第一話 式典
お初お目にかかります 藍洲と申します
投稿するのは初めてになりますので
どうか生暖かい目で見守っていただけると幸いです
なおこの作品については
戦略ゲーム 「Stellaris」および
「宇宙戦艦ヤマト」シリーズ(とくに2199〜2205)
から強いインスパイアを受けて構想しております
ご了承ください
「我々は多くを失ってきました」
海皇都-中央広場
設営されたステージの上から首相はそう語る。
ーまだ続くのか…
俺は心の中でため息を吐く、正直まとめに入りそうなタイミングは何度かあったように思えたが首相の話はまだ続く。
あとどれくらいで終わるのかと会場の端の方で浮かんでいる、プログラムの書かれたスクリーンを見る。
どうやら首相の話が終われば総司令が挨拶して閉会式のようだ、確か大和の艦上から花火を上げるとかなんとか…
とのほほんとした思考が止まる、脳の中心が冷えていくのを感じる。
俺、挨拶用意してたっけ…
した覚えがない、ヤバいヤバいと生じた動揺を、ねじ伏せて極めて平静な様子を作りながら、戦略を立てる時のように脳みそを回す。
「しかしすべてを失ったわけではありません。現に我々はこうしてこの時を迎えることができました。」
「生亡戦争終戦十周年記念式典」と書かれた垂れ幕の下
大臣や閣僚が参列し、広場には多くの人が集まっている。またその様子は国中に中継されていた。
幸い首相の話はまだ続きそうだ、
今のうちに内容を考えてしまおう。
「エストライは海を越え、月を越えるようになり、今や星々は遠くで輝くだけの存在ではありません。」
エストライ連合皇国が成立して、宇宙を知るようになってから早十年。
ここ海皇都を首都として銀河の一翼を勢力下に入れ、いくつもの惑星を新たな故郷とした。
ひとまずここまでは良い、にしても首相はえらく詩的な言い方をする… と脱線した思考を引き戻す。
「かつての敵は今や友となり、ともに戦う仲間でもあります。」
これは十二年前の話だ。
惑星内の国家間の大戦で疲弊しきっていた惑星エストの各国は、突然天から火が降ってくるのを見ることになった。
主要な軍指揮官や経済拠点、国家という枠組みを支える者の多くを失った彼らは、国家を統合するという強硬策に出る。
全力の迎撃によって運よく撃墜できた艦艇から、彼らが「エルディア帝国」を名乗っていること、
宇宙を自在に動ける技術を持っていることがわかった。
またその状態からおそらく長い放浪の末にやってきたのではないか、という説が強くなった。
それに彼らの戦い方は極度に損失を恐れているように見えたことから、補給に不安があるのでないかという仮説も立てられた。
「共に立ち、平和な国家を造らなければなりません。その平和を次の世代へとつないでいく責任があるのです。」
疲弊しきったエストライにも、放浪の末やってきたエルディアにも長期戦を行えるだけの力も意思もない。
撃墜した艦艇から得られた知見や技術をもとに開発された、エストライ初の宇宙戦闘艦「大和」が完成したことで、上層部はようやくエルディアを交渉の場に引きずり出せると確信した。
その大和が参加した第三次軌道宙海戦を最後に両国はようやく停戦交渉を開始する。
「武力だけでは平和は訪れません、しかし武力無き平和は理想に過ぎないことを我々は知っています。」
あの戦争からエストライは宇宙を航海する術を、エルディアはひとまずの安寧の地を得た。
一方で統一されたとはいえ地表の被害は甚大であり、人間に関しても総司令にこんな若造を据えねばならんほど不足している。
ただエストライにはエルディアを恨む暇も、そんな余裕もなかった。
「オルムディア貪食群、あるいは餐界とも呼ばれていますが、あの災害を必ず食い止め、追い出す必要があるのです。次の世代、ほかの星のために。」
エルディアを国家として崩壊させ、その母星までも奪った「餐界」と呼ばれる生命体。
正直冗談のような話だ、だが実際問題奴らは存在しているし既に我々と戦っている。
理性と呼べるものは存在せず、本能のままに他者を食らい星を食らい増え広がっていくまさに災害。
こんな奴らの存在を知ってしまったら、最早エルディアとの禍根は文字通り棚上げされ、場合によっては餐界の被害国家として扱われることもあった。
「また我々は、この宇宙に住む様々な種族、民族、文化の人々が公平に、平等に生きられる社会、国家を目指します。自分たちと違うから、技術が劣っているからと言って差別され、権利を奪われてはならないのです。」
そして銀河の北部…でいいのだろうか、少なくともエストライで使っている地図では上の方にある「ジルグラード教導帝国」。
外務省と司令部の情報局の話だと、覇権を唱える宗教国家のようだ。
北部の現地惑星国家とファーストコンタクトした際、保護を求められたため、対餐界防衛協定としての防衛協定と銀路網整備による経済支援を行っていたが、
彼らが恐れていたのは物言わぬ災害よりも狂信者の方だったらしい。
旧領を奪還せんとするジルグラードと、
今更手を引くわけにはいかないエストライ、
結果的にジルグラードとエストライの関係は悪化の一途をたどっている。
「どうか今の日常が、平和が、何でもないようなことで笑えるこの日々が続くことを願いまして挨拶とさせていただきます。」
今のエストライは、いやエストライ「も」不安定だ。
各省庁がそれぞれの正義で舌戦を繰り広げ、議会も毎度のように紛糾している。
外交状況も芳しいとは言い切れず、各惑星の統治も輸送のバランスも常に調整と拡大が続いている。
餐界の駆除はいまだ継続中である上に、最近は妙な動きまでしてきている。
それでも生きなければならない、繋げなければならない。
-こんな風に話せばまあいい感じになるだろう。
首相が話し終えて拍手をしながら、そんなことを思う。
考えてみれば我らが海皇とエルディアの王女の話はかなり短かった、首相は時間を調整していたのかもしれない、お陰でこっちも考えをまとめることができた。
司会が出てきて首相に対して謝辞を述べる。
「それでは次に統合司令部のアスーイ総司令から挨拶をしていただきます。」
司会の紹介に合わせて腰を上げる。
拍手が上がり、少しずつ大きくなっていくのを感じる。
ゆっくりでもなく、速足でもなく、普通の足取りを意識しながら演説台へ向かう。
拍手は続いている、早く止めすぎると悪感情を持たれかねない、かといって止むまで待つのも効率が悪い。
(3秒か…)
マイクの前に立ち、心の中で2つ数えてからそっと手を挙げる。
拍手の余韻が消えるまで約1秒、
タイミングとしてはちょうどいいぐらいだろう。
ミキサーがベストな音量を探りやすいように、落ち着いて口を開き少し低めの声で話し始める。
「私たちは戦争が嫌いです。」
こういう話はつかみが何よりも肝心だ、人間は無意識のうちに周りの音に優先順位を付けている。
認識するかどうかは別として周りの声も音も耳には入っている、ただそれをちゃんと聞く気があるかどうかの問題だ。
インパクトのある単語はそれだけで人の注意を引く、そういうものだ。
映像が中継されている皇国各地で 雑踏の中で人々が上に浮かぶ画面を見上げる 居間でテレビをつけっぱなしにしている家族も思わず画面の方を見た。
「しかし、嫌いだからと言ってすべてを避けることができるわけではありません。戦争とは災害のようなものです。こちらの意志とは関係なく、文化を、財産を、日常を、友情を、家族を、命さえ奪おうとする厄災です。」
こういえばエルディアへの敵対心を無用に煽らずに済む。
災害のような戦争といえば大体の人間は餐界を思い浮かべるだろうから。
「だから我々は戦います、戦わねばならないのです。」
これは現実だ、実際向けられた刃は叩きおらねば自分かほかの誰かが死ぬことになる。
「しかし…戦わない選択肢があるのであれば、我々はそれに向かって全力を尽くすことを惜しみません。」
これは理想だ、でも理想さえなければ現実に押しつぶされるだけだ。
とりあえず言いたいことは言えた、あとは流れでいいように締め括れるだろう。
一瞬間を置いてから最後のまとめにはいる
「私たちは戦争が嫌いです、憎んでいます。だから起きてしまったものは終わらせなければなりません。
もう二度とはじまらないように、その火種を完全に消し去る必要があるのです。」
俺たちの役目は戦争の落としどころを相手にわからせることだ。
降伏させるでも絶滅させるでもない、ただ「交渉するに値する相手」であることを理解させるだけ。
「簡単ではありません。困難なことです。だからこそやらなければならない。現に私たちがここに立っているのはその困難を乗り越え、成し遂げたからです。」
エルディアとの戦争は外交によって終わった。
どちらかが滅びるでも強烈な禍根を残すでもなく、共に立てるようにすることによってだ。
「この平和を、日常を、奇跡を、次へつなげねばなりません。いつの日か『平和であること』が当たり前であるようになるその日まで。」
奇跡とは全員が最善を尽くした際の最後の偶然の一押しに過ぎない。
軍人も、文官も、国民も、全員が平和を願ったので奇跡が起きたのだ。
ただこれはわざわざ言う必要もないだろう
時間を調整してくれた首相に申し訳なくなるほどの万雷の拍手を背中に感じながら席に戻った。
悟られぬように大きく息を吐く、ひとまずこれで安心して花火を眺められそうだった。
夕焼けに縁取られたかつての英雄艦の艦影が滑るように海の上を進んでいた
おまけ
艦艇解説
大和型航宙戦闘艦1番艦 大和
全長:146m
武装:20.4cm三連装陽電子砲3基9門
(上部前方1基後部1基 船体下部1基)
垂直ミサイル発射管24セル
艦首固定36cm高速レールガン1門
対空間機銃両舷6基
同型艦4隻
エストライ初の航宙戦闘艦
技術検証と運用構想のテストヘッドの意味合いも強く
野心的な武装が多く搭載された
大和には戦訓反映および操艦補助としての役割を期待されて艦隊運用統括支援システムが搭載されたものの
戦況に伴い工期短縮および低コスト化が図られた結果2番艦以降には搭載されていない
第三次軌道宙海戦では数と機動力に勝るエルディア帝国艦隊に対してミサイルおよびレールガンによる長射程攻撃を敢行した
終戦後の急速な技術発展に伴い早々に設計が陳腐化したため 姉妹艦は退役後解体された
1番艦の大和は記念艦として動態保存されており
サブフレームは記録をそのままに星間護衛総隊の
定期運行管理官補佐として稼働中とのこと




