第十三話 パッカルコーン
略称に関して
第〇〇戦隊の場合「〇〇戦」
第〇〇巡洋戦隊の場合「〇〇巡」
第〇〇宙雷戦隊の場合「〇〇宙雷」
第〇〇航空戦隊の場合「〇〇空」
と記載されることが多いです。
余談ではありますが、ある程度艦名には艦級ごとに共通性を持たせてあります。
―ジルヨ星系 第四惑星軌道
第七遊撃艦隊旗艦 蒼城の艦橋内
目視では微かにあることが分かる黒い点、されど近づくにつれエストライの並大抵の戦艦よりも巨大であることが分かる。少なくとも単一の生命体としてはこれまで類を見ない大きさである。ずんぐりとした円柱状の胴体部に、進行方向の頭部と思しき部位は流線型にすぼんでいる。全体の三分の二を占める胴体には、後方に向かって徐々に広がる被膜のような組織があり、まるでヒレのように波打っていた。岩石質のようなごつごつした表面からは、時折脈動するように微かに紅い光が漏れる。
その三体の大型個体をまるで護衛するかのように、子槍のように鋭くとがった殻を持つ小型個体や、大型のハチを彷彿とさせる外骨格を持つ基本個体が侍っている。前線側には小型個体の群れが盾となり、背後で戦列を組む基本個体を砲撃から守っていた。
通信が入ったことを知らせる通知音と共に、通信長が声を上げる。
「73巡の柚雪よりデータリンク来ました。蒼城、確認頼む」
前半は艦長に向かって、後半は蒼城の方へ首だけ向けて話しかける。声をかけられてすぐに蒼城は、しばし手元に視線を落とす。ただその間にも戦場は動いていた。
最後方にいた三体が固く閉ざしていた頭部に亀裂が入り、ゆっくりと花弁のように裂ける。その様子はまるで獲物を捕食しようとするイカのようだった。五つに分かれた腕、ぞれぞれの腕の中央部分が空間に散らばる塵を吸い寄せていく。塵は徐々にオレンジに色づき、光を放っていくのが光学モニター越しでも分かる。
「大型個体に発砲の予兆あり!」
立体的に投影された、艦艇の配置図を睨みつけていたレーダー員が叫ぶ。
「弾道計算、まずは回避に徹して様子を見る。巡戦と宙雷はそのまま突入を維持、動いてた方が当たらないはず」
「了解しました。計算後、全艦に共有します」
蒼城はこれまでにない大型の個体であること、光弾の大きさと明るさが基本個体と比べ物にならないことを確かめる。そこからかなり大きく余裕をとって、加害範囲を設定した。 同時に柚雪から送られてきたデータから、大型個体の装甲圧を計算しこちらも同時に共有する。
「結果きました。各艦連動、底舵30、右軸転60」
航海長が躁舵輪を回すと同時に、蒼城は回避機動に入る。
…当たっても嬉しくない予想というものはある。今回は外れなかったことが嬉しくても、その結果が碌でもないケースだ。
「大型発砲!」
―瞬間、とりわけ明るい光が戦場を照らした。 直後に艦体を震わせるほどに重力波の荒波が到達する。
基本個体と比べ物にならない大きさと弾速、かつ精度もかなり高い砲撃。
蒼城が余裕をもって想定した加害範囲すべてを薙ぎ払うように、オレンジ色の閃光が空間を貫いた。
小型個体の相手をしていた軽巡の艦種下部が溶融し、砲塔が盛り上がる。その後方で回避機動をとっていた重巡も、別の迫りくる光弾を躱しきれなかった。艦体が大きくロールし、接触したオレンジ色の光弾に対してシールドが最大限の抵抗として青い閃光を放つ。しかし力及ばず、艦尾を掠めた弾によって推進器が破壊され、推力を失う。無理な回避機動に加えて突然推力を失い、制御不能になった重巡をなんとかつなぎとめようとした駆逐艦が接触する。
「音景被弾、荒潮戦列を離れる。葉月中破!」
通信士の口から、立て続けに艦名と被った損害が並べられる。陣形が乱れ、被弾した艦からの被害状況報告と救援要請が次々と艦橋に飛び込んでくる。配置図でも痛打を示すかのように、そこかしこで異常を知らせるポインタが光っていた。
「航宙機隊現着、宙雷戦隊と合流し突入を開始します」
報告と同時に数十機の、艦艇に比べると小さな影が艦隊の下を潜り抜ける。
三体から放たれた光弾は合計で15発、なんとか回避が間に合った形だ。
「第73巡洋戦隊より入電。『左翼のオルム群の殲滅に成功、大型個体には航宙機の雷撃が有効』とのことです」
通信士が弾む声で報告する。やってくれた、これから反撃だ。そういった空気が艦橋に満ちる。
その瞬間、あざ笑うかのように大型個体の動きが変わった。
中央の一体が開口部を閉じ始める。同時に小型個体を伴って前進を開始した。左右の二体は変わらず砲撃の準備をしている。周囲に群がる基本個体も同様だ。
「態勢を立て直す、戦隊ごとに陣形再編、個別回避。被弾艦は下がらせて。突入部隊は攻撃目標変更、中央突出個体を狙って」
冷静に正面を見つめるフィルナの目線には、普段のフランクさや人懐っこさはみじんも残っていなかった。
「我々はどうしますか?」
振り返った戦術長がそう尋ねる。約半数を突入のために回した今、使える戦力は限られる。蒼城と重巡2隻と1個駆逐隊で編成された第71戦隊、また左翼の戦闘集結によって手が空いた巡洋戦艦の第72戦隊、外周から砲撃を続けていた第75戦隊程度だろう。あとは護衛の宙雷戦隊が1つに巡洋戦隊が2つ、前線を張っている雪景たち軽巡主体の巡洋戦隊が2つと擾乱用の宙雷戦隊が1つ。右翼のカバーに巡洋戦隊が2つという配置である。他にも駆逐隊が幾らかいるものの、彼女たちには悪いが大型個体に対しては力不足だろう。
「我々は後衛を沈める。72戦隊と74巡と共に敵の戦列を迂回、下方から叩く。75戦隊と71巡は引き続き砲撃を敢行、引き付けるだけ引き付けてほしい」
要は機動力のある艦艇で後衛を叩く、残る艦は大型の注意を引く、というだけの話だ。フィルナは続けて尋ねる。
「蒼城、あの砲撃への対処法はわかった?」
「はい。あの砲撃は軸線上の制圧力はあるものの、上下左右への旋回に難があると思われます。斜行陣形による待避を徹底すれば、被害はかなり抑えられるかと。先ほどの砲撃と柚雪からのデータによって、より正確な被害範囲も絞り込めました」
蒼城はこくりと頷いてから淀みなく答えた。
「上出来。機関長、無理な機動するかもしれないけどいける?」
「…なーに、温い整備はしてませんよ。そうそう吹き飛びはしますまい」
ベテランの風格のある機関長がハッハと笑いながら返す。
「大型発砲の予兆あり!」
些細な変化も見落とすまいと、モニターにかじりついていたレーダー員が切羽詰まった声を上げる。
「これ躱したら行くよ!」
直後、機関の音が一段階高くなると同時に、休憩室に置きっぱなしだった本が右に吹き飛んだ。
『第73戦隊へ。貴戦隊は他の戦隊及び航空隊と共同で中央突出個体を撃沈されたし』
オマケ
艦艇(?)解説
オルムディア超個体群大型個体
全長:580〜650m
武装:内部格納式大型光弾砲 5門
収束式高エネルギービーム砲 1門
投射型強酸
伸縮式触腕 2本
個体数:不明
備考:ジルヨ星系に突如出現した未知の個体。
エルディア側の資料にも記録がなく、完全に初遭遇となる。舞雪型重巡洋艦4隻の砲撃をものともしない重装甲と、戦艦すら無視できないであろう火力を両立する個体。
第73巡洋戦隊と交戦した個体は、砲撃準備中に航宙機による雷撃で撃沈した。このことから内部はそこまで装甲が厚くないと思われる。
一方でその後すぐに開口部を閉じる個体がいることから、戦術の観察及び模倣又は対策が可能なのではないかと思われる。




