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第十一話 異常な「艦隊戦」

本格的な戦闘にようやく入りました。

今回は重巡視点です。

―ジルヨ星系 第四惑星軌道 

主星を盾にするかのようにこの軌道の主はちょうど反対側に隠れていた。そう捉えてもおかしくないほどに、この宙域は数多の光線や誘導兵器が真空を切り裂いて飛び交う戦場になっている。


右砲戦(みぎほうせん)用意。戦隊各艦連動、一斉撃ち方」

艦橋の窓から見える砲塔が、一寸の迷いなく滑らかに回りピタリと照準を付ける。鈍色の砲身が静かに次の命令を待っていた。

「測敵よし、全艦個別照準。射程内です」

視線を窓の外の砲塔に向けたまま、柚雪(ゆずゆき)が答える。傍からはただの少女にしか見えないが、彼女の中ではレーダーや高微細カメラ、重力波ソナーなどからの情報が統合されている。彼女の視点、それと戦術長が見ているモニターには、自艦と僚艦の照準が色分けされて映っていた。ピントの合ったそれは中くらいの大きさの「基本個体」と呼称されるもの、向こうもこちらに攻撃が届く距離であることが本能でわかったのだろう。口…とおぼしき部分がガバっと開き、微かに光る粒子がそこに集まっていく。


レーダーの表示上で光る敵個体はざっと60ほど、そのうち1つは大きく、残りの3分の2程度は小さくて素早く動いている。

「攻撃はじめ」

「撃ち―かたー始め」

艦長の命令を聞くとすぐに戦術長が号令をかけ、同時に握っていた引き金を引いた。

この時を待ちわびていたかのように、砲口から一斉に閃光が放たれる。合計40本の青い軌跡が、4隻の重巡洋艦から光のない空間を照らしながら、並んだ数体の個体へまっすぐに伸びていく。

文字通りの「砲口」を開いていた基本個体を、ほとんど時間差なく何本もの光の槍が突き通す。しかし狙われた個体も座して死を待つわけもなく、貫かれる寸前に光弾を放つ。


「着弾!敵個体発砲、数4!小型個体多数近づく」

モニターを睨んでいたレーダー手が、報告と同時に警戒するように呼び掛ける。

「回避運動!小型は護衛に任せる。本戦隊は基本個体の掃討に集中、砲撃を続けろ」

「ヨーソロー!一斉回頭、底舵(そこかじ)20、取舵15、取軸転(とりじくてん)10」

「了解!照準合わせます。第720、727駆逐隊へ、接近する小型個体へ対処せよ」

直後に艦が左に傾いたのが分かる。慣性を制御しているとはいえ、最大戦速一歩手前で艦を回せば多少は揺れる。その揺れが一層の緊張感を生じさせた。

差し違える覚悟で放ったであろう光弾が、一番砲塔直上のシールドを掠めるように虚空へ消えていく。


『…こちら名雪(なゆき)。右舷対空兵装損傷、されど戦闘行動に支障なし』

すべてをかわし切ることはできなかったようで、三番艦の名雪が被弾する。ただシールドでかなり威力を殺したらしく、小破の範疇だろうと艦長は判断する。

『了解しました』

駆逐隊旗艦の応答と同時に数多のミサイルが光の航跡を残して一列に飛んでいく。それの行く先には目もくれず、柚雪の砲門からは次の光弾が放たれた。こちらが回避に時間を使った分、相手は既にチャージを終えている。先ほど撃ち漏らした基本個体、12体から一斉に光弾が放たれた。直後に22cmの閃光がそれらの個体を射抜く。大型の個体はいまだ動きをみせない、射程外なのだろうか、それともこちらの動きが速いせいだろうか。


「着だーん、今!…右舷方向の基本個体の全滅を確認。敵弾接近、数12。」

『柚雪へ!ごめん、数体撃ち漏らした!』

艦長の一瞬の逡巡は強引に断ち切られる。

「回避急げ!戦術長、対空戦闘!」

「右舷近接対空戦闘!ミサイルは間に合わん、火砲で叩き落せ!」

「天舵50、前転20!」

命令と号令と報告が錯綜する。それでも艦の動きは機敏だった。右方向からすさまじい連射音が聞こえると同時に、体が押し上げられるような感覚に襲われる。慣性や引力を制御していなければ、艦内はミキサーになっていただろう。

「―ッ艦底部被弾します!衝撃に備えて!」

柚雪が叫ぶ。無茶な機動をすれば当たらないというものでもない、それにしても今回の餐界の照準はやけに正確であった。

艦橋要員は咄嗟に歯を食いしばる、艦底部に近い乗組員たちはその場を離れようと急いだ。

その直後に覚悟していた衝撃とついでに爆音が聞こえる。

「…第四砲塔大破、射撃不能です。被害区域の隔壁閉鎖します」

「…こちらへ向かっていた小型個体は撃墜できました」

悪いニュースとそれを打ち消すには力不足な良いニュースが同時に入ってくる。サブフレームは艦の状態を常に把握できているため、被害報告もダメージコントロールも早い。


「チッ。当たり所が悪かったか。全体の被害状況知らせ、残りのオルムは?」

舌打ち一つしてから艦長は思考を切り替えた。やはり砲塔は弱点となりうる、装填されていたのが実体弾だったら誘爆の危険性もあった。

「…本艦含め12隻中小破5、中破1。継戦は可能かと」

少しの時間目をつぶった柚雪が、目を開いてから艦長の方を見つめてそう答える。

「小型個体、引いていきます。っと大型に動きあり!開口部開きました!」

次にレーダー手が報告した。これ以上の被弾は避けなければならない。それも未知の相手の砲撃だ、シールドの効果も下がった今、当たればどうなるか分かったものではない。

小型個体が後退したのが気がかりだが、それ以上に未知の砲撃の方が優先度は高かった。


「まず主砲斉射、直後に偏向傘を展開し砲撃を無効化する」

「了解。全艦連動、目標オルム大型個体。…照準よし」

「VLS16、17番発射始め、主砲撃ちー方ー始め」

艦の後部から二本のミサイルが飛び出す。と同時に38本の閃光が大型個体に集中した。

ゴンッというまるで、ハンマーでコンクリートの塊を殴ったかのような音が聞こえると錯覚するほどにあっさりと、閃光は散り散りになる。

「…命中、されど効果を認めず」

直後に艦隊を覆うように、水色の煌めく球がそこかしこに出現する。


展開されたエネルギーの傘を意に介さず悠々と、その個体は光弾を大きく、明るくしていく。

「接近して銛雷(せんらい)で決める。駆逐隊に掩護を要請…」

「上方より小型個体多数接近!」

レーダー手の大声と同時に、横にいた秋月型が猛射を始める。

「クソ、対空戦闘、回避運動!」

ことごとく間が悪い、とばかりに悪態を吐く。

「大型発砲!」

さらに間が悪い、まるで狙っているかのようだ。

いや…もしかすると本当に狙っているのかもしれない。艦長がそう思い直した時。


後方に爆炎が見えた。

「-玉雪(たまゆき)被弾!通信途絶!」

柚雪の悲痛な声が聞こえる。大型が一度に放った光弾は5発、3発は外れ、1発は727駆の一隻の後部主砲を抉り取っていた。そして残りの1発が、僚艦の玉雪の艦底部に大穴を開けたらしい。

「傘の間を狙ったのか…?小型を囮にして追い込んだ?」

疑問が口から漏れる。

何かがおかしい、だがそれを言語化する猶予を、戦場は与えてくれない。

主砲は効かない、銛雷は射程外、名雪は玉雪の救助に回るしかない、727駆も僚艦の救助と曳航が必要だ。720駆は護衛専門である。

「奴が撃つ前にケリをつけるぞ。急速回頭、最大戦速で突入し、大型個体を沈める!」

賭けになる、正面から被弾すれば大破は確実だ。そもそも銛雷が効く保証もない。それでも曳航や救援の時間を稼ぐにはこれしかないだろう。

「了解。淡雪、行くよ」

四番艦の淡雪を引き連れて突入を試みる。

-正確には回頭した瞬間。

『こちら第72航空戦隊、これより貴戦隊を援護する。5秒待たれよ』

通信が入ると同時に、眼下を数機の航宙機が通り過ぎていった。再び攻撃しようと光弾を溜め始めた大型個体に、十本以上の銛が突き刺さって爆発する。直後に誘爆するかのように、大型個体はあっけなく宇宙の藻屑となった。

レーダーから赤い表示が消える。心なしか周りの艦も呆気にとられたかのように動きを止めた。

「…やりたい放題だな…」

静まり返る艦橋に、艦長のため息が大きく響く。

さっきの覚悟はなんだったんだとか、もっと早くこいよとか、色々言いたいことはあったがまず口をついて出たのはその言葉だった。



オマケ


艦艇解説

舞雪型重巡洋艦

全長:267m

武装:22cm連装実体弾兼用集束徹甲型陽電子砲

   (上部前部2基 後部1基 下部1基)

   垂直ミサイル発射管 計42セル

   (上部と下部に14セルずつ 両舷に各8セルずつ)

   80cm銛雷発射管 計24門

   (艦首8門艦尾4門 4連装旋回式発射管3基12門)

   (13.2cm広角型連装集束徹甲式陽電子球状砲塔)

   (両舷2基ずつ 計8門)

   多目的投射機 12基

   28mm連装対空間防御レーザー砲塔 32基

   (36cm多段加速式実体弾砲)

   艦載機搭載数 4機

同型艦12隻


主に第七遊撃艦隊に配備される、機動砲撃型重巡洋艦。

遊撃艦隊の名前通り戦場を縦横無尽に走り回れる、速力と機動性を備えている。

火力も巡洋艦としては高く、アウトレンジ運用も可能。

一方で防御面にはやや不安が残り、シールドや偏向傘などの外部防御に偏重している。

艦名は概ね「〇〇雪」。



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