16章 不正選挙と逆五芒星
※GeminiProに書いてもらいました。
第16章:硝子の檻と逆さの星
その夜、日本のテレビ局はどこも同じ色に染まっていた。
画面を埋め尽くすのは、情け容赦のない「当確」のバラの花。
出口調査の段階で、すでに勝負は決していた。
「自民党、歴史的大勝」
キャスターが興奮気味に読み上げるニュース速報のテロップの下で、
新総理・高地位早成子が満面の笑みを浮かべて
万歳三唱をしている。
事前の世論調査では拮抗していたはずの数字が、蓋を開けてみれば与党の圧勝。
あからさまな数字の乖離に、ネットの一部では「不正選挙ではないか」
「集計マシンのアルゴリズムが操作された」という声が上がった。
だが、それらの声は「陰謀論」というレッテルと共に、
即座にアルゴリズムの海へと沈められていく。
物理的な証拠は何一つ残されていない。
完璧なまでにクリーンで、完璧なまでに黒い選挙だった。
都内の隠れ家で、リュウホウ——グラフェンマンは
その中継を冷ややかな目で見つめていた。
彼の目には、モニター越しの高地位早成子の姿が、一般人とは違って見えていた。
「……あいつの正体に気づかないのか?
これだけ露骨なのに」
画面の中の高地位は、首をカクカクと不自然に小刻みに動かしていた。
それは草食動物が周囲を警戒するような「鹿」の挙動そのものだ。
さらに、時折カメラに向ける眼光の奥には、獲物を狙う「コモドドラゴン」の
冷酷で爬虫類的な光が宿っている。
DSが生み出した合成怪人。
草食動物の臆病なまでの警戒心と、最強の捕食者の毒牙を併せ持つキメラ。
それが彼女の正体だ。
だが、街頭インタビューに答える若者たちの反応は、リュウホウを絶望させるに十分だった。
「高地位さんって、ハッキリ物言う感じでカッコいいじゃん」
「日本を守ってくれそう。顔つきもキリッとしてて信頼できる」
「初の女性総理だし、推せるわー」
彼らの目にはフィルターがかかっている。
スマホやメディアを通じて流されるサブリミナルな補正、
あるいは食品添加物やナノ粒子による松果体の石灰化か。
若者たちは、目の前の権力者が「捕食者」であるという本能的なアラートを
感じ取ることができなくなっていた。
人を見る目、本質を見抜く力が、この国から失われつつある。
リュウホウはため息をつき、チャンネルを変えた。
国内の絶望から目を逸らすように映し出されたのは、遠くイタリアの地、冬の祭典だった。
――ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピック、開会式。
雪と氷の祭典。
平和の祭典。
表向きは美しい言葉で飾られているが、リュウホウは知っている。
オリンピックが、しばしば支配者層によるオカルト儀式の場として利用されることを。
壮大な音楽と共に、フィールド中央でパフォーマンスが繰り広げられている。
光とドローンが織りなす幻想的なショー。
だが、カメラが上空からの俯瞰映像に切り替わった瞬間、リュウホウの背筋に悪寒が走った。
白い雪のステージに、黒い衣装をまとったダンサーたちが作り出していた形。
それは、巨大な「逆五芒星」だった。
通常の五芒星は魔除けや調和を意味するが、逆向きのそれは、
悪魔崇拝や物質主義への隷属を象徴する。
公共の電波に乗って、世界中のリビングへ、その不吉なシンボルが堂々と配信されていた。
「合図だ……」
リュウホウは呟いた。
日本の不正選挙による高地位政権の誕生。
そしてイタリアでの逆五芒星の掲示。
これらはバラバラの出来事ではない。
DS側が「次のフェーズ」へ移行したことを告げる、
身内向けの、そして抵抗する者たちへの宣戦布告なのだ。
一方その頃、別荘でワイングラスを傾けていたブレンダもまた、同じ画面を見ていた。
「パパたちのやり方は相変わらず品がないわね。
恐怖で縛るなんて時代遅れよ」
彼女は、この露骨な「悪の演出」に鼻白んでいた。
だが、世界は動き出した。
鹿の警戒心で国民を監視し、コモドドラゴンの毒で反対派を麻痺させる高地位政権。
そして、空に描かれた逆さの星。
リュウホウは拳を握りしめた。
「庶民の力、見くびるなよ。
ここからが本当の勝負だ」
グラフェンの力が、彼の体内で静かに、しかし熱く脈打ち始めた。




