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第八話 布石

登場人物が増えると字数が増えますね

後司令部メンバーが4人くらいいますので

もう少し賑やかになるかなと思います

-海皇都 横瀬区 統合司令部庁舎一階

エレベーターから続く廊下を歩きながら、アスーイは振り返って声をかける。

「会議室の準備をしておいてくれ、あと第一と第四と第五と第八の指揮官にも声かけといてほしい」

数歩の距離を空けて、左後ろをついてきていた天翔が答える。

「了解しました」

暫し天翔の目線がどこか遠くに向かう。艦隊旗艦同士のネットワークはこういう時に便利だ、問題点を挙げるとするなら、超空間通信のハブがあるそれぞれの星系基地の近辺でないと、通じにくいことぐらいか。

これから使う、多方向遠隔会議システムも同じ制約を抱えている。

それでも最早同じ空を見れないほど遠く離れた人と、ほとんど時間差なく話せるのは技術の大きな進歩だと思う。


そんなことを考えているうちに、会議室に到着した。普段は「会議室」としか呼んでいないが、基本的に話し合うのが大将クラスというなかなか敷居の高い部屋であったりする。

アンティークな雰囲気のある、木目をあしらった自動ドアが開くと、中には先客がいた。

「あ、来た。スピーチお疲れ様〜」

両手に湯気が出ているカップを持ち、穏やかな表情でこちらを見やる女性。

「どうも。それにしても早いな、イルミナには直に連絡したのか?」

簡単に応えつつ、天翔の方に尋ねる。

「はい。構内にいらっしゃったようでしたので、個人用端末に入れた方が早いと思いまして」

天翔の返事に「あーなるほど」と頷きつつ、自分の席に向かう。厳密に言えば決まっているわけではないが、そこそこの期間使っているとある程度位置が固定されてくるものだ。立場上自然と上座に座ることになる、ただ椅子は全部同じもので、単純に全体を見やすい以外には大した意味はない。考えてみれば上座は何かあった時に、一番逃げにくい位置なのかもしれない。というどうでもいい思考が遮られる。

「はいコーヒー。天翔ちゃんは砂糖入りね」

目の前に淡い緑色のカップが置かれる。彼女自身も階級は高いにも関わらず、全くそれを笠に着る素振りはない。昔からそうだったが、その他の人のために色々動けるところは見習うべきかもしれない。

「ありがとう。他もそろそろ来るかもな」

簡単に礼を言ってカップに口を付ける。それぞれの星系基地にいる面々が、ぼちぼち入ってもいい頃合いだ。

「ありがとうございます。司令、作戦室とデータリンク繋ぎますね」

カップを受けとった天翔が手元の端末を操作すると、テーブルの中央にホログラムが浮かぶ。青、白、オレンジ、赤――恒星の色はさまざまで、その星々を繋ぐ銀路の路線網も表示されている。エストライの勢力圏、第一から第三の警戒ライン、各護衛隊や哨戒部隊、どの艦隊がどこの星系にいるかまで分かるようになっている。そしてその地図は、常に動き続けている。その中で「ジルヨ星系」、と表示されている恒星系が、赤く縁取られて強調されていた。

その直ぐ近くの星系には「オラット」と表示されていて、そこに「第七遊撃艦隊」とルビが振られた光点が集まりつつあった。


3人とホログラムしかいない会議室に、トゥルンと電子的な音が鳴る。誰かが会議システムにアクセスしてきた合図だ。タイミングというのは意外と被りやすいもので、少し間を置いた後に、数度連続してまた音が鳴った。

「…全員来たんじゃないか?」

着席した天翔に声をかけてみる。

「はい。カロント指揮官、スズナ指揮官、ライゼ指揮官、入室承認待ちです」

イルミナが少し息を吐いたのが見えた。普段なら同僚であり友人でもあるが、それはそれとして仕事に集中する必要がある。総司令としての思考に切り替えてから、天翔に指示を出す。

「全員承認してくれ、これから臨時の作戦会議を始める」

天翔が手元の端末を操作すると、長机の周りにホログラムが立ち上がる。

ホログラムに送られてくる映像や音声が安定するまで少し待ってから、総司令は招集の理由から話し始める。


「突然呼び出してすまない。今回集まってもらったのは、かご座方面の餐界の件だ。恐らく知っていると思うが、数時間前に第七の偵察部隊が餐界の大規模集団と接敵した。ここ最近の動きを見る限り、餐界側に何らかの変化があったと思われる。」

アスーイは一拍置いてから続ける。

「天翔、かご座方面に展開していた部隊の、ここ数週間の戦闘ログを出してくれ」

天翔がデータベースを検索して、その結果を素早く机の中央に投影する。星系図は端の方へ追いやられて窮屈そうに小さくなった。小さくなった星系図と、今投影されたばかりのログを見比べると、餐界の目的が透けてくる。

「…なるほど」

一通り目を通したカロントが最初に口を開く。

「明らかにこちらの損害も餐界側の損害も少ない。尚且つこちらの部隊が交戦するまでは下がらない。防衛の数や配置や到着までの時間を測っていた…それが総司令のお考えですね?」

相変わらず頭の回転が早い。正直時間を計っているとまでは考えていなかった。「流石だな」と言いながら返す。

「そういうことだ。第七も駐屯星系を変えたり、任務部隊を分けたりして攪乱を図っていたらしいんだが、奴らはジルヨに来た。3つに分かれていた打撃部隊のちょうど中間地点、尚且つ植民惑星まで直線距離で一番近い星系だ」

「つまり…」

スズナが意見をまとめようとする。

「ここ数週間のかご座方面の餐界は、威力偵察して侵攻の位置とタイミングを探っていた…と」

さっきまでの会話をたった一文でまとめてしまった。

「それも、偵察から実行までが早いです。その上これまでとは明らかに戦術が違います」

違和感の正体はそのあたりにある。これまで戦術など存在しないと思われていた相手が、突然戦術を飛ばして戦略を構成してきている。

「ああ、単なる群れの連携ではない。間違いなく『何か』がいる、戦略や戦術を組めるようなのがな」

スズナがまとめた意見を元に持論を展開する。何かはわからないが確実にいる、それは疑念ではなく確信に変わりつつあった。

ただそれはある種危険な兆候だ。思考が固まってしまうと本質を見落としてしまうことがある。

だからこそ会議を開いた。ほかの意見が必要だった。


「えっと…」

今まで黙っていたライゼが遠慮がちに声を上げる。全員の視線を集めてしまい、一瞬気圧されたように少し身を引きながらも、言葉を続ける。

「ただ…今その異常な餐界の相手はフィルナさんがしてるんですよね?私たちは…何をすれば…?」

―正直ここからが本題と言える。もうこれまでの餐界ではない前提で考えたほうがいいだろう、となると一つ、大きな懸念点が浮かび上がる。

「そのことなんだが…」

頷いてから、ここで一度言葉を切る。

「あいつらが陽動の可能性がある」

カロントが眼鏡の位置を直し、イルミナが目を丸くするのが分かる。ライゼは心なしか目つきが鋭くなり、スズナは考え込むように視線を下げた。天翔はここに来るまでに既に話していたからか、そこまで大きな反応はない。

「…第七が交戦しようとしている部隊は囮で、本命が別にいる…というわけですか。可能性としてはかなり低いように思えますね」

いつもと変わらない調子でカロントはバッサリと切って捨てる。その反応は想定内だ、ただ念には念をという言葉もある。

「なくはない…けど実際のところフィルナちゃ…第七艦隊が一ヵ所に集まってる以上、警戒線に穴が開いてる。どのみちそこは埋めておかないと」

イルミナが指摘したのは警戒ラインの穴だ。本来そこを哨戒していた朝霧型は損傷で撤退した。打撃と航宙機を使った偵察を兼ねていた甲七任務部隊も引き上げている。

「正直、第七が任務部隊を全部集めないと対応できそうにない、ギリギリの数を攻勢に出してきたように思えてならないんだ。第七なら間違いなく止められる、むしろそれを狙ってるようにみえる」

見つける者も止める者も存在しない。今見つけた大群を叩き返すまでの時間、そこは明確な「穴」になる。

「もし餐界が第七遊撃艦隊の戦力の詳細を知っているならそんな芸当もできるでしょうが…」

スズナが言葉を濁す。

「流石に大規模な艦隊派遣は難しいのでは…?」

「うん…たしかに穴埋めは必要。だけど正直に言うと、第七艦隊が本格的に交戦したうえでほかの艦隊も大々的に動かすと、間違いなく大ごとになると思う。予算のこともあるし…」

イルミナも補足する。艦隊を動かすうえで一番の制約になるのは、やはり物資と予算だろう。実体弾やミサイルなどの運搬経路や各種補給物資の経路を策定する必要がある。ほかにもその購入や生産の資金、そもそも艦を動かしたり、整備したりするのにもお金や物や人は必要になってくる。大規模であればあるほど、事後処理が複雑で面倒なものになってくる。

「なるほど。必要最低限、かつ想定される最悪に備えられる編成を向かわせよう、ということですね。だから我々に声がかかったと」

カロントの言うとおりだ。

「その通りだ。だから今回は第八要撃艦隊を中核にした、小規模な艦隊を編成したい」

ライゼの方をまっすぐ見ながらアスーイははっきりと言った。

「…えっと…」

少し緊張しながらライゼがゆっくりと確認するようにつづけた。

「艦隊ってことは、私が出ればいいんでしょうか…?」

「そういうこと。第五と第四からもいくつか戦隊を貸してもらいたい、正直どう転ぶかわからないからな」

待ち伏せ戦術を駆使する第八要撃艦隊だけでは状況によっては不利になるかもしれない。

航宙機を主体とした第四投射艦隊と、敵陣への強行突入を主体とした第五機動艦隊。そこの所属艦艇であれば、柔軟に任務に対応できるだろう。


「了解しました。大半の艦艇はメンテナンス中ですが、巡洋戦隊と宙雷戦隊なら派遣できるはずです。確認します」

早速スズナが、何やら画面の外の誰かと話しているのがわかる。おそらく旗艦の天貫だろう。

「現状即応しやすいのは、丙四にいる47空と44戦かと。前衛は第五にお任せします」

カロントもすぐに戦力の抽出を始める。これぐらいの数なら、仮に空振りに終わってもそこまでのダメージはないはずだ。

「ひ、ひとまず旗艦戦隊と偵察戦隊、あと一個宙雷戦隊と二個戦隊連れていきます。あ、場所はどの星系でしょう…?」

至極当然の疑問をライゼが投げかける。


アスーイは既に予測出現地点に目星はつけていたが、念のため確認しておくことにした。

「天翔、星系図の方を出してくれ。かご座方面を拡大して見たい」

そう指示すると、天翔はすぐに星系図を拡大して表示した。問題のジルヨ星系、第七遊撃艦隊が集結しているオラット星系も見えている。そして仮に本命がワープアウトするとすれば、外縁部沿いかつ第七主力から遠い星系となる。とすれば、と浮かんでいる星系図を指でなぞる。

「…ここだ」

ジルヨ星系から遠く、かつ外縁部沿いの第三警戒ライン上の星系。さらにエストライの複数の居住惑星への最短経路。

指さされた星系名をイルミナが読み上げる。

「フルト…」

「フルト星系の第四惑星には生態系があると確認されています。」

天翔が補足する。

「前哨基地、としては十分かと。ジルヨにあれだけの数を投入できるなら、本格的に餐界に防衛を固められれば手が出しにくくなります」

餐界は恐らく、人間が居住可能な惑星であれば繁殖できる、とエルディア側は推察している。

「…急がないといけませんね」

普段より少し声のトーンの下がったライゼの声が、やけに室内に響いた。


(艦艇解説コーナーは今回はお休みです)

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