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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第三章 第三話 領地へ帰る朝と、胸に残る温度

第三章 第三話 領地へ帰る朝と、胸に残る温度


領地視察へ向かう当日の朝は、

季節の変わり目の淡い陽光が学園の中庭に降り注いでいた。


ユウは馬車の準備を確認し、マリアと簡単な打ち合わせを終える。

伯爵家からの使者も予定どおり到着し、あとは出発を待つだけだった。


しかし――

胸の奥が、いつもより静かではないことにユウ自身が気づいていた。


(……行くだけなのに。領地の仕事だ。何も特別なことではない)


そう思うほど、その静けさは逆に際立つ。

理由は、一つしかなかった。


「……ユウ様」


振り返ると、

中庭から伸びる回廊の影から、リリスがゆっくり姿を現した。


朝の光に銀の髪が淡く揺れ、

今まで見てきたどんな彼女よりも、素の表情に近かった。


ティアが少し離れた場所で控えている。

リリスの「個人的な時間」であることを察したのだろう、黙って視線を逸らしていた。


リリスはユウの前まで歩み寄ると、

深く礼をするより先に、柔らかい微笑みを浮かべた。


「出発の前に……少しだけ、お時間をいただけますか?」


「もちろんです」


言葉の形は控えめだが、

声がどこか弾んでいるのをリリス自身も自覚しているようだった。


ユウは歩み寄り、彼女の正面に立つ。


「……一週間、会えなくなる前に、どうしてもお伝えしたくて」


胸元で組んだ彼女の指が、わずかに揺れる。


「昨日は……あんなふうに言ってしまって、すみませんでした」


「昨日、ですか?」


「ええ。“ずるい”なんて……本当は、子どもみたいだと思われたでしょう?」


ユウは一瞬だけ息を飲んだ。


(……可愛い、と思ったのだが)


それを言えば、間違いなく彼女を困らせる。

ユウは数秒だけ沈黙し、それから穏やかな声で返す。


「そんなことはありません。

 気持ちを言葉にするのは、誰にでもできることではありませんから」


リリスは、少しだけ肩の力を抜いた。


「……ユウ様は、そういうところがずるいのです」


「僕が、ですか?」


「はい。心がほどけそうになる言葉を、いつでも自然に言ってくださる。

 それが、私には……その……」


徐々に視線が泳ぎ、

声が細くなっていく。


(これは……言えないやつだな)


ユウが言葉を挟む前に、リリスはそっと口元を押さえて続けた。


「……会えなくなると、寂しくなる理由になります」


その表情があまりにも素直で、愛おしさが胸に広がる。


ユウは、彼女が言葉を続けやすいように少し距離を詰めた。

触れない範囲で、彼女の気持ちが届く距離。


「リリス様」


「はい……」


「僕も寂しいですよ。一週間だけでも」


リリスの瞳が、はっきりと揺れた。

言葉を飲み込むように唇が動く。


「……本当に、そう思ってくださっているのですか?」


「嘘をつく必要なんてありません。

 会えない日は、きっと物足りなくなると思います」


リリスは胸元で両手をぎゅっと握りしめた。


「……嬉しいです。こんなにも……嬉しいと、思ってしまうなんて」


そして、涙ではなく、小さな微笑みを浮かべた。


「ユウ様が帰ってこられる頃、

 私はきっと、もっと会いたい気持ちが強くなっています。

 ……迷惑ではありませんか?」


「迷惑なはずがありません」


即答だった。


リリスは耳まで赤くなる。


「……っ、そんなふうに言われると……余計に、一週間が長く感じてしまいます」


「では、戻ってきたら真っ先に会いに行きます。

 それなら、一週間の長さも少しは変わりますか?」


「変わります。とても……変わります」


その返事は、あまりにも素直で、愛情に満ちていた。


ティアが遠くからそっと目をそらすほどに。


リリスは一歩だけ近づき、

声を落として囁くように言った。


「どうか……無事に帰ってきてください。

 約束、ですから」


「約束します。必ず」


ユウの返事に、リリスは静かに頷く。


そして――

別れの挨拶をするためにほんの少し距離を取ろうとしたが、

一瞬、足が止まり、意を決したように振り返った。


「……ユウ様」


「はい?」


「その……戻ってこられたら……少し、お話したいことがあります」


「お話、ですか?」


「ええ。ずっと胸の中にあったことを……言葉にしたいので」


それが何を意味しているか、ユウにも十分すぎるほど伝わった。


彼女は、舞踏会の夜に揺れた心を、

もう隠すつもりはないのだ。


リリスは、恥ずかしさをごまかすように会釈し、

踵を返して歩き出した。


朝の光の中、銀の髪がゆるやかに揺れる。


その背中を見送りながら、

ユウは自分の胸に生まれた高鳴りを感じていた。


(一週間……か)


離れる時間が、これほど長く感じるとは思わなかった。


だが――

戻れば、きっと今より近い距離で話せる。


その確信が、ユウの背中を軽く押した。


馬車が動き出す頃。

彼はもう決めていた。


(戻ったら……真っ先にリリス様を迎えに行こう)


それは義務ではなく、

恋を知り始めた少年の、ごく自然な願いだった。

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