第九話 丁二任務部隊戦闘記録
散々「異常」を強調しておきながら「通常」を書いていなかったので書きました
これがエストライにとっての「いつもの餐界」ですね
【丁二任務部隊戦闘報告書】 (第2096号通常交戦記録)
任務内容:隣接星系に出現した餐界群への対処
当該星系:たか座方面、ルイラ星系
参加部隊:丁二任務部隊―旗艦:第25巡洋戦隊旗艦 涼雨
第25巡洋戦隊、第26巡洋戦隊、第218駆逐隊、第219駆逐隊、第222駆逐隊
戦闘結果:侵入した餐界個体の殲滅の確認(活動停止確認16、生体反応消失13、消滅8)
当方損害:小破4隻、合計被弾13ヵ所 人的被害、軽傷4名
航行および戦闘行動ともに支障なし
淡白な、いつもの報告書である。
しかし現実にはもう少し、「色」があった。
―ジルヨ星系から120光年
カラクレ星系は、銀河規模で見ても珍しい主星を持っている。この主星ははるか昔に生を終え、その最後を華々しく散って後任の星の種を撒くことに費やした後、極めて高い密度を持った中性子星としての第二の人生を歩んでいる。
そんな老後を謳歌している主星を尻目に、十数隻の艦から成る艦隊が航行していた。
膨大な質量と磁場をもつ中性子星は、時空間の流れにも大きな影響を与える。惑星の海で言う渦潮のようなものだ。本来なら干渉しないように違う航路を選択するのが理想だが、今回は第七遊撃艦隊の増援としての任務がある。多少ワープできないとしても時間短縮のためにこの星系を抜ける必要があった。
旗艦の涼雨の艦橋に、通信が入ったことを知らせる通知音が響く。
交代したばかりの通信士が少しばかり焦ったように内容を報告する。艦長は休憩に向かったばかりで、副長が艦を指揮していた。
「えっ…と。隣接のルイラ星系を巡回中だった警邏艦杏より入電です。『外縁部より重力震感知、餐界の可能性大にして支援を求む』とのことです」
第七が既に交戦準備を整えている以上、できるだけ急いで行くのがいいだろう。という引継ぎの時に艦長から伝えられた指示を、副長は思い返す。ただ一方で、今更急いでも戦闘開始そのものには間に合わないだろう、という思いもあった。第七遊撃艦隊の手の早さはほかの艦隊でも有名な話だ。どのみち侵入してきた群れは排除する必要がある。そうであれば最短経路で全力で叩くのが一番早いだろう。
「よし、進路を変更する。目標、ルイラ星系。侵入してきた餐界群を殲滅する」
後半の思考は喋り始めてからのそれらしい理由付けだが、副長は全艦に指令を出す。それを聞いてしっかり寝たのか、普段よりも張りのある声で航海長が答える。
「了解しました!25巡全艦連動、面舵30、天舵50。第三戦速から第四戦速へ」
「了解です。丁二全艦へ、本部隊はルイラ星系へ侵入した餐界群を叩く。目標、ルイラ星系へ」
航海長の指示を涼雨が、同時にほかの艦へ中継する。
その声と舵に応えるように艦隊は、ガスのカーテンの向こうで回っている老いた星に背を向ける。それと同時に主機関のノズルから青い閃光を迸らせながら加速していった。
―同時刻 ルイラ星系外縁小惑星帯
何の変哲もない空間が突然、水面に石を投げ込んだかのように波打ち、波紋が広がる。その波紋とゆがみが最高潮に達すると、空間を突き破るかのように異形が姿を現した。周りの空間にも次々と波紋が広がり、大小さまざまな異形が抜けだしてくる。黒光りする金属のような刺々しい外骨格に身を包み、眼に見える器官は、紅い光を放つガラス玉のようだった。身体の後ろからは生物であることを主張するかのように何本もの触手が生え、短いものにはまるで蝙蝠の羽のような、あるいは水かきのような膜が張っていた。それらは群れを成して、どこへ行くともしれず移動を開始した。
「…餐界のワープアウトを確認、数およそ30」
涼雨と比べると手狭な艦橋で、通信士が報告する。
「涼雨に映像転送、然る後に本艦は現宙域を離脱する」
警邏艦としての務めは終わったと、艦長はすぐにそう指示をする。
「わかりました。先に舵を当てておきます」
艦長は軽くうなずく。航海士が少し操舵輪をひねると、わずかにスラスターの動作音がした。
「…映像鮮明化処理と位置座標の同梱終わりました。もう送っても大丈夫です」
手元に浮いている携帯式のディスプレイを操作していた杏が動きを止める。本来ならサブフレームは外部式のインターフェースや操作機構は必要としない。ただ性格によっては敢えて、「操作する」ことを重視するサブフレームもいる。杏もその中の一人らしい。
「受け取った。では涼雨に送信します」
通信士がすぐに涼雨に映像記録と餐界の座標を含めたデータを送信する。
「よし、転舵反転、増速し現宙域を離脱する」
艦長がそう言うが早いか警邏艦杏はすぐにルイラ星系を後にした。
「杏からデータ来ました!メインモニターに出します」
涼雨の船内は騒がしくなっていた。だが援軍に向かう途中で戦闘を挟むのだから無理もない話ではある。一方で艦橋では送られてきた映像と座標を確認している真っ最中だった。
「映像解析しました。出現した個体は37体、うち20体が小型個体で17体が基本個体と思われます」
真っ先に送られてきた映像を解析した涼雨が副長に報告する。
「副長、針路はどうしましょうか。定石通り割り込みますか?」
副長の方を振り返りながら航海長が尋ねる。敵艦隊の正面方向に先回りしてから、腹を見せての斉射で崩すというのが第二打撃艦隊の定石だ。数的に不利ではあるが、砲門数ではこちらが有利である。その優位を生かすためにはできる限りアウトレンジで削るのが最適解と言えるだろう。
「それでいこう。ただこの辺は星雲の影響で、航行が難しい地帯や障害物も多い、十分に注意してくれ」
「戦術長より意見具申。星雲のガスの影響で誘導兵器や光学兵器はやや効力が落ちると予想されます。実体弾中心での面制圧がよろしいかと」
副長が航海長に最低限の指示を出した直後に、戦術長がそう意見を述べる。確かに実体弾の方がこの戦場では有利に働くだろう、ただこの後にも戦闘が待っていることを考えると、弾数に限りのある実体弾を乱費するのは得策ではないように思えた。
「確かにそうだ。だがこの後もある、大事に使ってくれ」
「了解」
既にあの中性子星の重力圏は脱した。前にはオレンジ色に輝く星がだんだんと大きくなってきていた。
ようやく、ルイラ星系の外縁小惑星帯がレーダーに映り始めた。と同時に敵対勢力を示す、赤色のマーカーもポツポツと表示される。
「全艦対艦戦闘用意」
駆逐艦稲露の艦長はそう号令をかける。
既に旗艦の白露からの指令で、第一種戦闘配置は発令されている。
「了解。砲撃戦用意、照準は稲露、任せたぞ」
発砲前の安全装置を解除しながら、戦術長は稲露に声をかける。
「はい。大丈夫です」
稲露が頷くと同時に、白露から通信が入る。
『白露から222駆全艦へ。本隊は前衛として前に出ましょう。陣形を複縦陣へ変更、集束砲と対空間レーザーで小柄個体を落とします。攻撃目標自由』
その通信と同時に、後ろにいた涼雨たち巡洋戦隊が一斉に砲撃を開始する。2個巡洋戦隊8隻の一斉射で、まだこちらに気付いているのかすらわからなかった餐界群は一気に半数近く数を減らす。
その間に陣形を整える。白露と稲露を先頭に、それぞれの後ろに花露と露草が並ぶ。
「白露が前進を開始しました、照準を同期しますね」
稲露が艦長の方を見る。
「わかった。航海長、第四戦速、白露に合わせて。戦術長、砲撃始め。攻撃目標は白露と重複無し」
「了解。第四戦速、陣形維持」
「ヨーソロー。主砲!撃ちーかた始めー!」
稲露の主砲から閃光が放たれる。それらはほとんど正確に、群がろうとした小型の餐界を撃ち抜いた。
「左舷より小型個体!」
向かってくる群れに対して正面から突っ込む形になった第222駆逐隊は、上下左右からの攻撃に晒される。ただ砲撃できる基本個体は、第25と26巡洋戦隊の熾烈な砲撃でほぼ全滅しており、突っ込んで自爆する小型個体も、大半が砲撃に巻き込まれて消えていた。
「主砲そのまま。近接戦闘!」
レーダー手を兼ねている通信士の叫びに、戦術長は冷静な命令で答える。側面に配置されたレーザー砲塔群が、目を覚ましたかのように一斉に動きだす。たちまち横っ腹を突こうとした個体は爆発した。
その奥にいた個体も、後続の露草のミサイルが命中して居なくなった。気がつけば涼雨の砲撃も止まっている。
僅か30分程度の出来事だった。
『戦闘終了。各艦被害報告、必要であれば応急修理後、予定通りジルヨ星系へ向かう』
涼雨から通達が入る。どうやら被害は直衛の218駆に砲撃が命中した程度らしく、それもかなり防護幕で防いだため軽傷のようだ。
-第七への援軍が必要というのは、単純に守る範囲が広くて手数が欲しい、という意味だろう。
この時はそう思っていた。
オマケ
艦艇解説
五月雨型航宙駆逐艦
全長:123m
武装:13.2cm連装実体弾兼用集束徹甲式陽電子砲塔
4基8門 (上部前方2基 後部1基 下部1基)
垂直ミサイル発射管 計24セル
(上部と下部に12セルずつ)
80cm銛雷発射管 計12門
(艦首4門 艦尾2門
三連装旋回式発射管2基6門)
多目的投射機 12基
28mm連装対空間防御レーザー砲塔 16基
艦載機搭載数1機
同型艦多数
エストライの汎用駆逐艦。
直衛型の秋月型以上の建造数を誇り、防空から雷撃まで多彩な任務に対応できる。
艦隊ごとに特色があるため、同じ五月雨型でも微妙に武装が異なる場合がある。
またサブフレームも姉妹艦が多く、また汎用という都合上役割が被りやすいこともあってか、個性を出すことに熱心な傾向がある。
余談ではあるが、とにかく数が多い駆逐艦の中で、更に涼雨型や舞雪型と艦名の傾向が似ているため、艦名を考える際に担当者が毎回苦心しているという噂がまことしやかに囁かれている。




