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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第44話「先に奪うという戦い方」

第44話「先に奪うという戦い方」


観客席のざわめきが、少しずつ収束していく。


学園中央演武場。

石畳の上に描かれた円の中心で、二人の生徒が向かい合っていた。


一人はユウ。

もう一人は、上級生の男子生徒――剣術と防御魔法を得意とすることで知られている。


(……油断はしない)


相手の目は、はっきりとそう語っていた。

それも当然だ。ここはランキング戦。

名前や家柄ではなく、「勝った者が上へ行く」場だ。


合図の鐘が鳴る。


同時に、相手が踏み込んだ。


剣が横薙ぎに走る。

鋭いが、無駄のない一撃。

防御魔法を温存したまま、まずは距離を詰めに来た判断だ。


だが――


その一歩は、最後まで踏み切られなかった。


剣が振り切られる前に、

ユウの剣先が、相手の足元へと滑り込んでいた。


斬るためではない。

踏み込むための位置を、正確に塞ぐためだ。


(……っ)


相手は反射的に体勢を変え、後ろへ下がる。


そこで初めて気づく。

距離が、最初よりも不利になっていることに。


(早い……いや、違う)


相手は歯を食いしばる。


(読まれている)


剣を振る前。

足を出す前。

その「一瞬前」に、すでに動かれている。


相手は防御魔法の詠唱に切り替えた。


「――《硬化・第一段階》」


短い詠唱。

皮膚と衣服の表層に、淡い光が走る。


同時に、ユウが動いた。


正面からは行かない。

剣も、振りかぶらない。


半歩、斜めに入る。


それだけで、相手の視界の端からユウの姿が消える。


「――っ!」


相手は慌てて剣を引き、構え直そうとする。


だが、その瞬間。


ユウの剣が、相手の剣の“根元”に触れた。


斬撃ではない。

打撃でもない。


剣と剣が触れた、その一瞬――

相手の手首が、わずかに弾かれる。


それだけで、十分だった。


(持ち直せない……!?)


防御魔法は“受ける”ためのものだ。

態勢が崩れた状態では、意味を成さない。


ユウは、そこを逃さない。


一歩。

さらに半歩。


相手の退路を、円の縁へと追い込んでいく。


攻撃は、まだしない。


ただ――

相手が「動こうとする場所」を、先に潰していく。


(前は無理、横も無理……下がると場外……)


思考が詰まった瞬間、

ユウの剣が、相手の胸元で止まった。


触れてはいない。

だが、これ以上動けば、確実に届く距離。


沈黙。


審判が、一歩前に出る。


「――勝負あり」


その声が響いた瞬間、

観客席がどっと沸いた。


派手な技はない。

魔法の撃ち合いもない。


だが――

「何もできなかった」という事実だけが、はっきりと残った。


剣を下ろした相手は、深く息を吐く。


「……完敗だ」


ユウは剣を収め、軽く頭を下げた。


「ありがとうございました」


それだけ。


誇示も、余韻もない。


ただ、次の試合へ向かうだけの背中だった。


     ◇


その後の試合も、流れは大きく変わらなかった。


相手が剣士であれ、魔法士であれ――

ユウは必ず、最初に動いた。


攻撃する前に、

詠唱が終わる前に、

踏み込む前に。


「できるはずだった行動」を、一つずつ消していく。


結果として、

相手は常に“遅れた側”になる。


試合が終わるたび、

観客の間に同じ言葉が落ちていた。


「……気づいたら、終わっていた」


それが、この日のユウの戦いだった。


派手さはない。

だが、確実に――

相手の世界から、選択肢を奪っていく戦い。


そして、

ランキング戦は、まだ続く。

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