第三章 第五話 贈り物の意味と、三人の少女たち
第三章 第五話 贈り物の意味と、三人の少女たち
王都へ戻ってきた翌朝。
ユウは、荷物を整理しながら三つの包みを机の上に並べた。
どれも丁寧に布で包み、金色の細い紐で結んである。
リリス用、マリア用、そしてティア用。
(渡す順番を間違えたら……誤解されるかもしれないな)
そんな不安が胸に浮かぶほど、三つの包みにはそれぞれ「意味」が込められていた。
学園の中庭では、春を告げる白い花が咲き始めている。
ユウが歩いていくと、向こう側でリリスとティアが談笑しているのが見えた。
「ユウ様、おはようございます」
真っ先に気づいたのはティア。
赤毛を揺らしながら、小走りでこちらへ向かってくる。
その後ろで――
リリスが、ほんの少し嬉しそうな顔をしてこちらへ歩いてきた。
「ユウ様。領地でのお仕事……本当にお疲れさまでした。
少し……お顔を見られない日が続いたので……いえ、その……」
言葉を選んでいるのか、耳まで赤い。
(かわいい……)
そんな感情を悟られないよう、ユウは静かな微笑みを浮かべた。
「ただいま戻りました、リリス様。
……少しだけ、お渡ししたいものがあります」
「え……わ、私に……?」
リリスは驚きと期待の入り混じった表情をした。
ティアの瞳がきらりと光り、横から覗き込む。
「リリス様への贈り物……ですか?」
「ち、違いますティア。そう決めつけるのは――」
「違いませんよ」
ユウは包みを差し出した。
「リリス様。
領地で作った試作品です。あなたを思って調合した特別仕様のものです」
その一言だけで、リリスの頬が花のように色づいた。
「……わたしの、ために……ええと、その……特別……?」
「はい。肌に優しく、香りはほとんど残りません。
あなたがあの夜、強い香りを苦手にしていると気づきましたので」
リリスの胸がぎゅっと震えた。
「あ、あの……ユウ様……
わ、わたし……そんなに、分かりやすかったでしょうか……」
「僕には分かりました」
その瞬間、リリスは俯いてしまい――
けれど、嬉しさが隠しきれず、肩がかすかに震えている。
「……大切にします。
そして……とても、嬉しいです」
その横でティアが、じーっと包みを見つめていた。
「リ、リリス様……すごく幸せそうです……」
その視線に気づいたユウは、二つ目の包みを取り出す。
「ティア。
こちらは、君に。
手を酷使しているのを知っていますから、保護用のハンドクリームを作りました」
「えっ……わ、私にも……?」
ティアの赤毛がふわっと揺れ、目が丸くなる。
「従者として、いつもリリス様を支えているでしょう。
その手が少しでも楽になるならと思って」
「ユウ様……! ぜ、絶対に大切にします!」
ティアは嬉しさのあまり、尻尾が生えたかのようにきゅっと背筋を伸ばした。
リリスはその様子を見て、くすっと微笑む。
「ティア、良かったわね」
「はい! 本当に!」
そして、最後の包みをユウはそっと掲げる。
「マリア。
いつも僕を支えてくれてありがとう。
あなたにも、化粧品のセットを。同じものを使って確かめてほしい」
すぐ後ろで控えていたマリアの頬が、ゆっくりと赤く染まった。
「ユウ様……
わ、わたくしなどが頂いて……本当に、よろしいのですか?」
「もちろんです。
あなたは僕の仕事も生活も……あらゆる場面で助けてくれています。
感謝を形にすることは、悪くないでしょう?」
マリアは胸に手を当て、少し震える声で答えた。
「……はい。胸が、温かくなりました。
ありがとうございます、ユウ様」
三つの贈り物。
三人三様の反応。
春の風が吹き抜け、花びらがふわりと舞った。
その中で――
リリスはそっとユウの袖をつまんだ。
「ユウ様……あの……」
「はい?」
「今いただいたもの……
その……すぐに使いたいのですが……
どの順番で使うのが一番良いでしょうか?
……もしよろしければ、あとで教えていただけませんか?」
その声音は、恋する少女のそれだった。
ユウは穏やかに微笑む。
「ええ。リリス様が望まれるなら、喜んで」
その瞬間、リリスの表情がぱっと華やぐ。
隣でマリアが微笑み、ティアが小さくため息をつく。
(……リリス様、やっぱりすごいです……勝てっこない)
(……マリアさんも可愛い反応をするのね……)
(……僕は、どうすればこの三人を泣かせずにすむんだろう)
そんな全員の想いが、春の陽だまりの中で静かに交差していった。
この日を境に――
リリスはユウへの恋を隠しきれなくなるし、
ティアは嬉しさのあまりさらに忠誠を強め、
マリアは胸の奥の想いが揺れ始める。
三人の少女と一人の少年。
その関係は、また新しい段階へと進んでいく。




