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04章 サナ活 一人300役アカウント

第04章 《三百の指、見えない命令》


一人三百役――

それが、ナサ活(ナラティブ・サブアカウント活動)の隠語だった。


T1教会の地下フロア。

白い壁、無音の空間、長机の上に無造作に置かれた何十台ものスマートフォン。

そこに座る男女は、同時に、同じ速度で、同じ角度で、画面を叩いていた。


異様だった。


まばたきの回数が揃い、呼吸が浅く、表情は空白。

だが、彼らは催眠にも洗脳にもかかっていない。


「……命令は、音ではない」


天井の影から、それを見下ろす存在がつぶやく。


鹿の角。

鱗のような皮膚。

しなやかな四肢に、捕食者の尾。


怪人鹿女しかおんな――高地位早成子の裏の姿。


彼女は声を出さない。

出す必要がない。


脳内に埋め込まれたマイクロチップが、

T1教会に所属する“部下”たちのチップと量子同期し、

直接、命令を流し込む。


応援せよ

拡散せよ

疑問を許すな

三百の人格を演じろ


指だけが動く。

人格は生成され、アカウントは分裂する。


一人三百役。

賞賛、擁護、怒り、涙、庶民の声、専門家の声。

全てが「自然」に見えるよう、AIが文体を調整する。


ただし――

操作しているのはAIではない。


命令は、鹿女から直接来ている。

だからこそ、ログにも、通信履歴にも、証拠は残らない。


「完璧だわ……」


鹿女は、角の先で空間をなぞる。


その瞬間、世界のどこかで、違和感が生まれた。


高層ビルの屋上。

夜風の中に立つ、黒い人影。


グラフェンマン――リュウホウ。


彼は、SNS全体に流れる“熱”を感じ取っていた。

グラフェンは、電流だけでなく、意志の偏りにも共鳴する。


「……おかしい」


支持率の上昇曲線が、美しすぎる。

反論が、反論として機能していない。

人間特有の“揺らぎ”が、消えている。


「正直に話せ!」


リュウホウは、世界に向けてそう“干渉”した。


グラフェンの微細構造が、

ネットワークの深層に染み込み、

嘘をつくコストだけを増幅させる。


すると――


突然、タイムラインがざわついた。


「実は、私、アカウントを三百持っています」

「命令されていました」

「応援投稿は演技でした」

「同じ文体を三百回、打たされていました」


自白。

連鎖的な、自白。


ポスト、ポスト、ポスト。

削除しても、消しても、拡散は止まらない。


高地位早成子の名前とともに、

「三百役」「ナサ活」「異常な応援」という言葉が世界を駆け巡った。


そして追い打ちのように、

2025年11月28日、総務省の発表が報じられる。


政治資金収支報告書。

宣伝費――八千万円超。

ウェブ広告――三千三百万円。


「湯水のようだ」

「これは人気なのか、演出なのか」


疑念は、疑念を呼ぶ。


アカウント工作を隠蔽するため、ばらまいていたお金。


ステンドグラスの影で、鹿女は微笑んだ。


「……なるほど。庶民が真実を掴み始めたか」


その瞳は怒っていない。

むしろ、次の一手を楽しむ捕食者のそれだった。


鹿女の角が、ぴくりと動く。


「……干渉者ね。厄介」


その頃、別の潮流も動いていた。


ある政治団体が、

異常な規模の宣伝費を投じていたという“観測情報”も、

同時に拡散されていた。


高地位早成子と関係が深いと噂される

謎の宗教団体――我奈良鹿がならしか


その代表役員であり、

実態のないペーパーカルト宗教。

ノブレスグループ代表・川木卯。


彼女の名前が、

「献金」「支援」「集会」という曖昧な言葉と共に、

ネット上を漂い始める。


なぜ、これほど潤沢な資金が、

なぜ、これほど一方向に使われるのか。


その情報の裏側で、

静かに微笑む少女がいた。


ブレンダ・ゲッツ。


彼女は、世界支配を望んでいる。

だが、それは悪意ではない。


「人類は、方向性を失っているだけ」


彼女の理想は、

痛みのない管理。

争いのない統治。


鹿女とも、グラフェンマンとも、違う。


「庶民が主導する?

 それもいい。

 でも、感情に任せすぎるのは危険よ」


ブレンダは、次の一手を考えていた。


三つ巴。


支配者DSに雇われた怪人・鹿女。

庶民主導の未来を目指すグラフェンマン。

善意による世界管理を夢見るブレンダ。


三百の指が止まり、

真実が漏れ始めた今――


世界は、

次の章へ進もうとしていた。


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