第十四話 岩を砕く楔
先に申し上げます。
もう一話かかります。
―ジルヨ星系 第四惑星軌道 蒼城からみて中央右側前線部
宙雷戦隊と航宙機隊を先頭に、巡洋戦艦と戦艦が砲撃しつつ、前進を続ける大型個体へ向け突撃する。前進を続ける大型を護衛する小型個体が、宙雷戦隊の行く手を塞ぐ。二手に分かれ、両側から挟み込むように展開しようとした。
「前方小型個体群へ向け最大戦速で突入。主砲射程に入り次第面舵一杯、宙雷の足を止めさせるな」
「最大戦速ヨーソロー!」
急加速する陽炎の艦橋で、艦長は腕にぐっと力を込める。
「後続の不知火には掩護を頼め、泡景と霓景は反対側に回りこませろ。少しでいい、隙を作る」
「了解、戦隊各艦に通達しときます」
人間なら思わずよろけるだろう慣性を受けても、微動だにせず立ったままで陽炎は通信と同時に距離を測る。既にレーダーでは小型個体一体一体を捉えた。
「測敵良し!」
小型個体の予測進路、舵を切っている間も前方に進む距離、友軍艦艇の位置座標、そういった情報を統合する。群れの注意を引きつけ、なおかつ仲間に被害のない位置を探り、狙いを定める。
「照準良し、主砲の有効射程進出まで残り2000」
「有効射程内に進入、おーもかーじ」
航海長が躁舵輪に弾みをつけて回す。それと同期して艦もわずかな軋みをたてて旋回し、強烈な遠心力が内部にかかる。
内心乗組員、特に厨房担当者たちに合掌しながら戦術長も号令をかける。
「左舷対空戦闘はじめ。主砲弾種実体拡散。撃ちぃ方ぁ始め!」
左の舷側に埋め込まれている副砲と、艦後尾に鎮座している副砲がビームを連射する。二、三拍遅れて主砲が火を噴いた。飛び出した砲弾は正確に、宙雷戦隊へ向かう小型個体の群れの中に飛び込んで炸裂する。殻を焼かれ、叩き折られた個体は攻撃されたことに気づくと、傷ついた箇所から紅い光を漏らしつつ矛先を変える。
「よし、こいつら引っ張っていくぞ」
小型個体の群れを背後に回し、両舷と後部の副砲で陽炎は射撃を続けていく。さらにその群れの斜め下からは不知火の弾幕が、群れを押し潰さんと迫っていた。
件の航宙機隊と宙雷戦隊は突入陣形のまま、最低限の対空戦闘のみで潜り抜けていった。
小型個体のうち、反対側に向かっていた小型個体の群れが異変に気づく。進路を変え、密集したまま宙雷戦隊と航宙機隊に槍の先を向けた時。駆逐艦や軽巡のそれとは比にならないほど太い光線が群れを消し飛ばす。
「命中を確認〜 小型個体の大半を排除」
先程まで群れがいた場所をディスプレイで確認しながら、春薙がそう言った。同時にレーダー員の報告が重なる。
「後方にいる大型個体に発砲の予兆あり!」
レーダー員が見ているモニターには、大型個体が開いた5本の腕にそれぞれ熱源反応があるのが映っている。
「直ちに散開。同時に前進する大型個体の進路に偏向傘、動きを遅くする」
「了解です。全艦散開、各個に個別回避運動」
「VLSハッチ開け、空間偏向傘、発射弾数4、発射始め」
春薙が戦隊各艦に連絡を入れ、同時にミサイルが飛び出す。前方にいた2個宙雷戦隊34隻も回避運動を始める。
「大型発砲!」
飛来した光弾は艦と艦の間を通り抜け、どこか遠くへ消えていく。狙われたのが、機動力の高い駆逐艦や軽巡だったのもあり被害はない。逆に前進する大型個体の進行方向に、突如として現れた青い光の球は、確実にその動きを鈍らせた。
その横っ腹に宙雷戦隊と航宙機隊、さらに挟み込むように、反対側にいた第78巡洋戦隊の2隻が殴り込みをかける。
「白瀬、一番装甲が薄そうなところを狙え。そこに銛雷を叩き込んで割る」
「了解致しました。…恐らく頭部の開口部、閉じてはいますがそこの割れ目が狙い目かと」
一瞬の思考の後、白瀬はすぐにそう答える。宙雷戦隊にとって常に戦場は高速で変化し続けている。そのためサブフレームにも100%の正確性よりも、素早い判断速度が求められる。
「道理だな。何をしてくるかわからん、近づきすぎるな」
臨機応変さと、いざという時のリカバリー能力が求められるのは艦長も同じだ。
「了解、全艦最大戦速。取舵15、天舵20」
「弾種実体徹甲、主砲撃ちー方ー始め。統制雷撃戦用意」
航海長と戦術士が命令に応じる。
指揮下にある駆逐隊も白瀬に追従し、攻撃を始める。もう一隊の第74宙雷戦隊は下から回り込むつもりのようだ。甲冑型の航宙機は散開し、各々が赤く光る目のような器官を集中的に猛射する。
直後に大型個体の身体の表面に並んだ突起、そこから霧吹きのように液体が放出される。
それが甲冑型に吹きかかると、装甲に瞬時に穴が開き、内部の機構が破壊されていく。戦闘能力と推力を失った機体は、他の機体のカバーも間に合わず停止する。
「…恐らく強酸性、あるいは腐食性の強い液体と思われます」
被弾時の様子から白瀬が推論を述べる。
「艦艇への被害予測はどうだ?」
「多量に浴びればまずいかと」
艦載機よりも艦艇の方が遥かに装甲も厚く、シールドもある。多少溶けたところで、内殻まで届かなければ直ちに影響はないだろう。ただレーダーやカメラといった装甲が薄い、あるいはできない部分に関しては十分に注意する必要がある。
「だろうな、撃ち込むだけ撃ち込んでから一旦引くぞ」
「了解しました」
艦長の命令に白瀬が返事をしたすぐ後に、戦隊は発射にちょうどいい位置に到着する。
「全艦銛雷発射!」
戦術士の号令に合わせて、数えきれないほどの銛が一斉に放たれる。それらは少しばらけながらも大型個体の腕の割れ目、付け根に突き刺さる。すぐに爆発はせず、装甲を貫いて内部で炸裂した。
黒い岩のような外装が剥がれ、紅い光がチラチラと輝いている。畳み掛けるように航空機型の機体が、懸架していた大型の銛雷を撃ち込む。
されど大型個体は止まらない。既に傘は破られ、進撃を阻むものはない。
春薙たちやその後方から迅星たちが砲撃を続けているが、ことごとくその重装甲に阻まれている。柚雪の時とは違い、弾かれてはいないものの、内部までには届かない。
「やっぱり主砲じゃ効かない…」
春薙の艦橋に、追い詰められた声が響く。ここまでの重装甲は流石に予想外である。春薙、正確にいうなら空薙型巡洋戦艦の主砲は、極めて大口径というわけではなくとも、基本個体までなら十分通用する砲だった。それなのにこうけいが一段階上の迅星型戦艦の砲が防がれるともなると打つ手がない。
「艦首砲を傷口に撃ち込むにしても、動きを止めないと…」
艦長は冷静に方法を探す。
2個宙雷戦隊の雷撃を喰らっても装甲が剥げる程度、命中箇所を抉るにしろ、さらに強酸を吹き出し続ける今では接近すら困難である。
となると艦首砲が最後の手段だが、艦首を向けなければならない関係上、高速で前進を続ける現状では困難だ。
艦長が迷っていると、通信が入った通知音が耳に入った。
「前方に展開中の第75戦隊より入電です。『我これより艦首砲を発射し、動きを鈍らせる。貴戦隊らは首を落とされたし』」
直後に前方の空間に4つの光点が現れた。
それはどんどん大きく、明るくなり、青い閃光となって大型個体を貫かんと迫る。
それらは確かに装甲を焼き、削り取り、紅く光る内部を晒しながらも、息の根を止めるまでには至らなかった。
戦況や敵の情報というのは、戦闘中の各艦に同期されている。機転を効かせてくれた75戦隊に感謝しつつ、艦長は命令を出す。
「全艦増速、大型個体の前方に回り込む。74戦隊との艦首砲の一斉射によって、穴を貫通させる!」
宣言通り75戦隊は動きを止めてくれた。致命傷は避けたとはいえ、痛手を負っているのは明白である。
「ヨーソロー!最大戦速!」
「撃ち方やめ、艦首砲戦用意」
艦が一気に加速し、同時に砲塔が定位置に戻る。大型個体を追い抜き、前方に回り込む。勢いを殺され、未だ傷が癒えていない大型個体の、頭部に近い傷跡を狙う。
「艦首砲へのエネルギー充填」
戦術長がそう指示すると、機関の音が少し大きくなる。同時に艦首に開いた砲身の先端に、青い光の粒子が集まっていく。徐々に充填音が高くなっていき、戦術長の手元のディスプレイに、表示されたメーターも溜まっていく。
「照準よし。充填完了、全艦連動確認」
春薙が真っ直ぐ前を見据えながら報告する。
二列に並んだ8隻の艦艇の艦首には、青い光が限界まで集まっているのがわかる。
それに気付いたのだろう、大型個体がせめてもの抵抗として開口部を開ける。それまでは5発だった光弾を中央1発にまとめて撃とうというのだ。
「…攻撃始め」
「撃ち方始め!」
ーしかし、その判断は遅すぎた。
確かにこれまでより遥かにエネルギーの収束は早かったものの、既にチャージを終えていた春薙達には敵わない。
むしろ開口部を開けたことで弱点を晒してしまい、光弾ごと撃ち抜かれる結果となった。
大型個体はまず開口部から頭部にかけて、ついで貫徹された胴体部という順番で爆炎に包まれた。行き場を失った光弾がさらに爆発の威力を向上させる。
すぐさま距離をとった春薙達や宙雷戦隊の艦艇は、その爆炎に明々と照らされていた。
残りは2体である。
オマケ
艦艇解説
刻瀬型軽巡洋艦
全長:198m
武装:16.3cm連装実体弾兼用集束徹甲型陽電子砲塔
4基8門
(上部前方2基 後方1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計48セル
(上部と下部に16セルずつ 両舷に各8セルずつ)
80cm銛雷発射管 計12門
(艦首4門 四連装旋回式発射管2基8門)
多目的投射機 12基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 24基
艦載機搭載数3機
同型艦28隻
エストライの宙雷戦隊旗艦軽巡洋艦。
4個駆逐隊16隻を束ねるため、指揮能力は高め。
自艦もある程度の戦闘能力を有しているもののあくまで軽巡並みであり、そもそも単艦での戦闘は想定されていない。
余談にはなるものの、艦級は一つだが宙雷戦隊の任務は多岐にわたる。そのためそれぞれの艦によって仕様が異なることもよくある。




