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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第三章 第六話 三日後の変化、彼女の素顔

第三章 第六話 三日後の変化、彼女の素顔


 ユウが領地から戻って三日。

 学園の空気は、春の色が深まりつつあった。


 Sクラスの教室に向かう石畳を歩いていると、後ろから軽い足音が近づく。


「ユウ様っ!」


 明るい声に振り返ると、リリスがスカートを押さえながら走ってきた。

 以前は完璧な淑女の姿だったのが年齢相応のになっている。

 その変化が、むしろ彼女の魅力を際立たせていた。


「おはようございます、リリス様。そんなに急がなくても――」


「……急ぎました。だって、ユウ様が……っ」


 言いかけて、リリスは頬を赤くした。

 その後ろで、ティアが「リリス様、走りすぎです!」と慌てている。


「……いえ、何でもありません。

 その……朝からお会いできるのが嬉しくて……」


 言った瞬間、リリス自身が驚いたように口を押さえた。


「す、すみません……違うのです。もっと落ち着いた言い方をするつもりが……」


「いえ。僕は嬉しいですよ」


 ユウが穏やかに言うと、リリスの瞳がぱっと明るくなる。


「本当ですか……?」


 期待を隠しきれない声音。

 その反応を見つめながら、ユウは胸の奥にかすかな熱を覚えた。


 


 ティアが一歩前に出て、元気よく言う。


「ユウ様、リリス様は今朝からずっと上機嫌なんです。

 ……昨日、化粧品を使われたんですよ!」


「ティア、それは言わなくていいと……!」


 リリスは困ったように頬に手を当てる。


「でも……とても、嬉しかったのです。

 香りが強くなくて……使うたびに、ユウ様のことを……その……思い出して……」


 最後の一言が小さくて、風に紛れそうだった。


(この人は……どうしてこんなに可愛いんだろう)


 胸の奥が静かに波打った。


 


 そこへマリアが歩いてきた。

 今日も控えめなメイド服だが、肌がいつもより艶やかだ。


「ユウ様。お二人に先を越されてしまいましたね」


「マリアも、化粧品の使い心地はどうでしたか?」


「……はい。

 まさか、あんな高価なものを私までいただけるとは……最初は戸惑いましたが」


 マリアの視線が一瞬だけリリスへ向かう。

 そこには、淡い感情の揺れがあった。

 嫉妬というより――“気づいてしまった”感情。


「……とても、嬉しかったのです。

 それに、ユウ様が私にも目を向けてくださったことが……」


 言葉を切ったマリアに、ユウは丁寧に微笑んだ。


「マリアは大切な家族の一員です。

 感謝を形にしただけですよ」


 その言葉に、マリアの頬が柔らかく染まった。


(……やはり、マリアさんも……)


 リリスはその様子を横目に見ながら、胸の奥にチクリとした感情が走るのを自覚した。


(私……ユウ様のことになると、どうしてこんな……)


 けれど、その感情は心地よい痛みだった。


 


 四人で歩く道――

 だが、周囲の生徒たちの視線は明らかにリリスとユウへ向けられていた。


「最近、リリス様……すごく綺麗になった気がする」

「表情が柔らかいよね。前はもっと近寄りがたかったのに」

「ヴァルロード様の影響……?」


 そんな声が、いくつも聞こえてくる。


「ユウ様……皆が見てます……っ」


「ええ。たぶん、リリス様が綺麗になったからですよ」


「か、からかわないでください……」


 リリスは言いながらも、嬉しさを隠せない。


(ユウ様の隣を歩くのが……こんなに胸が高鳴るなんて)


 


 その日の授業中――

 リリスは集中しているはずなのに、ふとした瞬間にユウを横目で見てしまう。


 ユウが少し難しい資料を読んでいる時の横顔。

 ティアがメモを取る手元。

 マリアが静かに資料を整理している様子。


 そのどれにも、胸が温かくなる。


(……私、こんなに幸せでいいのでしょうか)


 気づけば指先に触れているのは、ユウからもらった化粧品の香りの残り。


(好き……なんて言葉では足りない気がします)


 


 休み時間。

 ティアがこっそり耳元で囁く。


「リリス様……今、すごい顔してました。

 ……恋する乙女、って顔です」


「なっ……ち、違いません! 違いませんから!?」


「違います、の間違いでは?」


「ティア……あなた今日、帰ったら覚悟しておきなさい……」


 二人の囁きに、ユウは微かに微笑んだ。

 恋が日常の中に溶け込んでいく――その瞬間だった。


 


 放課後。

 昇りかけの夕日が校舎を染める中、リリスがそっとユウの袖を引いた。


「ユウ様……

 その……今日、少しだけお時間を頂けますか?」


「もちろん。どうされました?」


 リリスは、胸の前で両手を結び、少し震える声で言った。


「化粧品のお礼を……改めて伝えたくて。

 それと……もう一つ……

 あなたに聞いてほしいことがあるのです」


 真剣な瞳。

 それは、恋を自覚した少女の目だった。


(……これは、何か大きな話かもしれない)


 ユウは静かに頷いた。


「分かりました。では、場所を変えましょう――リリス様」


 


 こうして、二年目の春。

 ユウとリリスの距離は、またひとつ確かに縮まっていく。

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