表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/101

3章45話「並び立つ、その先へ」

3章45話「並び立つ、その先へ」


演武場の空気が、これまでとは違っていた。


観客席は静まり返っている。

誰もが、これが“最後”だと理解していた。


円形の闘技場。

その中央で、二人が向かい合う。


ユウ・ヴァルロード。

そして――リリス・フォン・グレイハルト。


婚約者同士。

だが今は、それ以上でも以下でもない。


「……ユウ様」


リリスが、静かに名を呼ぶ。


その声に、揺れはない。

学園で鍛え上げられた、冷静な響き。


「本気で行きます」


「ああ。僕もだ」


短いやり取り。

それだけで十分だった。


合図の鐘が鳴る。


リリスが、即座に距離を取った。


後退ではない。

“戦う距離”を作るための一歩。


そして、迷いなく詠唱に入る。


「――《風刃、展開》」


詠唱は正確で、淀みがない。

圧縮された風が、三方向に分かれて形成される。


同時に、剣を抜く。


攻めの構えではない。

身体の前で刃を立て、角度を調整する。


(来ます)


その判断は正しい。


ユウは、すでに動いていた。


真正面からは行かない。

斜め、さらに半歩内側。


リリスの魔法射程に入る“直前”で止まる。


「――《放て》!」


風刃が解き放たれる。


三本同時。

逃げ場を削る配置。


だが、ユウは退かない。


一歩、前。


風刃の一つが、肩口を掠める。

布が裂けるが、致命にはならない。


その代わり――

ユウは、もう一つ距離を詰めた。


(……速い)


リリスの判断は早い。


剣を前に出し、身体を半身にする。

攻めない。

ただ、来るものを捌く構え。


ユウの剣が振られる。


速い。

だが直線的ではない。


リリスは剣を“当てに行かない”。

刃の腹で受け、流す。


金属音が一度。


衝撃が、腕に伝わる。


(重い……!)


力で押しているわけではない。

だが、剣の“軸”がぶれない。


ユウは、押し切らない。


すぐに剣を引き、位置を変える。


リリスは追わない。

距離を保ち、再び詠唱。


「――《風壁、前面》」


薄いが、展開が早い防御魔法。


その内側で、呼吸を整える。


(焦ってはダメ。

 この人は、焦った瞬間を狙う)


正解だった。


ユウは、魔法を壊しに行かない。


代わりに、左へ回る。


円の端を使い、角度を変える。


(……詠唱できる位置が、減っていく)


リリスは気づく。


ユウは攻めているのではない。

“立てる場所”を制限している。


「――《風刃、再構築》」


詠唱を続けながら、後退。


剣は、完全に防御専念。


ユウの剣が、再び来る。


今度は速さではない。

“間”をずらしてくる。


一拍遅らせた踏み込み。


リリスは、剣で受ける。


受けた瞬間――

ユウの剣が、滑るように角度を変えた。


刃が、剣の鍔に触れる。


(……しまっ)


手首が、わずかに開く。


その隙を、ユウは見逃さない。


一歩、内側。


リリスの剣先が、ユウの肩に届く距離。

だが、その前に――


ユウの剣が、彼女の喉元で止まった。


完全に止めている。

触れてはいない。


沈黙。


詠唱は途切れ、風が消える。


リリスは、ゆっくりと剣を下ろした。


「……負けました」


その声は、静かだった。


悔しさはある。

だが、それ以上に――納得があった。


ユウも剣を収める。


「強かったよ」


「……ありがとうございます」


一礼。


審判の声が、遅れて響く。


観客席は、すぐには騒がなかった。


誰もが、今の一戦を噛み締めていた。


魔法と剣。

攻めと守り。

先に奪う者と、冷静に捌く者。


そして――

最後まで崩れなかった二人。


リリスは、顔を上げて微笑む。


「……隣に立つ理由が、よく分かる戦いでした」


「僕もだ」


それ以上は言わない。


この戦いが、

二人にとって“通過点”であることを、

互いに理解していたから。


ランキング戦は、ここで終わる。


だが――

並び立つ未来は、ここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ