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ー幕間ー そして今日も銀路は巡る

首都圏について

広義ではエストライがごく初期に入植した惑星群のことを指す。多くの場合海皇都、初創都、白羽都、富翠都、山野都、の5惑星の総称。

いずれも宇宙開発省時代の入植であり、別惑星での居住はまだまだ手探りであった。初期構想においてはそれぞれが独立して機能する都市型惑星にする予定だった。しかし宇宙開発省が早い段階で分割され、星間交通省と星上管理省にそれぞれ引き継がれた結果、それぞれの惑星を特化させ、高速インフラで強固に結ぶという「星系間首都圏構想」へと変化する。


(恐らくこの頃からエストライの銀路に対する異常な執念が芽生えていたと思われる)


-出典 今更聞けない!ネットでよく見る単語全集サイト

―海皇都から8.4光年 富翠都(ふすいと) 惑星軌道銀路中継ステーション


ここ、富翠都は金融の中心地だ。薄雲に包まれた惑星表面は一つの巨大な大陸とたくさんの島々、そして広大な海で構成されている。エストライが宇宙に出てから初期に入植した惑星の一つであり、現在では首都圏を形成する大都市惑星だ。中央の巨大な大陸には数多の摩天楼がそびえ立つ大都市が複数あり、エストライに存在する宇宙規模の大企業のうち、過半数が本社をこの星に置いている。

工業を主産業にしているわけではないものの、貨物輸送及び旅客輸送の需要は高く、銀路のターミナルもかなり大規模に整備されている。しかし星間交通省せいかんこうつうしょう黎明期の遺構であるため、技術的な限界や輸送需要の見込みの甘さが露呈した。今のステーションは富翠都の発展に伴い、急激に増加した需要に対応するために小規模な増改築と二度の大改修が行われた後の姿で竣工時の面影はほとんどない。

このステーションは惑星上との円滑な物資及び人員の輸送のため、軌道エレベーターに直結されている。軌道エレベーターはほとんどの居住惑星に整備されているもので、多くの場合赤道軌道上にリング状に建設された、軌道上環状拠点と接続されている。

軌道拠点は惑星によって使用方法が異なる。宇宙艦艇の整備ドックになっている星や、居住地になっている星もある。富翠都の場合は元居住区画と防衛用の戦闘区画が改装され、大半の区画が貿易会社の物資集積所へと姿を変えた。残りの区画は商談を終えた企業関係者や一般の旅行客が一夜を明かす宿泊区画になっている。


貨物輸送を司る「物資集積拠点」、それと旅客輸送を司る「総合交通拠点」の二つを合わせて、「銀路中継ステーション」と呼ばれる。ただしこれはあくまで正式名称であり、一般的な認識や呼称は「貨物駅」、「旅客駅」が多数派だ。総合交通拠点のみを指して単に「駅」と呼ばれることもある。実際のところ、銀路を()()する宙間列車内のアナウンスでも「○○駅」と読み上げられるため、正式名称を使った方が分かりにくいと言った有様だ。実際に銀路庁にでも勤めない限り覚える必要がない。

さて、それら二つの()は惑星を挟んで丁度向かい側に軌道拠点にしっかりと固定されている。軌道エレベーターは惑星の自転と連動しなければならない、つまり軌道拠点も自転と同じ速度で回転する必要がある。当然それと繋がっている各ステーションには遠心力が働く。そして惑星から離れるほど、大型化して質量が増すほどに遠心力は強くなる。万が一破断しようものなら大惨事待ったなしだ。結果的に軌道拠点と各駅の接続強度は「解体したいなら一個戦隊呼んで来い」と言われるほどに過剰なほど強く造られることになった。

建設コストが跳ね上がったことやステーションの大型化が困難になった反省から、新設の駅はもとより海皇都や白羽都と言ったもっと需要のある銀路ステーションは早々に軌道エレベーターとの直結を諦め、ラグランジュ点に新たに駅を建設している。


そんな今や珍しい環状拠点直結型の旅客駅は、整った身なりをした忙しそうな人々でごった返していた。黒から紺、茶や濃灰などの地味な色合いの中に、ところどころカラフルな色が混じる。

わき目も振らず足早に歩を進める者、柱の陰で何やら端末に話しかける者、時々案内板を見るために立ち止まる者。

無数の会話や足音がこだまするものの、騒然としている様子はない。

天井のドームから惑星の青い弧が見える。わざわざそれを見上げる者は観光客ぐらいのもので、その下の人々の歩みは止まらない。改札ゲートが柔らかな緑色の光を放ち、明るい電子音と同時に門扉を開く。一列に並んだそれらに、端末や腕がかざされるたびに旋律が奏でられる。

駅の端にある展望室では小さな子供を連れた家族が、星を見下ろしながら自分たちの家を探している。

「ほらー、おうちはどのへんだと思う?」

母親が子供を抱きかかえ、窓に近づいて話しかける。

「うーん、あそこ!」

3歳ぐらいだろうか、抱えられた男の子が窓越しに大陸を指さす。

その横を商談終わりの男女が通りすぎていく。

「よーっし何とかまとまりましたね」

首のネクタイを緩め、男性の方が伸びをする。

「じゃあ連絡入れる前に、ご飯行きましょ」

時計を確認しながら女性がそう言う。大きな商談がまとまったのだろうか、その声は自然と弾んでいた。


ホームには整った身なりをした人々が、軌道沿いに並べられたフェンスのドアの両脇にそれぞれ並んでいる。軌道上に浮かぶディスプレイには「下り方面 快速 アノルト行き」と表示されている。内蔵されているスピーカーが列車の到着を告げ、軽やかな音楽を流した。

進入してきた下り方面の列車が、微かな駆動音をたてて緩やかに減速する。薄灰をベースに青のラインが入った客車がいくつも連結されている。客車の扉が、ホームに設置されているフェンスのドアの部分にピタリと止まる。

フェンスドアと客車のドアが開くと、中から大勢の集団が吐き出される。その人々は乗車待ちの列の間を通って通路に向かい、そこからそれぞれの目的地へと歩みを進めていく。

ある程度降車する人の流れが止まると、今度は人々が乗り込む番だ。降りたのと同じくらいの数の集団が客車に次々と吸い込まれていく。

指定された時刻になると、今度は列車の方から先ほどとは違う軽快な旋律が流れる。そしてフェンスドア、客車のドアの順で閉まり始める。どちらの扉も閉まりきる直前に一度止まり、それから完全に閉まりきった。客車の方はさらに気密され、金属音と共に固く閉じられる。

斥力装置が作動する低い音が響くと同時に、滑るように列車は加速を始める。ステーションから完全に抜け出した後、列車の機関は一段音階を上げる。

富翠都のステーションは特殊で、駅と各方面への軌道の間に一部銀路軌道が存在しない空間がある。その空間を低速で通過した後、正確に軌道に接続し、矢のように星系外縁部に向かっていった。

その列車がホームを抜け出すとすぐ、ホームにいくつか投影されているディスプレイに次の列車の到着時間と種別が表示された。直後にホームの反対側の番線に上り方面の列車が入線してくる。

これがほかのホームでも繰り返され、常に人を動かし続けている。


先ほどの快速が無事に軌道に乗ったのを確認した後、貨物用の信号機が青に変わる。

それを待っていたかのように、重連の貨物列車が緩く加速を始めた。旅客用の車両よりも武骨で力づよく長編成を引っ張るその列車は、先ほどの快速の後を追うように外縁部へ向かって加速していった。

先ほどの旅客駅とはちょうど惑星を挟んで反対側に物資集積拠点、つまりは貨物駅がある。


旅客駅が人の音であふれている空間だとすれば、貨物駅は機械音であふれていると言える。ある方面から到着した貨物列車のコンテナを、一度保管して別方面の貨物列車へ積み替える。先ほど富翠都は工業が主産業ではないと言ったものの、電子素子やエネルギー制御素子といった高度な加工製品が製造されている。それらの原材料や完成品を、軌道エレベーターを使って輸送し、惑星上の鉄道や自動車を使って工場へ配送する。


クレーンやコンテナを移送する輸送車は、殆どが無人制御されている。それを管制する中央コントロール室には、貨物駅のコンテナの配置、数、中身が可視化されたディスプレイが投影されている。

壁一面に平面化された貨物列車の運行状況が表示されたモニターが貼り付けられ、沢山の光の箱が地図上を動き回っていた。

「…フォルド星系から物資輸送要請です。優先度4、名義は『第七遊撃艦隊』ですね」

富翠都物資集積拠点担当統括管理サブフレームが、運輸局から送られてきた通信を読み上げる。

「4か…スミカ、次の下りの貨車の優先度で低いやつを洗ってくれ、多少遅発になるかもしれんがしょうがない」

中央コントロール室で、室長の男性はそう言った。

「わかりました。運用番号『SC‐1205‐O』の貨車に積載予定だった、優先度3の産業省の資材を一時後回しにします」

「スミカ」と呼ばれたサブフレームは、まるで既に計算を終えていたかのようにすぐに答える。


軍用ーーというよりも艦艇のサブフレームとは異なり、駅を統括するサブフレームには正式な固有名がない。正確に言うなら製造番号がそれに当たるだろうが、正直人間には言いにくい。そのため慣例的にそれぞれ最初に担当になった者が名付け親になる。ちなみに彼女の場合単純に「富『(すい)』都『()』物駅担当統括管理」から取って、作物と被ったので一文字変えて「スミカ」であったりする。

他には製造番号の語呂合わせであったり、着任した日付から取ったり様々だ。ただし便宜上混乱する恐れがあるので、上下線共に、二駅隣までのステーションにおいて旅客、貨物担当問わずそれぞれ名前が被らないように、という配慮はされている。


「わかった。それじゃあ先にコンテナ動かすぞ、3番から艦艇用のシールド装置出しといてくれ」

「はい、輸送車回します」

共有された物資のリストを見ながら、出された室長の指示に沿ってオペレーターがコントローラーを動かす。

「軍は俺らをなんだと思ってんだろうなぁ…」

動き始めた設備を見ながら、室長はそうつぶやく。返事をするように、上りの貨物列車の到着を知らせるブザーが鳴り響いた。



オマケ



車両解説

H4型銀路軌道用恒星間航行宙間列車

全長:1両当たり25m

編成数: 各停8両 快速及び急行10両

   (路線により可変 最短2両、最長12両)

定員:1両当たり最大100名程度

  (車両及び運用形態により差異有り)


星間交通省銀路庁旅客局が運用する、近距離型銀路専用宙間列車。

近距離型と言っても、宇宙空間を航行する関係上立席は推奨されない。

基本的には自動運行なものの、不測の事態に備えて運転士が常駐している。噴射というよりも、引斥偏向装置を利用した推進方法を用いる。一方で単独でのワープは行わない。

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