-幕間- 動かぬ港
先史文明について
エストライが宇宙に進出するはるか以前から、この銀河には星々を渡る術を持つ文明は複数存在した。エルディアはその一つだが、エルディア以前の文明もあったことが最近の調査でわかっている。
エルディアの記録にすらない、そうした文明を総じて「銀河先史文明」と呼称される。現時点では後継を名乗る文明すらおらず、いずれも何らかの要因で滅亡したと思われる。しかしながら、遺された遺物はそれらの文明が、非常に高度な技術力をもっていたことを如実に示しており、それだけの技術を持った文明が果たして本当に滅亡したのかについては疑問視されている。
恒星自体からエネルギーを抽出したり、星系そのものを巨大な採掘場として利用したりするなど、現代の技術を超えた構造物が遺されている。一方で記録がほとんど残っておらず、どこからきてどこへ行ったのかは謎に包まれている。ある程度技術の共通点が見られることから、同世代の文明、あるいは同一文明の可能性が示唆されている。
再利用された遺物としてはフェルゼンが有名。
-出典:Spedia.org
-海皇都から銀河中心部方向へ1420光年
ラーレ星雲 航行警戒区域内
キト16星系 第二惑星
調査ポイント8-2地点付近
調査船甘藍
その惑星の表面は岩肌と砂に覆われていた。見渡す限り海も川もなく、薄灰色と黒の二色のみが広がっている。あまりにも色彩がない上に、大気も薄いので遠くの山々までいやにくっきり見えた。そのせいで距離感すら掴みにくく、自分が色を忘れてしまったかのような錯覚に陥る。
そんなただひたすら続く無音のコントラストの中に、明らかな「異物」がひっそりと佇んでいた。
「やっぱり…なんだこりゃ…?」
船外活動用の探査服を身に纏う、いかにも冒険家といった風体の男性がそう呟いた。
時は数週間前に遡る。
ー海皇都 星間交通省本庁舎 第21会議室
「…なんでまたバルジ帯の星雲の調査を?」
机上に投影された星雲の地図を眺めながら、大柄な男性が顎を撫でる。
銀河中心部周辺のバルジ帯。そこは星間物質の濃度が高く、レーダーやソナーを用いた探査や航路調査がし難い。航宙船舶にとっても過酷な環境であり、時空間の正確な測定が難しいためワープするのも容易ではない。
銀河中心部方向の星雲内が、拓路庁によって航行警戒区域として指定されているのにはそういった理由がある。
「先日、無人機を用いた星雲内の星系調査を行ったところ、この星系の内部で複数の無人機が不自然に消息を断ちました」
拓路庁の担当官が手元の端末を操作しながらそう答える。端末を抱えた左手の袖口から、チラリと鱗が見えた。
目の前の地図にいくらか変化が起きる。青い光点が数個動き回り、いっぱいに広がる星々をあちこち巡り始めた。そのうちの一つが、ある星に近づいて直ぐに赤色に変わった。後を追った光点も、直ぐに赤色に染まる。
「敵対的な宇宙生物の可能性は?」
合計で3つの光点が赤く灯るのを見つつ、今度はひょろりと背の高い、いかにも学者然とした男性が声を上げる。
オルムディアのように、宇宙空間でも生命活動を維持できる生命体はいくらか確認されている。その中にはこちらに無関心なものから、艦を外敵あるいは獲物と見做して襲いかかってくるものまで幅広く存在していた。
「その仮説も上がったのですが、通信が途絶する直前まで、無人機が攻撃を受ける予兆や痕跡は見つかりませんでした。そのため我々としては、星系内の何某かがジャミングを行なっているのではないか。と考えています」
担当官がそう続ける。
無人機といってもある程度は自律で動けるものだ。攻撃の予兆があれば自動で回避する程度の芸当はできる。もし仮に母艦との通信が途絶した場合、通常であれば一度引き返して再通信を試みるようにプログラムされている。それすらしないとなると、何かしら人為的な要素を疑わざるを得ない。
「一応聞いときますが、星系に進入した瞬間ボガンってことは?」
再び大柄な男性が質問する。
有人の調査船で行くにしろ、軍艦でない以上自衛能力や耐久性には不安が残る。
「それについては、星系外縁部から限界点を探った機のデータからするとまずないかと。通信を断つ直前まで、重力震や電磁波の類は観測されていません」
担当官は安心させるようにそう答える。
攻撃されたわけでも、星系内の異常環境によって破壊されたわけでもない。ある一線を越えると無人機が帰れない、というだけだ。それ自体が異常ではあるのだが。
「つまりは無人機の回収と原因の特定が第一ということですね?」
「はい。この合同チームで探査に向かう予定です。調査船はあの辺りに慣れている、甘藍で行こうかと」
学者がまとめると、担当官は大きく頷く。
会議室に集まった40名ほどの人員は、拓路庁、航宙保安局、科学省、海京大学の研究室など官民問わず参加していた。
場所は戻り
-キト16星系
事前の報告の通り星系の外縁部を超えた途端、あらゆる通信手段が外部と切断されてしまった。しかし、反転して星系から離れると、再び通信が繋がる。そんな異常が見られるのはこの星系だけであり、原因を探ろうにも外部からの観測では異常は見当たらない。
仕方なくそれぞれの惑星を、一つずつ直に調査していくことになった。通信が途絶する範囲を絞り込んだ結果、輪郭が星系外縁と一致しているわけではないことがわかった。仮に範囲が球状であると仮定した場合、中心に来るのは第二惑星だ。まずはそこから調査することに決まる。
甘藍は惑星に近づき、ひとまず片端から怪しげなものをポイントとして提示していく。それを考古学者や惑星地理学者や技術者が相談しつつ、優先度を決める。
あーでもないこーでもないという白熱した議論が交わされた結果、選ばれたのが8-2だった。
甘藍は高度を下げ、惑星表面まで降下する。上空から見てみると、山のようにも見える何かが砂と岩に覆われていた。
「測量及び走査が終わりました。現時点では人工物とは言い切れない、と言ったところです」
サブフレームの甘藍がメガネを押し上げつつ、艦内の会議室で報告する。
当然ながら本来サブフレームにメガネなんてものは必要ない。ただあくまで、装身具として身につけているサブフレームは意外と多く、個性を出すための一つの小道具となっていた。
「降りてみるまでわからない…って感じか」
大柄の男性、調査隊の隊長がそう言う。彼としては早く降りたくてウズウズしているに違いない。
「通信妨害をしていると思われる電磁波は、ほぼ間違いなくこの惑星が発信源でしょう」
科学省の研究者が続ける。
「なんらかのトラップがある可能性もあります。十分に準備しませんと危険やもしれません」
今度はエルディア人の考古学者がはやる空気を押しとどめた。
そうして降りる人員と活動時間といった必要な事項が決まっていく。
甘藍はそのポイントからやや離れた位置に着陸した。そこから出発した調査隊は、小型の輸送艇で例の「山」に接近する。
その手前の小高い丘を超えた調査隊の目に映ったのは、金属の光沢を放つ装甲に覆われた巨大な艦だった。数多のエアロックと思しき重々しい扉が並び、こじ開けられた中には、機体のように見えるものや、大破した艦艇のようなものまで見える。
ここまでであれば、放棄された異文明の惑星基地と納得できる。それ自体大きな発見ではあるが、更に異物が存在した。中央の巨大な開口部、恐らくエンジンノズルだろうが、エストライの戦艦を縦向きにしてもすっぽり収められるほどの大きさがある。
つまり、この巨大な構造物自体が推力を持ち、航行するだけの能力を有していたことの証拠と言える。
海も川もなく、空すら怪しいこの惑星でかつて役割を終えた港が、再び命を受けようとしていた。
(今回の艦艇解説はお休みです)




