第四章・プロローグ「三年生の朝」
第四章・プロローグ「三年生の朝」
朝の空気は、まだわずかに冷たさを残していた。
制服の袖口から入り込むひんやりとした感触に、ユウは肩をすくめながら学園へ続く石畳を歩く。
「ユウ様」
少し後ろから、控えめな声がかかる。
振り返ると、数歩遅れた位置にリリスがいた。
淡い色の外套をまとい、背筋を伸ばして歩いている。
髪はきちんとまとめられているが、歩調がわずかに早い。先に行きすぎないよう気を配りながら、距離を詰めてきたのが分かる。
「おはようございます」
丁寧な一礼。
それから、ほんの少しだけ顔を上げてユウを見る。
「おはよう。今日は少し早いね」
「はい。朝の支度が、思ったより早く終わりましたので」
そう答えて、リリスは自然にユウの隣へ並ぶ。
肩が触れない程度の距離。人目を意識しながらも、並んで歩くことをためらわない位置だった。
正門が近づくにつれ、生徒の数が増えていく。
挨拶を交わす声、靴音、短い笑い声が朝の空気に混じる。
「今日の授業割、ご覧になりましたか?」
「見たよ。午前は座学が続くみたいだね」
「はい。午後は剣術ですね」
「三年になってから、実技の時間が増えた」
「ええ。少し……気が引き締まります」
リリスの声は落ち着いていたが、わずかに意識が前を向いているのが分かる。
正門をくぐる。
校内の石畳は、外よりも硬い音を返した。
昇降口へ向かう途中、何人かの生徒とすれ違う。
軽く会釈され、リリスも同じように応じる。その動作は自然で、学園生活に溶け込んでいた。
階段を上がり、同じ教室の前に立つ。
「……では、入りましょうか」
「そうだね」
二人で扉を開ける。
教室の中には、すでに何人かの生徒が席についていた。
椅子を引く音、鞄を置く音。
それらに混じって、朝の時間が静かに動き出す。
ユウは自分の席に向かい、リリスもすぐ隣の席へと進んだ。
三年生としての一日が、特別なこともなく始まっていく。
それは変わらない日常であり、これから続いていく日々の、ただの一コマだった。




