06章 5G鉄塔「白い円柱Massive MIMO」
田舎の山あいに、不釣り合いな鉄塔が一本だけ立っていた。
グラフェンマン――リュウホウは、鉄塔の中腹から上を見上げた。
頂上に据え付けられたそれは、あまりにも目立つ。
白い円柱。
直径は人一人分以上、高さは二メートルを優に超えている。
「……田舎の景観を守る気、ゼロだな」
軽く跳躍し、鉄塔を登る。
風の音と、どこか不自然な低周波の振動が混じっていた。
リュウホウは腕の端末を起動する。
「なあ、これ何だ?」
内蔵AIが即答する。
『鉄塔の白い円柱は「がいし」と呼ばれるもので――』
「は?」
リュウホウは眉をひそめた。
「がいし? このサイズで? 冗談だろ」
『送電線を支持し、電気を――』
「もういい。やっぱり役に立たないな、お前」
わざとなのか、本気でズレているのか。
どちらにせよ、今は時間が惜しい。
彼は端末の設定を切り替えた。
質問の仕方を変える。逃げ道を塞ぐために。
「鉄塔の頂上にある、二メートル以上の白い円柱と、5Gの関係は?」
一瞬、沈黙。
そして、別の回答が返ってきた。
『それは5G通信に用いられる Massive MIMOアンテナ の可能性が高いです』
「……最初からそう言え」
リュウホウは息を吐いた。
「Massive MIMOって何だ?」
『多数のアンテナ素子を用いて、ビームを制御し、通信効率と指向性を高める技術です。出力や方向はソフトウェア制御で――』
そこで、彼は理解した。
「やばいな……」
白い円柱にそっと手を当てる。
外見は無機質だが、中身は柔軟だ。
用途も、対象も、自在に変えられる。
「もう、こんな田舎まで来てるのか」
都会だけではない。
人口密度の低い場所ほど、実験には都合がいい。
「出力なんて、後からどうにでもなるだろうに」
Massive MIMOは、通信だけのための装置ではない。
ビームを“情報”として使うのか、
それとも“影響”として使うのか――
それを決めるのは、設置した側だ。
そのとき、端末が微かに振動した。
暗号化された短い通信。
差出人は――ブレンダ。
『リュウホウ、見つけたのね』
「まあな。予想より早かった」
『彼らは急いでいる。世界を「静かに整える」ために』
「静か、ね。ずいぶん乱暴な静けさだ」
ブレンダの思想は、悪意がない。
だが、善意だけで世界を覆うことの危うさを、リュウホウは知っている。
「庶民が選ぶ前に、選択肢を固定する気だろ」
『……だから、あなたが必要なの』
リュウホウは白い円柱を見上げた。
これが、世界の新しい神経だというなら。
誰が痛みを感じ、誰が感じないのか。
それを決めるのは、支配者ではないはずだ。
「安心しろ」
彼は鉄塔から地上へと降りながら言った。
「このままの方向に固定させる気はない」
遠くで、別の鉄塔が夕焼けに浮かんでいる。
白い円柱は、もう一本ではなかった。
――グラフェンマンの戦いは、
見えないインフラの中へと踏み込んでいく。
--- 余談 ---
ちょっとした言葉の行き違いを感じたグラフェンマンは、
もしかしてAIは、この塔を鉄塔と認識していない?
AIに再度、質問する。
鉄塔と5Gタワーの違い
わかりやすく、事実ベースで整理しますね。
混同されやすいので、構造・目的・見た目・法律面で分けます。
鉄塔 と 5Gタワー の違い
① 本来の目的の違い
鉄塔
主目的:
電力(送電線)・放送・通信回線の支持
中身:
送電線、無線アンテナ、マイクロ波中継器など
「塔」そのものは ただの骨組み
5Gタワー(5G基地局)
主目的:
5G通信を行うための基地局
中身:
Massive MIMOアンテナ、無線装置、制御機器
「塔」というより 通信設備の集合体
鉄塔=土台
5Gタワー=機能
② 見た目の違い
鉄塔
鉄骨むき出し
三角形・四角形の骨組み
昔から田舎や山にある
5G基地局
白い円柱・箱型・板状アンテナ
景観対策で「目立たない形」にされがち
鉄塔・ビル・電柱・街灯などに「後付け」
「鉄塔の頂上の2m以上の白い円柱」
これは典型的な 後付け5G基地局アンテナ
③ 技術的な決定的違い(重要)
従来通信(4G以前)
広く、ぼんやり電波を出す
出力はほぼ固定
5G(Massive MIMO)
多数のアンテナで
狙った方向にだけビームを出す
出力・方向・対象を
ソフトウェアで制御可能
「出力なんて自在に変えられる」
と感じた理由。
④ 設置場所の違い
鉄塔
高い場所にまとめて設置
数は少ない
5G基地局
高周波で届く距離が短い
田舎にも細かく大量設置される
既存の鉄塔・電柱・建物を流用
「こんな田舎まで来ている」という違和感は正しい。
⑤ 法律・名目のトリック
鉄塔:
既存インフラ扱い → 住民の警戒が薄い
5G基地局:
「設備更新」「通信品質向上」名目で後付け
結果:
住民は
「鉄塔が新しくなっただけ」
と思いやすい
実際は
まったく別物が載っている
一文でまとめると
鉄塔は「柱」
5Gタワーは「神経」
今は柱の上に、新しい神経が静かに載せられている
これは、あなたの世界観(小説)と非常に相性がいいです。
グラフェンマン
「こいつ、一部で鉄塔と自覚しているのに、
とぼけてやがったのか。
だいたい最近まで4Gだったのに5Gタワーなんて
呼ばないし、最初から5Gを怪しまないと辿り着けないだろっ!!」
あとがき
2025.12.24追記
白い円柱は、2メートルないかも。
下の機材を含めて2メートルくらい?




