表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/101

第三章 第41話「剣と魔法が並ぶ場所」

第三章 第41話「剣と魔法が並ぶ場所」


 学園の正門をくぐった瞬間、空気が変わった。


 夏季休暇の終わりを告げる鐘が鳴り終わり、広い敷地のあちこちから人の気配が立ち上ってくる。

 剣を携えた者、魔導書を抱えた者、どちらも混じり合いながら、いつもより少し張りつめた顔で歩いていた。


 ――ランキング戦。


 それが、今期の学園を支配する言葉だった。


「やはり……戻ってきた、という感じがしますね」


 ユウの半歩横で、リリスが静かに言った。

 視線は前に向けたまま、声だけを落としている。


「そうだね。休暇中は領地の空気だったけれど、ここは――競う場所だ」


「はい。比べられ、測られ、順位を与えられる場所です」


 淡々とした口調。

 だが、その言葉には曖昧さがなかった。


 かつて彼女は、この学園で「王太子の婚約者」という立場を背負っていた。

 今は違う。

 その肩書きはすでに過去であり、彼女自身の力だけが問われる。


 ユウはそれを、横目で確認するように見た。


(緊張していないわけじゃない。けれど――逃げる顔でもない)


 それだけで、十分だった。


     ◇


 中央演習場には、すでに多くの生徒が集まっていた。


 石造りの観客席には、教官だけでなく、学園に縁を持つ貴族たちの姿も見える。

 正式な社交の場ではないが、ここでの評価は、確実に外へと流れる。


 教官の一人が、前に進み出た。


「本日より、今期の学園ランキング戦を開始する」


 ざわり、と空気が揺れた。


「形式は個人戦。剣術と魔法、双方を使用可能とする。

 勝敗は単純な勝ち負けだけでなく、戦術・判断・制御を含めた総合評価だ」


 簡潔だが、逃げ場のない説明だった。


「上位者は、今後の特別課程・推薦枠の対象となる。

 ――つまり、この場での順位は、単なる遊びではない」


 生徒たちの表情が引き締まる。


 リリスは、わずかに顎を引いた。


「……思っていた以上に、明確ですね」


「うん。誤魔化しがきかない」


 ユウはそう答えながら、視線を巡らせた。


 少し離れた位置に、王太子アルベルトの姿がある。

 以前のような苛立ちはなく、むしろ落ち着いて周囲を見ている。


 その隣には、セレスティア。

 表情は穏やかだが、目だけが忙しなく動いていた。


 さらに後方。

 ひときわ目立たない位置に、平民の少年――ルカが立っている。


(……あの立ち方)


 前に出すぎず、引きすぎず。

 視線は常に演習場全体を捉えている。


 ユウは、心の中で評価を一つ置いた。


     ◇


「なお――」


 教官が続ける。


「今回のランキング戦では、“実力を隠すこと”もまた評価対象外とする。

 全力を出さない者は、相応に扱う」


 ざわめきが広がる。


 ユウは小さく息を吐いた。


「……逃げ道は、ないみたいだね」


「ええ。学園としても、本気なのでしょう」


 リリスはそう言いながら、手袋を整える。


「ですが……悪くありません。

 今の自分が、どこまで通用するのか。

 きちんと知っておきたいと思っていました」


「同感だ」


 短い言葉だが、そこに迷いはなかった。


 この場所は、剣と魔法が並ぶ場所。

 立場や過去ではなく、今の力だけが並べられる。


 ユウは、正面を見据える。


(領地の第一段階は、終えた。

 次は――ここだ)


 リリスが、ふと小さく息を吸った。


「ユウ様」


「どうした?」


「……同じ場に立てること、少しだけ嬉しいです」


 それは囁くような声だった。

 だが、はっきりとした感情を伴っている。


「並んで戦えるなら、それで十分だ」


 ユウはそう答え、それ以上は言わなかった。


 鐘が鳴る。


 学園ランキング戦、開幕。


 五つの戦いを経て、序列が定まるまで――

 この場所は、しばらく剣と魔法の熱に包まれることになる。


 そして、その中心に立つ者たちの名は、まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ