02章 日本の状況とビール・ゲッツの預言
首相官邸の地下、公式記録には存在しない円形会議室。
壁面を覆う黒曜石のようなスクリーンには、世界地図が淡く脈動していた。
その中央に立つ女――
高地位早成子総理は、背中から伸びる幻影のような鹿の角を、ゆっくりと揺らした。
「……あなたが来るとは思っていなかったわ、ビールゲッツ」
白衣ともスーツともつかぬ服をまとった男が、肩をすくめる。
彼は“慈善と技術の象徴”を自称する存在でありながら、この世界では調停者でもあった。
「世界がきしみ始めると、必ず呼ばれる立場でね。
それに君は今、日本という“要石”を動かそうとしている」
高地位は微笑んだ。その瞳の奥に、コモドドラゴン由来の冷たい光が宿る。
「いま、世界は三層に割れている」
ビールゲッツはスクリーンを指でなぞる。
すると、世界地図が三色に分かれた。
「第一層。
古い支配構造――ヨーロッパ起源のディープステート。
宗教、金融、軍需、歴史の語り方……すべてを静かに管理する層だ」
「私を雇った“本家”ね」
高地位は隠すことなく頷いた。
「第二層。
アメリカ民主党を中核にした実行部隊型DS。
理想や人道を掲げつつ、実験と管理を現実に落とし込む」
高地位は鼻で笑う。
「彼らは中国と手を組んだ。
効率と人口、統制。あの国は便利すぎる」
「そして第三層が――」
ビールゲッツは少し間を置いた。
「裏切り者たちだ。
アメリカ共和党陣営、日本の旧逆さベア派、国家主権を盾にDSの制御を拒んだ勢力」
日本という「戦場にされる国」
「あなたは、日本をどうするつもり?」
ビールゲッツの声は穏やかだが、鋭い。
高地位はスクリーンに日本近海を映し出す。
海底資源、航路、島嶼線――無数の赤いマーカー。
「戦争よ。
日本と中国をぶつける」
「共倒れ?」
「ええ。
その後に“復興”という名目で、本家DSがすべてを回収する」
あまりにも淡々とした口調だった。
「ガザと同じ構図だ。
戦争は破壊ではなく、権利書の書き換え作業」
ビールゲッツは目を閉じた。
「だが、台湾はそれを望んでいない。
親中派も反中派も、日本が血を流すことを望んでいない」
「分かっているわ」
高地位は肩をすくめる。
「望むのは、軍需と支配を食べる連中だけ」
憲法という“最後の鍵”
高地位は話題を変える。
「だから急ぐの。
憲法改変。国民主権を薄め、非常時を理由に統治を一本化する」
「独裁だ」
「管理よ」
高地位の笑みが鋭くなる。
「前の戦争も、日本は騙された。
今回も同じ手口。ただし、失敗すれば――」
「日本は消える」
ビールゲッツが静かに続けた。
沈黙が落ちる。




