第44話「先に奪うという戦い方」
第44話「先に奪うという戦い方」
観客席のざわめきが、少しずつ収束していく。
学園中央演武場。
石畳の上に描かれた円の中心で、二人の生徒が向かい合っていた。
一人はユウ。
もう一人は、上級生の男子生徒――剣術と防御魔法を得意とすることで知られている。
(……油断はしない)
相手の目は、はっきりとそう語っていた。
それも当然だ。ここはランキング戦。
名前や家柄ではなく、「勝った者が上へ行く」場だ。
合図の鐘が鳴る。
同時に、相手が踏み込んだ。
剣が横薙ぎに走る。
鋭いが、無駄のない一撃。
防御魔法を温存したまま、まずは距離を詰めに来た判断だ。
だが――
その一歩は、最後まで踏み切られなかった。
剣が振り切られる前に、
ユウの剣先が、相手の足元へと滑り込んでいた。
斬るためではない。
踏み込むための位置を、正確に塞ぐためだ。
(……っ)
相手は反射的に体勢を変え、後ろへ下がる。
そこで初めて気づく。
距離が、最初よりも不利になっていることに。
(早い……いや、違う)
相手は歯を食いしばる。
(読まれている)
剣を振る前。
足を出す前。
その「一瞬前」に、すでに動かれている。
相手は防御魔法の詠唱に切り替えた。
「――《硬化・第一段階》」
短い詠唱。
皮膚と衣服の表層に、淡い光が走る。
同時に、ユウが動いた。
正面からは行かない。
剣も、振りかぶらない。
半歩、斜めに入る。
それだけで、相手の視界の端からユウの姿が消える。
「――っ!」
相手は慌てて剣を引き、構え直そうとする。
だが、その瞬間。
ユウの剣が、相手の剣の“根元”に触れた。
斬撃ではない。
打撃でもない。
剣と剣が触れた、その一瞬――
相手の手首が、わずかに弾かれる。
それだけで、十分だった。
(持ち直せない……!?)
防御魔法は“受ける”ためのものだ。
態勢が崩れた状態では、意味を成さない。
ユウは、そこを逃さない。
一歩。
さらに半歩。
相手の退路を、円の縁へと追い込んでいく。
攻撃は、まだしない。
ただ――
相手が「動こうとする場所」を、先に潰していく。
(前は無理、横も無理……下がると場外……)
思考が詰まった瞬間、
ユウの剣が、相手の胸元で止まった。
触れてはいない。
だが、これ以上動けば、確実に届く距離。
沈黙。
審判が、一歩前に出る。
「――勝負あり」
その声が響いた瞬間、
観客席がどっと沸いた。
派手な技はない。
魔法の撃ち合いもない。
だが――
「何もできなかった」という事実だけが、はっきりと残った。
剣を下ろした相手は、深く息を吐く。
「……完敗だ」
ユウは剣を収め、軽く頭を下げた。
「ありがとうございました」
それだけ。
誇示も、余韻もない。
ただ、次の試合へ向かうだけの背中だった。
◇
その後の試合も、流れは大きく変わらなかった。
相手が剣士であれ、魔法士であれ――
ユウは必ず、最初に動いた。
攻撃する前に、
詠唱が終わる前に、
踏み込む前に。
「できるはずだった行動」を、一つずつ消していく。
結果として、
相手は常に“遅れた側”になる。
試合が終わるたび、
観客の間に同じ言葉が落ちていた。
「……気づいたら、終わっていた」
それが、この日のユウの戦いだった。
派手さはない。
だが、確実に――
相手の世界から、選択肢を奪っていく戦い。
そして、
ランキング戦は、まだ続く。




