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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第三章 新しい領地と、始まる未来 第二十五話 改革始動会議と、動き出すヴァルトニア

第三章 新しい領地と、始まる未来 第二十五話 改革始動会議と、動き出すヴァルトニア


 陽が高く昇るころ、ヴァルトニア城塞都市の中央広場には、村長たちと衛兵隊長、街区の代表者たちが姿を見せ始めていた。

 視察はすでに先週終わっている。今日は――実行のための会議だ。


 領主館の会議室には、大きな地図が広げられていた。

 湿地帯の位置、川の流れ、輪中土手の予定線、村々の境目。

 それらが丁寧に色分けされ、ユウ自身が数日前から用意していた改革計画がすべて描かれている。


 ユウはその前に立ち、深く息を吸った。


(今日からが本番だ。七日間で整えた体制……あとは、この一歩を確実に踏み出せるかどうか)


 背後ではマリアが立ち会い、必要な道具や書類を静かに並べていた。

 その所作だけで、不思議なほど胸の内が落ち着く。


 村長や街区代表が揃ったのを確認すると、ユウはゆっくりと視線を上げた。


「本日より、ヴァルトニアの改革第一段階――

 輪中の造成、排水路の本格工事、都市部の衛生改善を実行に移します。

 すでに視察で状況は把握済みです。今日は、その結果を踏まえた具体的な工程を決めます」


 その声は十一歳の少年とは思えぬ落ち着きがあり、同時に未来を切り開く意志の強さを帯びていた。


     ◇


「まずは輪中の外側に位置する排水路の整備です」


 ユウは棒を取り、地図の湿地帯を示す。


「この地域は大河からの逆流と地盤の沈下が重なり、広範囲に湿地が広がっています。

 ここに“二本の排水路”を通し、南の山脈から流れる川へ導く形で水を減らします」


「しかし……若殿。あの湿地は、足を踏み入れただけで沈むほどでして……」


 村長の一人が、不安そうに声を上げた。


「工事には多くの人手と時間が必要かと……」


「その点は心配ありません」


 ユウは静かに首を振った。


「すでに魔法で基礎的な水抜きは行っています。道が通れる程度の硬さは確保できました。

 今は“人の手でできる段階”にあります」


 村長たちがざわつく。


「魔法でそこまで……」


「若殿は、何者なのでしょうか……」


「魔法は基礎程度しか使えないと聞いていたのに……」


(魔法の本質を理解していないので、皆の反応も仕方ないか……)


 ユウは小さくため息をつき、言葉を続けた。


「重要なのは、工事を急ぐことではありません。

 安全に進め、村々が安心して暮らせる土地を作ることです」


 その一言に、場の空気が落ち着く。


「まずは一週間で、この排水路の第一段階を終わらせます。

 水の流れ方、土の崩れ方を確認しながら、次の輪郭を作る準備に入ります」


「一週間……!?」


 代表者たちがどよめいた。


「若殿。通常なら一月以上かかる作業でございますぞ……」


「工程の短縮は可能です。

 魔法による地盤の補強と、都市からの協力者を導入すれば、進行は格段に速くなります」


 その説明は具体的で、反論が挟まる隙がない。

 視察の段階で、すでにユウの頭の中には“完成図”が描かれていた。


     ◇


「次に――城塞都市の衛生管理です」


 ユウは板に描いた簡易図を示した。

 街の汚水の流れ、井戸の配置、家畜小屋、厨房の排水の向き。

 その一つひとつが丁寧に整理されている。


「現在、街の井戸のうち二つが汚染の可能性があります。

 原因は、排水が逆流する形で流れ込んでいるためです。

 こちらを早急に改善します」


 衛兵隊長が驚きに目を丸くした。


「視察の時、井戸の水質を一目見ただけで……?」


「分析は事前に済ませています。

 今日から浄化作業を始めますので、三日以内に飲用可能な水質に戻せるでしょう」


 代表者たちは息をのむ。


「まさか……本当に三日で?」


「方法はあります」


 ユウは言葉を控えめにしながらも、確信を込めた。


(スライムによる浄化は、きっとヴァルトニアの生活を大きく変える。

 だが、その存在はまだ公にする段階ではない。

 あくまで“浄化法を確立した”という形で進めよう)


「この衛生改善が終わった後、街の下水路の再構築に入ります。

 一番の課題は、各家庭の排水が衛生を損ねている点です。

 順番に改善していきましょう」


     ◇


 一通りの説明を終えると、会議室が静まり返った。


 少年が語ったとは思えないほどの、精密で現実的な計画。

 その中には魔法だけではなく、理論と計算に基づく“人の手による改革”があった。


 最初に口を開いたのは、領内で最も古い村の村長だった。


「若殿……いや、ユウ様。

 あの湿地に、再び畑が戻る日が来るとは思いませんでした。

 わしらは何十年も諦めておりました。

 それを……わずかな期間で、ここまで道筋を示してくださるとは……」


 声が震え、涙さえ浮かんでいた。


「村を守る者として……これほど心強いことはございません」


 他の村長たちも次々に頭を下げる。


「若殿に……我らの未来を預けさせてください」


「改革のためなら、村総出で尽力いたします!」


「城塞都市も全面的に協力いたします!」


 その光景に、ユウは静かに息を吸った。


(ここからが始まりだ。

 ただの計画ではなく、皆と一緒に“未来を築く改革”になる)


「皆の力があってこそのヴァルトニアです。

 どうか、これからも力を貸してください」


 ユウは深く頭を下げた。


     ◇


 会議が終わり、皆が退出した後。

 マリアがそっと近づいた。


「ユウ様。……立派でした」


「そうかな?」


「はい。今日の皆様の表情を見れば分かります。

 あなたが掲げる未来に、心から期待している証です」


 それは、どの言葉よりも重く胸に響いた。


「これから忙しくなるね。……ついてきてくれる?」


「当然です。ユウ様のそばに仕えると決めて、ここに来ているのですから。

 どうかお任せください」


 マリアは恭しく頭を下げた。

 だが、その頬にはほんの少しだけ、柔らかな赤みが差していた。


「……それと。ひとつだけ申し上げてもよろしいでしょうか」


「ん?」


「ユウ様は、無理をしている時ほど笑います。

 その笑い方は……私はあまり好きではありません」


「え……今も?」


「ええ。ですが、変えられます。

 これからの働きが正しい形になるよう、私がそばで支えますので」


 ユウは思わず苦笑した。


「頼りにしてるよ、マリア」


「そのお言葉だけで……十分です」


 夕陽の光が会議室に射し込み、

 ヴァルトニアの新しい一日が、静かに幕を開けた。


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