、721から続報あった?できれば数と編成を知りたいんだけど。」

「ありませんでした。呼びかけてはいますが応答はありません…もしかすると…」

と通信長に被さるように戦術長が

「オルムどもがワープし続けてるかもしれない…ということですか。」

と確認するように話す。

誰も撃沈された可能性は挙げない、考えてもしょうがないことだとわかっているからだ。

「乙七と甲七にも召集命令をかけて。最悪に備えておかないと、司令部にも報告は上げたわね?」

「統合司令部には先ほど出撃の旨を通達しました。任務部隊は全艦を招集しますか?」

通信長がそう聞くと、

「今回の編成だともともと第七所属の戦隊しかいないしね、両方とも呼び戻して」

とフィルナが返す。

普段の陽気な自由人は影を潜め、オレンジ色の瞳は考え込むように前方を睨んでいた。

「蒼城から艦隊各艦へ、戦隊ごとに随時ワープ開始、ジルヨ星系にて合流する。」

蒼城がサブフレームの回線にそう流す。

「ワープ準備、機関臨界稼働!空間錨解除、加速開始!」

航海長がワープのための準備を始める、艦が滑るように、しかし一気に加速する。

前方の空間に光の渦潮のようなものが次々と形成され、それぞれの艦が吸い込まれていく。

艦が渦に飲み込まれる瞬間、体を強く引っ張られるような感覚を覚えた。


オマケ


艦艇解説

蒼城型巡洋戦艦 蒼城

全長:320m

武装:30.5cm連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔

   5基10門 (上部前方2基 後部1基 下部2基)

   垂直ミサイル発射管 計36セル

   (上部と下部に12セルずつ 両舷に各6セルずつ)

   80cm銛雷発射管 計16門

   (艦首8門 四連装旋回式発射管2基8門)

   13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔 

   両舷各2基4門

   多目的投射機 16基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基

   48cm艦首固定式集束炸裂型陽電子砲

   艦載機搭載数2機

同型艦無し


第七遊撃艦隊の旗艦を担う艦艇

単艦での戦闘能力よりも汎用性及び機動力による敵戦力の攪乱と分断を重視して設計されている

そのため艦隊としての連携能力が高く 戦闘機動と戦術面の判断の統率と最適化が行われている

サブフレームである蒼城は艦隊指揮官の影響もあってかなり砕けた性格をしているものの

想定される任務が威力偵察から増援までの遅滞戦術に至るまで多岐にわたるため

演算能力と指揮機能に関して優れている


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