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第二十四話 回る砲身

戦闘配食について


エストライに存在する多数の文化圏や種族を考慮した上で、「手軽」かつ「そこそこの味」かつ「腹持ちがいい」メニューが考案されている。

腹が減っていたり、飯が不味かったりするとまともに戦えないというのは銀河共通らしい。

味付けに関しては、それぞれの文化圏において美味いとされる味が異なるため、かなりの試行錯誤が成されたと聞く。結果的に大体どこ出身の人が食っても「不味くはないがこれ主食は嫌」という評価に落ち着いた。

基本的には穀類を水と共に加熱したものに食塩を加え、握って整形したものが主流となっている。

提案した人物の国家の郷土料理の一つであり、その地域出身の軍人からすると馴染み深いらしい。


ーフルト星系 第四惑星軌道

翠暦9月16日 海都時間0:37


「…ふゎ…」

第二種戦闘配置が出されている玄弾(くろひき)の艦橋で、ライゼはこっそりとあくびを噛み殺した。仮眠を取りつつではあったとはいえ、こんな時間まで働いているとさすがに疲れてしまう。

昼過ぎに司令部から命令があり、一澪(かずみお)を旗艦とする第83巡洋戦隊をシラーナル星系に派遣した。もう6時間ほど経つが準備や移動にも時間がかかるため、30分ほど前に星系外縁からの走査が終わったそうだ。順調ならそろそろ星系内部に到着する頃かなと思う。

「…シラーナル星系の星系地図と、観測された重力震の分析終わりました。メインモニターに投影します」

長い髪を弄り、手元のディスプレイをしばらく指で叩いていた玄弾が、不意に視線をこちらへ向ける。

それぞれ時間を潰していた艦橋要員が、切り替わったモニターを見上げた。投影されたのは特に何の変哲もない星系地図。それと外縁部やいくつかの惑星の近くには、薄い赤色の縁取りがされている。多分これが重力震が観測された位置だろう。

「現時点では餐界と断定できるほどの大きさの重力震は見つかりませんでした。ただし、天体が自然に発生させたにしては、揺らぎがやや大きいかと」

手元のディスプレイを操作して、モニター上の地図を動かしながら玄弾は説明を続ける。


オルムがワープするときには局所的に大規模な重力震が観測される。先のジルヨ星系の時は折悪く、第721駆逐隊が観測より先に接敵してしまった。本来なら隣の星系からでもワープの予兆を観測して迎撃態勢を整えることができる。

「浅く広い重力震…彗星か何かでもぶつかったんでしょうかね?」

モニターを見上げて航海長が推察を述べる。天体同士が衝突したり、高速で運動したりすると重力震は自然に発生する。ただそうした自然現象にしては、ライゼからすると違和感があった。

「…あの、玄弾。仮にオルムが分散してワープした場合の、重力震の予測モデルってありますか?」

玄弾にそう尋ねる。正直考えたくはないが、ここのオルムはおかしい。遠距離から観測されることを「弱点」と認識して、対策を練ってくる可能性もあり得る。

「えっと…仮にオルムディア個体群が、現在観測された重力震に収まるようにワープしたと考えると…もちろん個体の内訳にもよると思われますが…」

内部で計算を続けながら、玄弾が一旦星系地図の視点を引き気味にする。薄い赤色に塗られた領域、その内側にぽつぽつと赤い光点が端から現れ始めた。カウントされた数字が急速に増え続け、3桁を通り過ぎても止まらず、最終的に4桁に達してようやく止まった。

「ジルヨ星系に出現した群れと、概ね同様の配分と仮定した場合、予想される個体数は…約2000を超えるかと…」


あくまで推測値ですが、と玄弾は歯切れ悪く答える。戦術長が歯の間から息を吸い込む、スーッという音が聞こえた。航海長は頭をかき、ゆっくりと息を吐く。

「…ま、まああくまで仮説の一つですから、確定ではありませんし、単なる自然現象かもしれません」

凍り付いた環境の空気を溶かすように、ライゼは無理に明るい口調で話す。それでも万一の備えは必要だ。

「それでも念のため、陣形は整えておきましょう。シラーナル星系の方向へ回頭、82戦と83戦と共に第二砲撃序列へ、53宙雷と54、56、58巡洋戦隊は現状維持で」

念のため、と前置きしてからそう指示を出す。

あの時の会議での懸念事項がもし事実なら、ここのオルムは第七遊撃艦隊を模倣している。彼らが得意とするのは奇襲と機動戦だ。普通に考えるなら待ち伏せを得意とする第八要撃艦隊(私たち)とは相性が悪い。しかし逆に考えるなら、奴らは「第七の機動戦」しか知らない。エストライの他の艦隊の、それぞれの戦い方は知る由もないはずだ。そこが付け入る隙になる。

「了解。黒槌(くろつち)玄鉄(くろがね)へ、陣形変更、第二砲撃序列。即応待機は継続してください」

玄弾が淡々と僚艦へ命令を伝達する。

「一斉回頭、取舵30、天舵20、右軸転15」

陣形変更はほとんど自動操艦ができるようになっている。玄弾を基準として、周りに8隻の戦艦が陣形を組む。航海長が操舵輪を回すと同時に艦首の向きが変わり、遠くで瞬く星々の一つを、正面に捉えた。


艦が緩やかに停止した直後、通信端末が緊急を知らせる電子音を鳴り響かせる。

「…第83巡洋戦隊、一澪(かずみお)より至急電!『シラーナルにオルム大群確認!惑星はコロニーと化していると見られる』とのこと!画像データ、玄弾に送る」

通信長が内容を読み上げると同時に、玄弾が今まで投影されていたシラーナル星系の星系地図を消す。代わりに映し出されたその画像を見て、艦橋は再び凍り付いた。

「…これは…」

ライゼの口から、思わず言葉が漏れる。本来美しかったであろうその惑星は、今や宇宙から見てもわかるほどの大きな異形に飲み込まれつつあった。白い構造体は卵のような形をしており、それらがいくつもの線でつながっているように見える。惑星表面にも根を下ろし、星のその部分は赤黒く変色していた。

「83巡は既にワープで離脱した模様!フルト星系外縁、シラーナル星系と対角線上に出現予定!」

通信長が続報を読み上げる声でライゼは我に返る。こんな状況になっているとは思ってもみなかった。先ほど予想された2000体というのも、あながち無理のある仮定とは言えないのかもしれない。

「今の情報と画像を直ちに司令部へ転送!甲六へ増援要請!外縁の警戒を厳に!全艦第一種戦闘配置へ!」

ライゼは矢継ぎ早に命令を出す。シラーナルⅢが完全に拠点となっている今、ここに来るのが小規模な群れとは期待できない。恐らく来るのは迎撃に出てきた艦隊ごと踏みつぶせるような大群だろう。

もう時間はない。


通信士が司令部へ通信を試みている間に、別の端末がビープ音を激しく鳴らし始めた。

「哨戒中の47航戦、掩龍(えんりゅう)から至急電です!『オルム群確認、数1200と見られる。至急援護されたし』!座標きました!」

「こっちにください!」

通信士が受け取った観測情報を、そのまま玄弾へ回す。玄弾はそれを処理し、最適な射線を弾き出した。

「本艦および82戦は群れの中核に個別照準!83戦は拡散、面制圧!」

ライゼは先にそう指示を出す。点の砲撃ではあれだけの数を捌ききれない。

「目標の座標確定!出現まで15秒!」

「統制艦首砲戦用意、友軍艦艇や機体は直ちに退避」

玄弾の報告に合わせ、ライゼはいつの間にかずり落ちたメガネを上げる。

「了解!艦首砲充填開始、完了まで20秒!」

「誤差修正、取舵2、底舵3」

ほんの微かに、窓から見える景色が動く。同時に9隻の戦艦の艦首に、青い光が灯った。

正面に幾つかの青い花が咲く。それは艦を守る傘であると同時に、こちらの砲撃を広げるレンズとしての役割も果たす。

「全艦同期、個別照準問題なし。着弾誤差0.0021と推定、射線上からの友軍退避を確認」

処理に集中しているのだろう、無表情で淡々と玄弾が報告を続ける。誰かに聞かせるというよりも、手順を一つ一つ進めているような口ぶりだった。

玄弾の艦首に縦に並んで灯る二つの光は、徐々に青から水色へ、水色から白へと明度を増していく。それに伴って艦が僅かに振動を伝え始めた。

「射撃、用意よし!」

光が十分に明るくなった瞬間、戦術長が引き金に指をかけて言う。

「…全艦、攻撃始め」

光の透過率が落ち、暗くなった窓を見ながら、ライゼは静かにそう命じた。


「撃ぃち方、始め!」

戦術長が引き金を引く。同時に9隻の戦艦から10発の光線が放たれた。6発はそのまま直進を続け、一本の光の槍となって一直線に空間を貫く。残りの4発は緻密に計算された傘に反射し、拡散し、無数の矢となって槍の周りを覆う。音のない宇宙でも、まるで轟音を伴うようなその砲撃は、寸分違わずワープ直後のオルムディアの群れを呑み込んだ。

エネルギーの奔流は小型個体や基本個体の外殻を、意図も容易く引きちぎり、本体ごと消滅させる。600m以上の巨躯を誇る大型個体であっても、その装甲はエネルギー量の暴力の前では紙同然であり、真正面から呆気なく貫かれた。

光の奔流がその勢いを保ったまま、遥か彼方へ消えた後、そこには僅かなチリ以外何も残っていなかった。


「…反応の消失を確認」

静まり返った艦橋で、レーダー員がその沈黙を破る。

「直近の危機は去りました。しかし、本体を落とさないことには脅威はそのままですね…」

ライゼはほっと息を吐く。まだ予断は許されない状況だが、第一波は跳ね除けることができた。

やはり情報というのは大切だと、改めて思い知らされる。偵察がなければ、ここまで即座に対応できなかったろうし、エルディアからこの話を聞き出せなかったら偵察にも行かなかっただろう。

「引き続き警戒態勢を維持、反抗作戦については司令部の指示を待ちましょうか…」

ライゼの命令を玄弾が各艦へ回すと同時に、艦橋の扉が開く。

「戦闘配食〜!」

そこから一抱えある平たいコンテナを持って、給養員が入ってきた。その声を聞いて初めて、ライゼは自分が空腹だったことに気がついた。



第八要撃艦隊は待つ艦隊である。されど、熟した機は即座に刈り取る艦隊でもあった。


オマケ


機体解説

七一式航空機型戦闘偵察機「彩星(いろほし)

全長:14.5m

全幅:9.3m

武装:28mm対空間防御レーザー機銃

  (機首4門 翼部2門)

  パイロンに多目的多弾頭ミサイル2発懸架可能


巡視艦から空母に至るまで、あらゆる艦艇に搭載可能な汎用偵察機。

艦隊の目と耳となり、レーダーやソナーでは感知し難い距離まで広範囲に探査できる。大多数は無人機なものの、一部の機体は複座式の有人機である。

投入されるのは、長期的あるいは無線封鎖状態での作戦遂行能力が求められるケースが多い。


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