07章 ディープフェイク自己賛美生成計画
高地位早成子は、夜の地下スタジオで一人モニターを見つめていた。
支配者DSから提供された最新のディープフェイク生成装置が、静かに稼働している。
「もう少し……そう、そこ。しみは全部消して」
画面の中の彼女は、現実よりも滑らかで、異様なほど白かった。
そばかすも、年齢を感じさせる影も、存在しなかったことにされる。
鹿のような大きな瞳は強調され、口角は完璧な角度で吊り上がる。
――だが、その笑顔は「笑っている」のではなかった。
口だけが、命令に従って開閉しているだけだった。
「これで庶民は安心するわ」
高地位はそう呟いたが、その声には確信がなかった。
コモドドラゴンの遺伝子が疼き、背中の奥で不快な熱がうごめく。
翌日、その映像はニュース、SNS、動画配信サイトを埋め尽くした。
「優しい指導者」「国民の母」
そんな称号が、作られた肌の上を滑っていく。
しかし――。
「……なんか、変じゃない?」
地方都市の小さな食堂で、常連の主婦がテレビを見て眉をひそめた。
「前より綺麗になってるけどさ、目が笑ってない」
「作り物っぽいよな」
別の家では、もっと直接的な反応が起きていた。
「ぎゃあああ!」
幼い子供が、画面に映った高地位を見た瞬間、泣き叫んだのだ。
理由は説明できない。ただ、本能が拒絶していた。
「ほら、まただよ」
「うちの子、高地位さん出ると必ず泣くんだ」
親たちは困惑しながらも、薄ら寒い感覚を共有していた。
あの笑顔は、安心させるためのものではない。
「観察する側」の笑顔だ。
さらに、高地位が主導して作られた子供・オタク向けアニメも問題になっていた。
カラフルで、耳障りのいい主題歌。
しかし内容は空虚で、どこか説教臭く、魂が抜け落ちている。
「キャラが全部同じ顔じゃん」
「これは恥ずかしい」
ネット掲示板では、そんな感想が静かに積み重なっていった。
その頃、別の場所でリュウホウ――グラフェンマンは、街の片隅のカフェでその反応を見ていた。
「……やっぱりな」
彼はグラフェンの薄膜越しに、情報の流れを読む。
ディープフェイクは完璧でも、「違和感」までは消せない。
庶民の感覚は、支配者DSが最も軽視してきたものだった。
一方、ブレンダ・ゲッツは、別ルートから同じ映像を見ていた。
彼女の目には、白すぎる肌の奥にある焦りが見えていた。
世界を支配したい者同士でも、やり方には決定的な違いがある。
地下スタジオで、高地位早成子は不機嫌にモニターを叩いた。
「なぜ、完璧なのに……!」
その背後で、鹿の影とコモドドラゴンの影が、壁に歪んで揺れる。
美化された仮面が厚くなるほど、正体は透けて見える。
そして、庶民たちはまだ言葉にできないまま、確かに感じ始めていた。
――この支配者は、どこか「人間ではない」と。
新型コロナ対策の余剰金一兆円が、
高地位のしみや皺消しを行うためだけに消えていた。




