第三章 第41話「剣と魔法が並ぶ場所」
第三章 第41話「剣と魔法が並ぶ場所」
学園の正門をくぐった瞬間、空気が変わった。
夏季休暇の終わりを告げる鐘が鳴り終わり、広い敷地のあちこちから人の気配が立ち上ってくる。
剣を携えた者、魔導書を抱えた者、どちらも混じり合いながら、いつもより少し張りつめた顔で歩いていた。
――ランキング戦。
それが、今期の学園を支配する言葉だった。
「やはり……戻ってきた、という感じがしますね」
ユウの半歩横で、リリスが静かに言った。
視線は前に向けたまま、声だけを落としている。
「そうだね。休暇中は領地の空気だったけれど、ここは――競う場所だ」
「はい。比べられ、測られ、順位を与えられる場所です」
淡々とした口調。
だが、その言葉には曖昧さがなかった。
かつて彼女は、この学園で「王太子の婚約者」という立場を背負っていた。
今は違う。
その肩書きはすでに過去であり、彼女自身の力だけが問われる。
ユウはそれを、横目で確認するように見た。
(緊張していないわけじゃない。けれど――逃げる顔でもない)
それだけで、十分だった。
◇
中央演習場には、すでに多くの生徒が集まっていた。
石造りの観客席には、教官だけでなく、学園に縁を持つ貴族たちの姿も見える。
正式な社交の場ではないが、ここでの評価は、確実に外へと流れる。
教官の一人が、前に進み出た。
「本日より、今期の学園ランキング戦を開始する」
ざわり、と空気が揺れた。
「形式は個人戦。剣術と魔法、双方を使用可能とする。
勝敗は単純な勝ち負けだけでなく、戦術・判断・制御を含めた総合評価だ」
簡潔だが、逃げ場のない説明だった。
「上位者は、今後の特別課程・推薦枠の対象となる。
――つまり、この場での順位は、単なる遊びではない」
生徒たちの表情が引き締まる。
リリスは、わずかに顎を引いた。
「……思っていた以上に、明確ですね」
「うん。誤魔化しがきかない」
ユウはそう答えながら、視線を巡らせた。
少し離れた位置に、王太子アルベルトの姿がある。
以前のような苛立ちはなく、むしろ落ち着いて周囲を見ている。
その隣には、セレスティア。
表情は穏やかだが、目だけが忙しなく動いていた。
さらに後方。
ひときわ目立たない位置に、平民の少年――ルカが立っている。
(……あの立ち方)
前に出すぎず、引きすぎず。
視線は常に演習場全体を捉えている。
ユウは、心の中で評価を一つ置いた。
◇
「なお――」
教官が続ける。
「今回のランキング戦では、“実力を隠すこと”もまた評価対象外とする。
全力を出さない者は、相応に扱う」
ざわめきが広がる。
ユウは小さく息を吐いた。
「……逃げ道は、ないみたいだね」
「ええ。学園としても、本気なのでしょう」
リリスはそう言いながら、手袋を整える。
「ですが……悪くありません。
今の自分が、どこまで通用するのか。
きちんと知っておきたいと思っていました」
「同感だ」
短い言葉だが、そこに迷いはなかった。
この場所は、剣と魔法が並ぶ場所。
立場や過去ではなく、今の力だけが並べられる。
ユウは、正面を見据える。
(領地の第一段階は、終えた。
次は――ここだ)
リリスが、ふと小さく息を吸った。
「ユウ様」
「どうした?」
「……同じ場に立てること、少しだけ嬉しいです」
それは囁くような声だった。
だが、はっきりとした感情を伴っている。
「並んで戦えるなら、それで十分だ」
ユウはそう答え、それ以上は言わなかった。
鐘が鳴る。
学園ランキング戦、開幕。
五つの戦いを経て、序列が定まるまで――
この場所は、しばらく剣と魔法の熱に包まれることになる。
そして、その中心に立つ者たちの名は、まだ誰も知らない。




