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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第36話 「……ユウ様に会いたかっただけ、なのです」

第36話 「……ユウ様に会いたかっただけ、なのです」


 視察を終えて執務館へ戻ると、夕陽は城塞都市の屋根を淡く染めはじめていた。

 今日のリリスは、終始“公爵家の令嬢”として振る舞っていたが――

 玄関をくぐった瞬間、ほっとしたように肩がわずかに落ちた。


「リリス様、お部屋をご準備しております。どうぞこちらへ」


 マリアが先に案内し、気を利かせたように一礼して部屋を離れる。


 扉が閉じ、リリスとユウの二人きりになると――

 リリスは、ほんの少しだけ眉尻を下げ、上目遣いでユウを見つめた。


「……ユウ様。少し、お話してもよろしいでしょうか?」


「もちろんですよ。疲れていませんか?」


「いえ……疲れよりも……その……」


 言い淀む声は、学園で時折見せた “素のリリス” の響きだった。


 彼女は椅子に腰かけ、両手を膝の上でぎゅっと重ねた。

 外で見せていた凛とした気配は影を潜め、

 代わりに、甘く不器用な少女らしさがゆっくりと表に出てくる。


「今日の視察……とても勉強になりました。

 村の皆さまが、ユウ様の言葉であんなに表情を変えられるなんて……。

 その光景を見て、胸がいっぱいになりました」


「リリス様が来てくださったことで、皆さんも誇りを持てたのだと思いますよ」


「……そう言っていただけると嬉しいです。

 ですが……本当は……」


 リリスは少しだけ伏し目になり、

 袖口を指先でつまむようにして、かすかに揺れる声で続けた。


「私……どうしても……ユウ様に会いたくなってしまって……

 視察という理由を作って来てしまいました」


 その言葉には、公爵家の令嬢の計算も見栄もなかった。

 ただ、恋する少女のまっすぐな感情だけ。


 ユウは静かに目を瞬かせる。


「……会いたかった、のですか?」


「は、はい……。

 ユウ様が領地で頑張っておられると聞いて……心がそわそわして……。

 学園で毎日お会いしていた時よりも寂しくて……

 それで……どうしても……」


 頬がじんわりと赤く染まる。


「ユウ様に……会いたかったのです」


 ユウの胸に、温かい衝撃のようなものが広がる。


「リリス様がそう言ってくださるのは……本当に嬉しいです」


「……本当、ですか?」


「はい。会いに来てくださったことが、僕にはなによりの励みになります」


 リリスの瞳がほっと緩んだ。

 その表情は、外では絶対に見せない、甘く柔らかな笑顔。


「……良かった……。

 その……ユウ様の領地を見るたび、誇らしく思うのに……

 同時に、胸が苦しくなるのです」


「苦しく?」


「はい……。

 ユウ様が遠くに行ってしまうような気がして……。

 そんなことはないと頭では分かっているのに……心がついてこなくて……」


 その告白は、まるで八歳の頃に戻ったかのように純粋で、切実だった。


 ユウはそっと距離を少し縮め、穏やかに言う。


「僕はどこにも行きませんよ。

 リリス様と一緒に歩く未来を……もう選んでいますから」


「……ユウ様」


 リリスの瞳が潤む。

 泣きそうなのではない。

 感情が溢れ、言葉にできない幸福が胸いっぱいに広がっているのだ。


 その時、控えめに扉が叩かれた。


「リリス様、温かいお飲み物をお持ちしました」


 マリアの声だ。

 リリスは慌てて姿勢を正そうとしたが――

 ユウを見ると、彼だけに向けて、ほんの少しだけ甘えるように微笑んだ。


「ユウ様……。

 しばらくのあいだ、この領地に滞在してもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。むしろ……いてくださると嬉しいです」


「……ふふ。ありがとうございます。

 では……“今日は”たくさん甘えてしまうかもしれません」


 マリアが入ってくる直前――

 リリスはごく小さく囁いた。


「ユウ様に甘えるのは……ずっと、ずっと我慢していたのです」


 その声は、夕陽よりも甘く、柔らかく、

 恋する令嬢そのものだった。

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