第二十一話 即応待機
黒鋼都について
国有工廠がある惑星。
首都圏からやや離れた位置に存在する。名前の通り鉱物資源が豊富だったことから、主に重工業を主産業として発展した。大規模な造船所が官民共に存在し、シャトルから戦艦まで幅広く手がける。
-海皇都 統合司令部 作戦司令室
照明がやや暗めの部屋は半分にされたすり鉢状になっており、デスクが並んでいる。その最も低い部分には、この部屋の中で一番目を引く大きな星図が投影されていた。
それぞれのデスクには、艦隊や任務部隊の配置、任務内容、目的地、観測データといったものが集まってくる。そのデスクに置かれたモニターには、「9/15 14:37:12」の表示がされ、それらの数字が一斉に進んでいく。
星図には領内の星系と既知の星系が、幾千もの光を放ち映像でも星海を作り出している。各艦隊や任務部隊が色分けされた矢印で表示され、星系同士を繋ぐ線として警戒ラインや補給線が網目のように走る。敵対勢力だけは赤色の怪しい光を放っていた。
「第七遊撃艦隊、みずつぼ座ゲートに到達。黒鋼都へ向かいます」
管制員の報告と同時に第七遊撃艦隊を意味するマーカーが、首都圏に向けて滑り始めた。
本来であれば亜空間内の座標は現時空間のそれと一致しない。しかしゲートを潜った瞬間に星図上から消えてしまうと、司令部としては扱いにくい。そのため星図上では、便宜上はゲート間の直線距離を移動する形で表示されることになっている。
「丙四任務部隊、フォルド星系に到着。哨戒を開始します。丁二任務部隊は乙二任務部隊と合流のためフォルドを出達、たか座方面へ移動を開始」
別の管制員が、かご座方面の星図を見ながら報告する。
白く輝く星々の一つに、紫と橙の二つの光点が並ぶ。橙色の光はその場に留まり、紫色の光が代わりに動き始めた。ジルヨ星系での戦闘はひとまず落ち着いたとはいえ、フォルド星系には引き続き駐留艦隊が必要だ。
「甲六任務部隊、ゲート通過。アラシマ星系で待機に入ります」
第六攻塞艦隊から派遣された、第68戦隊を主体とした任務部隊も進出してきた。フルト星系の圧力が現在派遣されている第八要撃艦隊の対処能力を超えた場合、あるいはジルヨ星系に第二波が来た際の抑えとなる。
フォルド星系で作戦中の丙四任務部隊は航宙機母艦主体である。仮に大規模な餐界の侵入があった場合、援軍が到着するまでアウトレンジ攻撃で遅滞戦術を継続する能力は十分ある。そう見込まれての配置である。
「第五機動艦隊各艦、黒鋼都を出港。一時アオレン星系で艦隊集結後、山野都星系港に入港とのこと」
一方で首都圏にいる第五機動艦隊には即応待機命令が出されている。第七遊撃艦隊が機能不全に追い込まれた現状で、即応部隊を全て前線に出すのは得策とは言えない。そもそも餐界の侵入路が、かご座方面からだけとは断定できない。
「エポスガト星系にて任務中の巡視艦嶺道より報告です。『敵隊見ゆ。数60、移動の予兆なし』」
この報告と共に星図の中でも外側の一つの星に、赤い光が鈍く灯る。
エポスガト星系は、ゲートのあるアラシマ星系から銀河外縁部方向に存在する、第三警戒ライン上の星系だ。ここで捕捉できれば、内地まで侵入される前に迎撃しやすい。
「近場の部隊を当てる。ゲート防衛中の戊一と甲六に戦力抽出打電。嶺道に詳細を送らせろ」
上段にいた士官が瞬きを一つしてから命令を出す。60体程度であれば普段の処理となんら変わりない。ただ今までいた第七遊撃艦隊が下がっていたため、機動力のある艦隊が減ってしまったのは痛手だった。
「嶺道より続報、『概数、基本個体20、小型個体40。一部個体が移動を開始、恐らくアラシマ方面とみられる』」
管制官が再び通信内容を読み上げる。
「己一任務部隊編成、合流後アラシマ星系を出達します」
また別の管制官が今度はコンソールを操作しながら報告する。編成としては第五機動艦隊の巡洋戦隊と、第一防衛艦隊の戦艦を主体としているものだ。
新たに編成された緑色の光点が、ゆっくりと動き始めた。
1階の司令室がいつものように冷静に素早く動いていた頃、総司令は6階の執務室で報告を受けていた。
「なるほど…シラーナル星系か…」
机の上には端末が置かれ、そこから人物が投影されている。こうすると離れていても、顔を合わせて話をしているように感じられた。
『現状、第三警戒ラインより外側は、調査が進んでいません。事前の偵察が必要かと』
通信の相手はスズナだった。ルイスが初創都でオルムディア研究局から聞いた話と、情報局から送られてきた資料と照らし合わせて報告してくる。
「そうだな、幸いライゼは偵察用に澪影型を出してたはずだ。こっちから言っておこう」
フルト星系に現在派遣されている艦隊は、戦艦9、航空戦艦4、軽空母4、重巡10を主力としている。艦載機は単独でのワープが不可能であるため、星系間を跨いだ偵察には向かない。となると必然的に軽巡にお鉢が回ってくる。
定位置に腰掛けていた天翔に目線を合わせる。彼女は頷いた後、何やら通信を始めたようだった。
『はい。…来ますかね?』
スズナは少し心配げにそう言う。フルトに第八要撃艦隊が到着したのは、今日の朝の話だ。また、ドックを開けるために移動しただけであって、第五機動艦隊の艦艇も完全には整備が終わっていない。山野都の軌道造船所でもうしばらくメンテナンスが必要だろう。少なくとも主力となる巡洋戦艦は、構造上の脆弱性を改善するために大掛かりな工事になってしまった。
「わからん、ただルイスの予想が当たってるなら確実に来る。全く嬉しくは無いけどな」
フルトに餐界が、それもジルヨと同じような統率された群れが来るなら、間違いなくシラーナル星系が原因の可能性が高い。ただそうなると、かご座方面のすぐ外側に、敵の拠点ができつつあることの証明になってしまう。
『では今は待ちになりますか?』
「そういうことだ」
両手を頭の後ろで組んで天井を見上げてから、アスーイは返事をした。
ひとまずは報告を待つしか無い。
別れの挨拶をしてから通信を切り、アスーイは再び天井を見上げる。
こちらにも艦艇の整備や補給ができる前線基地がもっとあればいいのに、と無いものねだりをしつつ、今ある手札でどう戦うべきか思案し始めた。
天井の模様は、今日も変わらない。
オマケ
艦艇解説
梢枝型巡視艦
全長:142m
武装:13.2cm連装実体弾兼用集束徹甲型陽電子砲塔
3基6門 (上部前方1基 後方1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計36セル
(上部と下部に12セルずつ 両舷に各6セルずつ)
80cm銛雷発射管 計4門
(四連装旋回式発射管1基4門)
多目的投射機 6基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 12基
艦載機搭載数4機
六八式汎用輸送機2機
七一式航空機型戦闘偵察機「彩星」
2機
同型艦24隻
星間護衛総隊所属の巡視艦。
高微細レーダーなどの配備によって、高い偵察能力を持つ。一方でコストの増大によって建造数は抑え目である。
戦闘能力に関しては警邏艦以上駆逐艦以下といったところであり、船体のサイズに対して武装は自衛程度に控えられている。対艦戦闘は重視されておらず、牽制と離脱に重点を置いて開発された。




