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第十七話 大海戦の後始末

連合機動捜査部について

エストライ連合皇国法務省の外局の一つ。

各惑星や地区ごとにある程度の自治権を有する連合皇国内部において、自治区を跨いだ犯罪組織や公権力に対抗するために設立された法務省直轄の捜査機関。

大規模犯罪などを担当する刑事課と、過激派への対処や防諜などを担当する保安課が存在する。

星上管理省が管轄する各惑星の警察組織や、星間交通省が管轄する航宙保安庁よりも強力な権限を持つため、大規模な犯罪組織や某国の組織的扇動などに対しても有効に対処できる。

場合によっては政府組織内部の汚職などに関しても検挙可能。

一方で市民への監視に関して批判されることもあるほか、強権的であるがゆえに他の組織との摩擦も多い。

例としては、反政府運動の地下組織本部を強襲した際、同組織に潜入中だった統合司令部隷下情報局の捜査員を銃撃、尋問した「ギラマ事件」などがあげられる。


-出典:Spedia.org


―ジルヨ星系 第四惑星軌道


空間に漂う無数のデブリと残骸が、主星の光を浴びて輝く。その光の中には艦の内側からのぞく、人工的な修理の光も加わっていた。


「あー、これもいってるな。部材取ってきてくれ、こいつが…MIFHの2238」

ベテランの整備科員が、外装のシールドモジュールの銘番を読み上げる。

「わかりました、ちょっと行ってきます」

宇宙服を着た整備科の乗員たちが、あちこちで忙しく動き回っている。補修用の部材や、作業灯が周りの空間に浮いており、小型の作業艇や多用途輸送機が傷ついた艦の間を飛び交っている。補修用のロボットもありはするが、大雑把な加工や切断などには便利なものの、やはり専門的な知識や経験のある人間の方が上手である。

武装は後回しでもいいが、最低限機関と構造材が持たなければ、帰ることすらままならない。どのみちドック入りは確定だ、多少不格好でも動くようにしろ、というのが整備科に与えられた指示だった。

軽傷の艦が、深傷を負った艦を仲間のところまで引っ張っていく。 重巡が同じ戦隊の僚艦を牽引し、駆逐艦が2隻係で巡戦に曳航用の牽引ビームを照射し、慎重に動かす。先導する駆逐艦と最後尾の駆逐艦は警告灯を点滅させ、艦が動いていることを周りに知らせる。

曳航、応急修理、大型のデブリや未帰還になった艦載機の回収、非常用電源の供給。

戦闘時の目が回るほどの激しさとはまた違う、やるべきことが山積みになった忙しさがそこにはあった。


それは艦内においても同じことであった。

「重傷者は空母に移乗させろ。医療設備は向こうが上だ!」

通路の向こうから大声が響いてくる。

「幹線が切れちゃってますね… 保冷庫は仮設で持たせますか?」

廊下側のピットをのぞき込んでいた整備士が、そのままの姿勢で尋ねる。反響した声が部屋の中に漏れ聞こえてきた。

「四番と六番は生かせます。他は死んでます、とりあえずシャワー室切って代わりに医務室に回しますよ?」

別の整備士が、機械室でポンプの制御盤の圧力を見てバルブを締めた。

被害を受けた艦の中では瓦礫の撤去をはじめ、隔壁内部の機密の復旧、負傷者の手当て、機器類の検査があちこちで進んでいる。


会議の映像通信を終えた艦長室の窓から、こちらへ曳航されてくる艦を眺めつつ、フィルナは物思いに耽っていた。その様子を見た蒼城が声をかける。

「何か気になることでもありました?」

フィルナはゆっくりと口を開く。

「詳報では誤魔化したし、会議だと特に触れられなかったけどさ」

一旦言葉を切り、蒼城の方に向き直ってから重々しく言った。

「どうやって追いついたのか聞かれたらどうしようかなって」

蒼城はこれまでの認識を改めることにした。

フィルナ指揮官が真剣な表情で何やら考え事をしている時、それは深刻な懸念が5割、妙な思い付きが5割だと理解していた。今回の件で評価を更新する。6割が変な事だ、とメモリを書き換えた。

「そもそも内部構造にダメージって言ってる時点でバレるのも時間の問題では?」

会議中の彼女の報告を思い出しつつ、蒼城は戦略用の高演算機能を切る。真面目な話でないならエネルギーの無駄だ。

「大丈夫。回避機動もかなり取ってたし、それぐらいの損傷ならまだ疑われないはず…」

フィルナが自分に言い聞かせるように希望的観測を述べる。

「あとは工廠でバレなければ…」


その時、蒼城に個別通信が入った。送信主を確認した彼女は、この時点で全てを察する。同時に確か巷では「フラグ」というやつを立てるのが上手だなぁと思った。

「…そうですね。ところで指揮官、天貫から旗艦ネットワークで通信が入ったんですが」

蒼城の言葉を聞くと直ぐに、大きなため息をついてフィルナが天を仰ぐ。

「…なんて?」

諦めの色が滲んだ返事が聞こえた。

「『どうやって追いつきました?』って言ってますね。なんて返しましょう?」

蒼城の答えに、フィルナは何故か元気を取り戻す。

「まだ間に合う。推進器を狙って、減速したところで回り込んだ、これで大丈夫なはず」

こういう時の頭の回転は異様に早いんだからと思いつつ、天貫に返事を送る。おそらく天貫の中でも、内部構造の損傷と大型個体に追いついたのは繋がっていない。

「最悪スズナにならバレても、カウンターがあるから黙っててもらえる…機動戦をしない人なら多分気付かないだろうし…」

なんでこの人たちは、司令部内で情報戦をしてるのだろう。

というかそもそも、スズナ指揮官ーこの場合は司令補佐と言った方がいいかもしれないが、司令部の情報局は彼女の管轄だ。本職ほどではないにしろ情報戦に強そうな人から、良く弱みをすっぱ抜けたものである。

「…司令は万一気づいてもため息で済ませるだろうし、ログ読み込みそうなカロントが勘付かなければいける!」

一体何がいけるのだろうか、と蒼城は思う。無茶ではあったがあの状況では最適解だった、と説明すれば理解を得られそうなものなのに。

なんとか上向いてきたフィルナの気持ちを打ち砕くように、携帯端末が音を鳴らす。

今一番見たくなかった送信主の名前を見て、彼女は全てを諦めた。

『蒼城の加速力を考えると離脱する大型個体に追いつけはしても、艦首砲を撃てるだけの時間的余裕を稼げないはずだ。どんな魔法を使った?』

もう一周回って開き直ったのだろう。フィルナはぽちぽちと端末を操作し始める。

『錨突き刺して振り回してやったわ』


人間というのは隠し事をするかと思えば、ある一線を越えると途端に正直になる。

難しい生き物だなぁと思っていると、扉がノックされた。フィルナが返事をする。

復旧作業の指揮をとっていた、副長の航海長が入ってきた。

「お疲れ様です。粗方損傷箇所を洗い出せましたのでご報告します。まず、左舷の副砲や対空兵装は完全にアウトでした。ミサイル発射管もハッチが溶けてまして、一部のレーダー系統も交換でしょうね」

まあここまでは想定内である。蒼城自身も自分のことのようにわかるし、端末の内容を読み上げる副長の口調も淡々としていた。

「…で、なんですが」

副長の声色が変わる。

「投射錨の巻き取りドラムと、ダンパーがちょっと艦内修理ではどうにもなりません。工廠に行かないとなんとも… あと慣性平滑装置が過負荷で不安定になってるのと、構造材に歪みや固定具が数箇所破断していました。この辺も工廠修理になりそうです。最後に艦内の調度品が結構壊れたのと、保冷庫内の動物乳に固形化の兆候が…」

蒼城は、錨を撃ち込んだ時人がいる区画以外の慣性制御は切っていたことを思い出す。計算上は深刻な問題は生じないはずだった。やはり理論的に可能というのは実際にやってみると不具合が出るものである。

流石にやりすぎたと蒼城は反省する。


「まあ、沈んでないから大丈夫。怒られる時は蒼城も一緒だし」

「え?」

次はどうすれば被害を抑えられるかを思案していると、なにか聞き捨てならない台詞を聞いて、一瞬処理が停止する。

「なんで私も!?」

蒼城の訴えに対して、ひらひらと手を振りながら指揮官は言う。

「だって蒼城一番ノリノリだったじゃん。止めようと思えば止められるのに」

「錨撃った俺より張り切ってたな」

副長も便乗してきた。確かに突拍子のない即興の戦法は、自分の思いもよらなかった過程と結果を引き寄せるので、楽しいと言うのは否定できない。

「そ、そんなに張り切ってないです…!というか…」

弁明しようとする蒼城をまあまあと宥めて、フィルナが笑いかける。

「そんな怒らないでってば。自分でやったことはちゃんと責任取るから」

この人の評価は安定しない、どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからなくなるからだ。

むくれる蒼城をよそに、フィルナが副長に尋ねる。

「ねえトムラ、工廠長にどれくらい差し入れしたらいいと思う?」

トムラと呼ばれた副長は少し考えてから答えた。

「そうですね~あそこの工廠なら酒瓶4ケースぐらい要るんじゃないですかね?作業員分も入れないと納得しませんよあの人」

「賄賂じゃないですかそれ」

流石にそれはダメだと蒼城は突っ込んだ。物を渡して便宜を図ってもらうのは良くない、軍属なら尚更である。

「賄賂じゃないよ。無茶していらない仕事まで増やしたから、お詫びぐらいはいるかなと思ってね。」

確かに強度限界スレスレまで負荷をかけたせいで、主要な構造は一度総点検の上で錨に関しては全交換になるだろう。となると国営の工廠にはかなりの労力をかけてもらうことになる。


エストライにおいて贈収賄に関する法律は曖昧だ、もちろん官僚や軍人が金品を見返りに便宜を要求することや、その逆は禁じられている。ただ、どこからが違法とされるのかについては、最終的に事例ごとに裁判所で争われることになることが多い。それでも、もし賄賂とみなされた場合、連合機動捜査部(きそう)が乗り込んでくるだろう。こんなことで私に人間らしさを教えてくれた人を失いたくなかった。

「…まあ、やめとこうか。慣れないことはするもんじゃないし、私も捕まりたくはないしね」

頭を悩ませる蒼城の様子を見かねたのか、フィルナは少し申し訳なさそうに笑った。


静かになった艦長室に、端末からの通知音が響く。

「…応急修理の目処がついたようです。あと3時間程度で完了するかと」

そのまま続けようとした副長の声が途切れる。どうかしたのかと視線を向けると、副長は少し声色を落として声を継いだ。

渦龍(うずりゅう)からなんですが、未帰還機の数と、コアの数が合わないそうなんです」

フィルナは一瞬言葉を失う。

「…何機分?」

「現時点で5機です。出撃機体合計128機中、未帰還が37。コアロストと思われるのは、いずれも大型個体に肉薄した甲宙機隊所属ですね…」

副長が補足しつつ答える。

蒼城は第72航空戦隊所属の、甲宙機隊の戦闘ログを呼び出す。見つからない5機を含んだ甲宙機隊はそれぞれ違い、2隊は突出した大型個体、2隊はライに、残りの1隊はレイジに対して攻撃していた。

3隊が航空機型、2隊が甲冑型で、いずれの隊も大きな損害を出している。

「大型個体の砲撃に巻き込まれたのでは?」

蒼城は一番可能性の高い仮説を挙げてみる。

確かにコアは、戦闘データの記憶装置や制御機構の中核で、機体の中でとりわけ頑丈に造られている。しかし、と蒼城は自分を掠めた収束ビームを思い出す。

あの砲撃をモロに受けて蒸発しないほどの強度があるか、といわれると疑問が残る。

実際その甲宙機隊たちが大損害を被ったのは、大型個体の収束砲撃と同じタイミングだった。

ディスプレイに投影し、2人にそう説明した。

「ん〜単純にビーコン機能が壊れて、見つけられてないだけかもしれないしね」

蒼城の仮説を聞いて、フィルナも自分を安心させるようにそう言った。

「ただ」

一瞬浮いた背中をもう一度背もたれに押し付けつつ、真剣な声色で言った。

「一応司令部には報告上げといて」


その声と同時に蒼城に個別通信が入る。今度は龍鳳からだった。

報告書を作成するために退室する副長の背中を見送りながら、内容を確認する。

『真似しそうですから、天貫には黙っておきますね』

世話焼きなあのサブフレームの姿を思い起こしながら、蒼城は念のためレイジのログを整理し始めた。

オマケ


艦艇解説

蒼龍型高速航宙機母艦

全長:315m

武装:13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔 (両舷3基ずつ)

   垂直ミサイル発射管 計40セル

   (下部に24セル 両舷に各8セルずつ)

   多目的投射機 8基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基

   28mm三連装対空間防御レーザー砲塔 8基

   艦載機搭載数 66機 (内補用20機)

   七〇式航空機型統合戦闘雷撃機「柳星(りゅうせい)」3個宙隊合計48機(内1個宙隊は補用)

   七二式甲冑型汎用攻撃機 3個宙隊合計24機(内1個宙隊は補用)

   六八式汎用輸送機6機

同型艦24隻


様々な艦隊に配属されている高速軽航宙機母艦。

主に巡洋戦隊や機動戦艦に追従できるだけの加速力や航行能力と、十分な航宙機運用能力を持たされている。

上部甲板は全通式であり、発着艦を円滑に行うために副飛行甲板を備える。一部の垂直発着機が可能な機体はエレベーターから直接発艦することも可能。

甲冑型は下部ハッチにつながっている、発進レールから射出される。着艦時は航空機型と同様に上部甲板を使用する。

通常敵艦艇との遭遇戦はあまり考慮されていないものの、万一に備えて副砲は装備されている。

同時発艦機数は甲冑型が8機、航空機型が最大6機であり、咄嗟時の展開能力や艦載機搭載能力は正規空母に劣る。一方で比較的小型、軽快な本型は、正規空母では追従が困難な高速機動艦隊において強力な火力源となり得る。




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