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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第39話「並んで立つということ」

第39話「並んで立つということ」


 朝の城塞都市は、前日よりも少しだけ騒がしかった。


 城門前には荷馬車が並び、村から届いた作物や木材が次々と運び込まれている。

 作業を指示する声、笑い声、叱咤。

 まだ発展途上だが、街としての輪郭は確実に濃くなりつつあった。


 ユウはその様子を城壁の上から見下ろしていた。


「……落ち着いてきたな」


 独り言のような呟き。


「はい。指示系統がはっきりしたからだと思います」


 隣に立つのはリリスだった。


 今日は視察ではなく、城塞都市内での打ち合わせが中心だ。

 そのため、彼女は完全に“領主の婚約者”として隣にいる。


「最初は、皆……ユウ様だけを見ていました」


「今は?」


「今は、役割を見るようになっています。

 誰に聞けばいいのか、誰が決めるのか。

 それが分かれば、人は迷わなくなりますから」


 その言葉に、ユウは小さく頷いた。


「……よく見てるね」


「見なければ、務まりませんので」


 淡々とした返答。

 だが、その視線は街の一人ひとりを丁寧に追っている。


(この人は……本当に、立つ場所を選べるようになったな)


 学園にいた頃は、どこか“決められた位置”に立っていた。

 今は違う。

 自分で立ち、周囲を見渡している。


     ◇


 執務室での会議は、想像以上にスムーズに進んだ。


 各村の代表が交代で報告し、問題点を挙げる。

 ユウはすぐに答えを出さない。

 まず全員の意見を聞き、整理する。


 その間、リリスは黙って話を聞いていた。


 だが、ある場面で口を開く。


「その件ですが……村同士で資材を融通するのは、難しいでしょうか」


 一斉に視線が集まる。


「互いに不足しているのは承知しています。

 ですが、同時に余っているものもあるはずです。

 一度、一覧にしてみてはいかがでしょう」


 村人たちは顔を見合わせ、やがて頷き始めた。


「……確かに」

「倉に眠っているものはあるな」

「それなら、すぐに調べられる」


 場が動き出す。


 ユウは、口を挟まない。

 ただ、その流れを見守っていた。


 会議が終わり、人が引いた後。


「……助かったよ」


 ユウがそう言うと、リリスは首を横に振る。


「私は、補足しただけです。

 決めたのは、皆ですから」


「それでも、あの一言がなければ進まなかった」


「……そうでしょうか」


 少しだけ困ったように視線を逸らす。


「ユウ様が築いてきた土台があるからです。

 私は、その上で声を出しただけ」


 その言葉は謙遜だが、的確だった。


     ◇


 昼下がり、短い休憩時間。


 二人は中庭の木陰に腰を下ろしていた。

 風が、城塞都市の中を通り抜ける。


「……不思議です」


 リリスがぽつりと呟く。


「何が?」


「ここでは……私、呼吸が楽です」


 ユウはすぐに返さず、続きを待つ。


「公爵家にいた頃は、常に“期待”の中にいました。

 婚約者として、令嬢として、正しくあることを求められて……」


「ここでは違う?」


「はい」


 リリスは静かに笑った。


「必要とされているのは、“役割”です。

 完璧な姿ではなく、考え、補い、判断する人として」


「それが向いているんだと思う」


「……ありがとうございます」


 短い沈黙。


 リリスは、ほんの少しだけ声を落とす。


「ユウ様の隣に立つのは、緊張します。

 ですが……嫌ではありません」


「それなら、十分だ」


 それ以上の言葉は要らなかった。


     ◇


 夕方、城壁の上。


 街に灯りが入り始めるのを、二人は並んで見ていた。


「……ここは、まだ未完成です」


 リリスが言う。


「だからこそ、見ていたいと思います。

 最初から最後まで」


「最後、って?」


「……完成したあとも、です」


 言い終えたあと、少し照れたように視線を逸らす。


 ユウは、それを咎めない。


「その頃には、ここはもっと騒がしいだろうね」


「でしたら……静かな場所も、用意しないといけませんね」


「一緒に?」


「……はい。一緒に、です」


 その答えは、迷いのないものだった。


 公の場では婚約者として。

 私の場では、静かに心を寄せる相手として。


 二人はまだ、急がない。

 だが、同じ速度で歩いている。


 ヴァルトニアの夕暮れは、今日も変わらず訪れる。

 その中で、確かに――二人の居場所は、並んで存在していた。

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