第十二話 イカにして勝つか
餐界のビジュアルについて
あくまでもイメージ的な話です
小型個体 直線型のアンモナイト(カメロケラスをイメージしてください)
基本個体 ティラノサウルスの頭蓋骨から下あごを取り除いたような形
大型個体 コウイカ
全体的に黒光りする岩石風味のある外骨格に 中のコアや目に見える部分は鮮やかな赤色に発光しているイメージです
追記:雪景と陽炎の戦隊番号を誤っていたため修正しました
雪景が第77巡洋戦隊旗艦 陽炎が第78巡洋戦隊旗艦 です
―第73巡洋戦隊 柚雪らが交戦中と同時刻
同じくジルヨ星系 第四惑星軌道
横一列に並び、大口を開けていた基本個体が、一斉にオレンジ色の光弾を放つ。一拍置いて次々とミサイルが着弾し、彼らはそこからいなくなった。一瞬前まで仲間だったものをかき分けて、泳ぐように小型個体の群れが飛び出してくる。
それを待ちわびていたかのように、艦隊から軽快な影が蒼い軌跡を引いて躍り出る。数は8隻、艦同士の間隔は広く、統制された戦列ではないとわかる。
「オルム小型群、艦首上方に散開。攻撃の予兆なし」
「連中、こっちを素通りするつもりですかね」
レーダー手の報告を受けて、戦術長は光学モニターを睨みつけている。右手は既にミサイル発射管の開放スイッチにかかっていた。
背後から伸びてきた、細く青い光線が艦の右舷側を通過する。小型個体の群れに向かって放たれた光線の数は6本。正確に群れの先頭集団を射抜き、殻をへし折り、焼き切る。艦隊防空を担う秋月型は、鋭くとがった巻貝のような形をしたオルムディア小型個体に対して最適化されている。
小型群の背後にいる基本個体や大型個体を狙う、戦艦や重巡の砲撃は眩い流れ星のように遠方を飛んでいく。既に宙域は友軍の撃つ青い光線と、オルム群が放つ橙色の光の弾で彩られていた。
一度群れを分散さえさせてしまえば、小型個体はさして脅威ではない。一方で基本個体の砲撃は、軽装甲の艦にとって致命打となりうる。小型個体を分散させること、それが前面に展開した第77、78巡洋戦隊、揺景型軽巡の任務だった。
「せっかくの出迎えを無視するとは、連中は礼儀を知らんようだ。無視できないほど盛大に歓迎してやろう。お隣にもそう伝えてくれ」
やれやれと頭を振りながらわずかに笑みを浮かべ、艦長はそういった。
サブフレームである雪景がそれを命令に翻訳し、僚艦に伝達する。
「雪景より第77巡洋戦隊全艦へ。対空間戦闘、目標オルム小型個体。全武装使用自由」
姿勢はそのまま、送信先を切り替えて
「雪景より第78巡洋戦隊旗艦、陽炎へ。本戦隊はこれより小型群を誘引する」
と同型艦の戦隊へ通信を入れた。
「了解!全砲門開け、弾種実体拡散。撃ち方始め。VLS発射始め」
戦術長が、待ってましたとばかりに号令をかける。砲塔が旋回が終わると同時に火を吹く。
群れの中心に届いた砲弾がひとりでに炸裂し、周りに光の粒子を高速でまき散らす。それは周りの巻貝の殻を焦がし、削り取った。その割れ目から血や体液が出ることはない、代わりに紅い光が漏れだしていた。
「先に回避機動取っておきます」
左手でスロットルレバーを、右手で操舵輪を掴んでいる航海長がそう告げる。
加速しながら天舵を取り、はぐれ個体の突進を躱す。側面の副砲が機敏に動き光線を連射、向きを変えた個体を排除する。
艦がどれだけ動いても、砲門はピタリと群れをとらえたままだ。
砲撃の混乱から立ち直れていない群れに対して、遅れて多数のミサイルが飛翔する。十分近づいたタイミングで子弾を分離し、それらが別々の個体を標的にする。
「着弾。前方の小規模群の殲滅を確認」
「お前も慣れてきたな」
爆炎に包まれた上方を見ながら、艦橋要員ではなく、雪景に艦長は話しかけた。
「…艦長節を理解するまでにかなり苦労はしましたが、翻訳程度はできるようになりましたね」
あえてそっけなく雪景は返す。
艦長はわざとらしく眉を上げる。
「俺の指示をそのまま戦隊無線には流せないって言うのか?」
とショックを受けたようなフリをする。
取舵をとった艦の側面を守るように、透き通る水色の球体が生成された。直後に命中したオレンジ色の光弾は、その球体の中で散り散りになって勢いを失う。
「戦隊全体の応答性が、56%程度低下するのを除けば可能です」
砲塔の追尾と照準、僚艦との同期を維持しつつも、雪景はそのジョークに乗った。処理能力にはまだ余裕がある。
ちなみに戦隊の応答性が下がるというのは、想定としてはかなりあり得る話だ。現に着任したての時期は、訓練でもかなり苦労した記憶がある。
「それは第75巡洋戦隊にとっては致命傷だな」
艦長は努めて真面目な顔を保っているが、口の端が上がるのを抑えていない。彼はおもむろに前へ向き直ると、何でもないように
「…これからもその調子で頼む」
と付け加えた。
一瞬雪景はハッとしたように目を見開く。
「…任されました」
彼女の返答からは、先ほどまでの軽い雰囲気が感じられなかった。
―雪景たちより後方、第七遊撃艦隊及び第71戦隊旗艦 蒼城の艦橋にて。
『こちら78巡旗艦陽炎、オルム小型個体の誘因に成功』
「蒼城了解。そのまま小型群を撃滅されたし。また敵部隊に撤退の兆候が見られる場合、深追いはしないこと」
『陽炎、了解した』
艦橋の中心に浮かんでいる投影映像には、この宙域にいる全艦艇の位置、速度、損傷状態が立体的に表示されている。自軍は緑色、敵群は赤色に色分けされ、今この瞬間もいくつもの光点が激しく動き回っていた。
「航宙機隊、まもなく戦闘宙域に突入します。航空機型4中隊、甲冑型3中隊」
「第72宙雷戦隊、擾乱作戦開始します」
通信長と通信士、さらにはレーダー手とサブフレームからも報告と連絡が相次ぐ。艦隊旗艦ともなると、艦橋に常駐する通信科員の数も増えてくるものだ。
しかし、情報は集まっているものの、蒼城はすべての部隊に逐一指令を飛ばしているわけではない。基本的な作戦行動に関しては、各戦隊指揮官や各々の艦長の裁量に任されているのが実情だ。そうでないと咄嗟の時に判断が遅れてしまう。すべてが高速で動いている宇宙空間において、一秒の判断待ちは致命的になる。特にエルディアはそれを身をもって知った。
「…にしても動かないわねぇ」
メインモニターに映る大型個体を見ながら、艦隊指揮官のフィルナは呟いた。戦闘が始まってからこの方、最後方にいる3体の大型個体たちは全く動く素振りを見せない。エストライとしても初めて遭遇する個体であるため、こちらも慎重にならざるを得ない。結果として小型個体や基本個体の数は減らせているものの、戦況は膠着しつつあった。
その大型個体―フィルナから見た第一印象は「イカ」であったが―を取り巻くように陣形を組んでいる個体もいるため、あれらが群れの中核であり、最近の餐界が妙に計画性のある行動をしている原因だろう。というのが第七遊撃艦隊の主流の見解だったが、彼女からすると違和感があった。
群れを操れるなら、わざわざ前線に出てくる必要などない。陣頭指揮ならもっと前に出るべきだ。
となるとそもそも指揮個体が別に存在するか、確実に勝てるという目算がある、ということになる。
いずれにしても、待つだけでは戦局は好転しないだろう。
「…じゃあ、こっちから仕掛けましょうかね」
誰ともなしにそう口にすると、指揮官は指示を出す。
「第73、74戦隊前進。右翼上段の基本個体群を排除、その後第73、74宙雷戦隊及び航宙機隊が突入、大型個体を叩く。第72巡と第72戦隊は左翼の援護へ、そのほかの戦隊は砲撃続行、確実に数を減らす」
指示は単純かつ明快に、調整は後ですればいい。開き直りともいえるほどの割り切りだが、これが第七遊撃艦隊の強みでもあった。
緩やかな弧を描いて砲撃を続けていた戦艦戦隊が回頭し、密集している個体へ頭を向ける。戦艦や巡洋艦の、盾となるように展開していた軽巡と駆逐艦たちが陣形を整え、盾から鉾へ姿を変える。
動き始めた艦艇たちの砲撃の隙間を埋めるように、重巡が砲撃を続けながら滑り込み、護衛の駆逐艦もミサイルを斉射する。
そんなこちらの動きに気付いたのだろう。戦列を組んでいた基本個体は艦首を向けた戦艦へ狙いを定める。大口を開ける魚のような、爬虫類のような形の外骨格から、チラチラと紅い光が漏れる。たちまちオレンジ色の光弾が開口部の中で光を放つ。その光が惑星上から見た主星ほどの輝きになった瞬間、それらの個体は一斉に光の弾を打ち出した。
蒼城はひとしきり戦況の整理と、各戦隊旗艦サブフレームとの情報同期を終えた。
「こちらの意図に気付いてますね…やっぱりあの…イカ?みたいなやつがリーダー格でしょうか?」
小さく息を吐いた後、フィルナに尋ねる。彼女のデータにあるイカ、とはあれの姿はかなり離れているように見える。ただほかの乗組員は「イカ」で納得しているので、やはり人間とは感性がずれているのかもしれない。少し、ほんの少しの落胆を押し隠した。
「まだわからないね。これから次第ってとこ」
指揮官は腕を組んだままだ、目線の先にあるモニターは光学モードに設定されている。そこに映っていた大型個体の姿が、突然変わった。
「ほら、撃てるんじゃない…」
フィルナの声に若干の愉悦が混じる。わからないことが一番の脅威である。単なる攻撃であれば、いなす方法はいくらでもある、そう言いたげだった。
オマケ
艦艇解説
揺景型軽巡洋艦
全長:184m
武装:16.3cm三連装実体弾兼用集束炸裂型陽電子砲塔 3基9門
(上部前部2基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計48セル
(上部と下部に16セルずつ 両舷に各8セルずつ)
80cm銛雷発射管 計12門
(四連装旋回式発射管 3基12門)
13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔
(両舷各1基 上部後部1基)
多目的投射機 12基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 12基
艦載機搭載数 2機
同型艦12隻
敵艦隊の擾乱や攪乱を主任務とする軽巡洋艦。
第七遊撃艦隊中心に配備されている。
主に対小型目標を想定されており、陣形を乱すことや、標的を分散させることを目的とする。
そのため基本的に同格以上の艦艇との砲撃戦では分が悪い。
主砲塔も炸裂型であるため、加害範囲では徹甲型に勝るものの、貫徹力では大きく劣る。重装甲の相手に対しては、有効な武装が銛雷か実体弾に限られる弱点がある。
一方で対小型艦の集団に関しては、高い機動性と速射力の優れた砲によって非常に有利に立ち回れる。
総評としては相手を選ぶものの、防空の負担を軽減する上でかなり有用な艦艇。




