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第二十話 角と翼

星間交通省について


連合皇国成立初期に存在した「宇宙開発省」が分離されて設立された二つの省の一つ。

惑星間及び恒星間の物流を司る。

主要な下部組織としては、銀路を管轄する「銀路庁」、航宙船舶の航路の策定や維持を管轄する「拓路庁」、事故の救難や密輸の摘発などを行う「航宙保安庁」、宇宙の磁場嵐や恒星フレアなどを観測、予測する「宇宙気象庁」などが存在する。

宇宙開発省から同じく分離した、星上管理省との管轄上の境界線は軌道上環状拠点に存在し、「銀路中継ステーションからは星間交通省管轄、環状拠点自体は星上管理省管轄」という線引きがなされている。双方の原点が同じであること、持ちつ持たれつな関係であるため省間の関係は良好である。

一方で銀路庁と星上管理省の開拓庁においては、新規路線の建設を巡って対立することが多い。星間交通省内部の銀路庁と拓路庁の対立など、下部組織間の関係が良いとはいいがたい現状がある。


-海皇都からおよそ4600光年 ジルヨ星系から480光年 

からわし座方面 ユラマ星系

翠暦3172年9月15日


「あと2、3日でシュターヌに着きそうですね」

和律の外務執務室、ソファに女性が腰掛けている。カップを口元に寄せながら茶色の横髪を耳にかけ直した。

「予定通りですね。カルミさんは友鶴(ともづる)に居なくても大丈夫なんですか?」

向かいに腰を下ろしたアリスが、どことなくデジャヴを感じながら応じる。

「打ち合わせ、ということになっていますから」

カルミはそう言って軽く肩をすくめた。

同じ艦隊にいるのだから、業務連絡程度なら通信で十分なはずだ。要は遊びに来ただけとも言える。

「…それにしても、ゲートを抜けてからが遠いですね」

アリスはカップを持ち上げて苦笑する。

首都圏とみずつぼ座方面は亜空間貫通路(ゲートウェイ)で結ばれている。4000光年近い距離をわずか数時間で結べる画期的なものだ。

「あちこちにあれがあれば便利なんですがね」

今度はカルミが苦笑した。

「そんなことしたら銀路庁が黙ってないですよ?今でも拓路庁と揉めてるのに…」

アリスが首を横に振る。


航宙船舶が航行する航路策定などを管轄する拓路庁は、かねてより亜空間貫通路網構想を推進している。概要としては各地にゲートウェイを設置し、航宙船舶が安定して超光速航行できる航路を作る、というものだ。

しかし同じ星間交通省の下部組織である銀路庁からすれば、輸送需要のシェアを船舶に奪われることになる。当然ながら到底容認できるものではない。それは財務省としても同様であり、銀路の使用料は国庫にとって大きな収入源の一つだ。輸送需要が民間主体の船舶輸送に流れれば歳入が減るのは明白だった。

一方で民間企業やそれと繋がりのある産業省、艦艇が移動しないと意味がない軍部は推進派だ。企業としては遠距離輸送において自前の輸送網を整備でき、それまでかかっていた銀路の使用料を節約できる。軍にとっても利点は大きく、戦闘艦艇の移動はもちろんのこと、臨時の物資輸送の際に銀路では不便な点も多い。

定時輸送が鉄則の銀路において、臨時の輸送をねじ込むのは簡単なことではない。一度優先度を上げて割り込ませてしまえば、現場で融通を利かせてくれるものの、事前と事後の調整がかなり面倒だという話は文官のアリスも耳に挟んだことがあった。


「科学省の『お試し』で造ってみたものがここまで役に立つとは、あの時はお互いに思ってなかったでしょうしね」

カップをソーサーに置いて、カルミが話を続ける。

本来空間跳躍と呼ばれる超光速移動方式は、エストライの技術系譜においてエルディアが発祥だ。本来一定方向に流れる時間軸と、ある程度自由に動ける空間を歪め、折り曲げることでいわば「時間軸を横切る」ことができる。あくまで比喩の話にはなるが、山から海に注ぐ川の流れが普通の時空間のふるまいだとすれば、空間跳躍は源泉を崖に移動させてから、直接海に注ぐ滝のようだと言えるかもしれない。

「最初は銀路専用だったのが、『多数の船舶が自由に出入りしても問題ないサイズと安定度を確保できたから試しに造ってみたい』って流れでしたもんね…結局銀路は投射方式に切り替えましたし…」

テーブルに置かれた焼き菓子をつまみながら、アリスは答えた。


銀路の歴史はゲートウェイから始まったと言っても過言ではない。むしろ初期のゲートウェイは一連の構造体のみしか一度に通行できず面積も限られていたため、ゲートウェイを最大限に生かすために銀路という概念が生まれたとも言える。

今では正確にダイヤが組まれる銀路には向いている上、安価で整備性の高い「双方向量子転移投射方式」が主力になっている。未だにゲートウェイを使っているのは、それこそ首都圏の路線ぐらいだろう。

しかし、一般の船舶にとって、その量子投射方式は使いにくい。理由は単純で、それもまた「投射機一台につき一両」という制約があるからだ。一方でゲートウェイは、十分な面積と安定性さえ担保できれば自由に航行可能、かつ船舶の空間跳躍よりもはるかに長い距離を瞬時に移動できる、という大きなメリットを持っている。さらに科学省は、往路と復路で亜空間回廊の経路を分けることで正面衝突のリスクをかなり軽減することにも成功した。なお科学省ひいては開発した技術庁開発局は、ゲートウェイ網の整備に無関心である。造ったものを売ることに関してはそこまで興味がないらしい。


「そういえば…餐界の注意報ってどうなりました?」

一口かじった焼き菓子を飲み下した後、アリスは話題を変える。

「大したことはなかったみたいですよ、一応まだ注意報は出ているとは思いますが」

カルミがこともなげに答えた。ただ、アリスはそれにどこか違和感を覚える。

仕草は自然だった、目線だって泳いでいない。頭から耳でも生えていれば感情は読みやすいのだろうが、あいにく彼女の茶髪から飛び出しているのは丸まった角だけだ。

少しカマをかけてみることにする。特に何か知りたいわけではない、ただの興味本位だった。

「それならよかったです。どうも偵察隊が忙しそうに見えたもので」

「ええ、形式的なものとはいえ注意喚起されている以上、警戒しておくに越したことはありませんからね」

声の調子も普通だ。それでも何かが自分の中で引っかかる。しかし彼女は軍人で、なおかつ指揮官だ。部外者に話せないことなんて山のようにあるだろう。相手の裏の真意を読もうとしてしまうのは悪癖ですね、と思い直してその違和感を捨てることにした。

「…ふふ、アリスさんは疑ってる時、微妙に頭の翼が上向くんですよね」

「えっ…?あっ」

思わず自分の頭を触ってしまう。直後に古典的な手に引っ掛かってしまったと気づいた。

「あはは、アリスさんでも引っかかるんですね」

目の前の友人が笑っている。どうやらカマをかけていたことからバレていたらしい。

「参りました、ごめんなさいね」

力を抜いて背もたれにもたれかかる。声の調子からしても、怒っているわけではなさそうだ。

「警戒してるのはほんとですし、注意報がまだ出てるのもほんとです。ただ脅威自体は取り除かれました、万一に備えてるだけですよ」

さらに教えてもくれた。本当に良い友人を持ったと心から思う、同時に自分も外交官として精進しなければとも決意した。


「私もまだまだですね…はぁ…私の羽ってやっぱり動いてます?自分だとよくわからなくて」

ため息がちにアリスは尋ねた。彼女の右のこめかみからは、肘から指先程度の大きさの片翼が生えている。普段は畳んで、側頭部の形に沿って後ろに流しているそれをパタパタと振ってみせる。

「う~ん…さっきのは冗談としても、時々動いてますよ?うれしそうなときは跳ねてますし、というかどうやって動かしてるんですか?それ」

確かに感情が高ぶったような時だと、風を感じるのでなんとなく動いているのはわかる。ただ周りに気付かれていると思うと、少し恥ずかしかった。

とりあえず質問に答える、ついでに気になったことも聞いてみよう。

「どうやって…って言われてもほとんど無意識ですね。私からすると角とか耳の方が気になります。寝るとき邪魔じゃないですか?」

カルミは生えていないが、頭頂部近くから動物の耳が生えている人は多い。顔の横に人間の耳がそのまま生えている人も多く、そうなると耳が四つあることになる。彼ら彼女らには世界がどのように聞こえているのか、時々気になってしまう。恐らく彼らもこちらを見ながら、その羽どうなってるんだ、と思っているかもしれないが。

「私のは丸まってますから、そこまで邪魔じゃないですよ。尖ってる人は大変そうですがね」

カルミが自分の角を軽くなでながら言った。見ている分には頭が重そうに思えるが、生まれた時からそうなら慣れているのかもしれない。


「あ、もうこんな時間でした。そろそろ友鶴に戻ります。お疲れ様でした、外交官」

そうして雑談に花を咲かせていると、時間というものはすぐに過ぎていってしまう。仕事モードに切り替えたカルミに合わせて、アリスも立ち上がって敬礼を返す。

「有意義な時間でしたね、カルミ指揮官。またお願いします」

「はい、それでは失礼します」

部屋を後にした指揮官を見送った後、アリスは執務用の机に向かう。まだすべき仕事は残っていた。この調子なら十分間に合うだろう、そう思いながら端末用のペンを取る。ふと窓の方に目をやると、多目的の輸送機が飛んでいくのが見えた。



オマケ


艦艇解説

友鶴型超大型巡洋艦 友鶴

全長:306m

武装:22cm連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔

   3基6門 (上部前部1基 後部1基 下部1基)

   垂直ミサイル発射管 計48セル

   (上部と下部に16セルずつ 両舷に各8セルずつ)

   80cm銛雷発射管 計8門

   (艦尾4門 四連装旋回式発射管1基4門)

   広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔

   (両舷各1基 計2基4門)

   多目的投射機 8基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基

   艦載機搭載数 16機(1個宙隊12基)

   七一式航空機型戦闘偵察機「彩星(いろほし)

   六八式汎用輸送機 4機

同型艦無し


第三遠洋艦隊の旗艦を務める艦。

基本的に戦闘を目的とした艦艇ではないため、船体のサイズに比して武装は控えめとなっている。一方で探査能力と長期航海能力は高められており、リラクゼーション設備や高度な循環システムを備える。搭載されている機体はもっぱら偵察用であり、艦隊を先導する役割も果たす。

未知領域の探査も行うため、ファーストコンタクトを行うことも多い。そのため指揮官には高度な外交権が与えられる。

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