表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第一章 異世界ダイナリー ― 黄金が静かに根を張る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/47

第七話 一年の静寂と評価

第七話 一年の静寂と評価


 離れの使用を許可されてから、一年が経過していた。


 木々は四度色を変え、風の温度も幾度となく巡った。そしてその間、ユウ・ヴァルロード自身もまた、確実に“変わっていた”。


 五歳を目前にした現在。

 身体はまだ幼いが、その内側には明確な積み上げが存在している。


     ◇


 朝の剣の鍛錬を終え、警護とともに離れへ向かう。


 かつては古びたままの建物だったそこは、いまや快適な静養と学習の場へと姿を変えていた。


 床板は補強され、滑り止め処理も施されている。

 壁は再塗装され、ひび割れは完全に埋められた。

 湯殿も配管が調整され、温度管理が容易になっている。


 安全柵、滑り止め、扉の固定具――

 全てが「四歳の子供が安心して使える空間」として最適化されていた。


(悪くない……いや、かなり快適だな)


 机に腰を下ろし、小さく息を吐く。


     ◇


 この一年での成果は、数字にも現れていた。


 視界の隅で、静かに文字が浮かび上がる。


《異世界ダイナリー:現在評価》


・身体状態:年齢比極めて良好

・筋力成長:標準比+120%

・魔力容量:同年代の平均の約三倍

・循環安定度:極・安定

・集中持続時間:成人換算 約3時間相当


・剣術:基礎型完全習得

・魔力制御:収束・拡散・薄化が自在

・計算能力:異常(体系外知識)


 さらに、次の行が追加される。


《知識特性》


・四則演算:完全理解

・割合・分配の概念:理解済

・大学水準の基礎理論:保持

・物理:力学基礎、作用反作用、運動法則

・化学:元素・反応・酸化還元の基礎


(……やっぱり異質か)


 この世界では足し算と引き算が限界。それでも商取引は成り立つが、掛け算・割り算の概念は存在すらしていない。


 そんな中で、大卒レベルの数学知識を保持している自分は、明らかに浮いている。


(表に出すのは、まだ早い)


 それは強みであり、同時に危険でもある。だからこそ、今はまだ“沈めておく”。


     ◇


 剣の型を確認する。


 一振り。

 二振り。


 呼吸と動作が完全に同期している。


 老騎士が隣で呟いた。


「もはや型ではありませんな……動作そのものがさまになっています」


 ユウは反応しない。ただ正確に、動きを重ねる。


     ◇


 魔力制御も、以前とは次元が違っていた。


 指先に淡く集め、霧のように拡散し、紙のように薄く広げる。


 それを再び一点に戻し、脈動を安定させる。


(完全に制御できている)


 “使える”のではない。

 “支配している”に近い感覚だった。


     ◇


 学習面では、すでに教師の指導を大きく超えている。


 黒板に並ぶ簡素な数字。

 それを見ながら、頭の中ではまったく別の計算が行われていた。


(この数を四倍し、三で割り……)


 誰にも見せるつもりはない。ただ静かに、未来のために蓄える。


     ◇


 夕方、本殿へ戻ったユウは父に呼ばれた。


「一年だな」


「はい」


「離れの使用、成果、安全性。すべて問題なしだ」


 そして、少しだけ言葉を変える。


「そこでだ――お前にも専属のメイドをつける」


 静かに響いた言葉。


「専属……ですか」


「ああ。生活、学習、身の回りの管理を一任する存在だ」


 ユウは小さく頷く。


「明日、紹介しよう。すでに選定は終わっている」


「わかりました」


     ◇


 夜、寝台に横たわりながら考える。


 一年でここまで来た。

 だがまだこれは序盤にすぎない。


 専属メイド。

 それは新たな生活段階への移行を意味していた。


(どんな人だろうな……)


 そう思いながら、ユウは静かに目を閉じる。


 そして彼は知らない。


 その人物が、彼の人生に深く関わっていく存在になることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ