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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心

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第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心 第一話 春の教室で、隠しきれない想い

第三章 揺らぎ出す王都と、ひとつの恋心 第一話 春の教室で、隠しきれない想い



 春を告げる柔らかな光が、王立学園の白い壁を照らしていた。

 二年生の初日。

 長い冬の静けさを破るように、校庭には新しい制服のざわめきが広がっていく。


 リリスはティアと共に、ゆっくりと校門をくぐった。


「……今日から、二年生なのですね」


「はい、リリス様。きっと、去年とは違う一年になりますよ」


 ティアはもちろん微笑んでいたが、

 隣を歩くリリスは胸元を押さえている。


 理由は――自分でもよく分かっていた。


 ユウの姿を探してしまうのだ。


 去年の自分なら、婚約者アルベルト以外の男子を意識するなど考えられなかった。

 だが、舞踏会の夜に全てが壊れたあと――

 自分をすくうように差し出された手と、優しい声。


「……ユウ様は、もう来ていらっしゃるのでしょうか」


「おそらく、いつも通り早いかと」


 ティアの答えに、リリスの胸はかすかに跳ねた。


 そんな様子を見て、ティアはほほ笑む。


「……ユウ様のこと、本当にお好きなのですね」


「っ……!? そ、そんな……はっきり言わないで……!」


 顔が熱くなる。

 昨年の自分が聞いたら信じられない台詞だ。


 だが、ティアの指摘は正確だった。


 ――本当に好きなのだ。



 ちょうどその頃。


 校舎の反対側から、ユウはマリアと歩いていた。


「ユウ様、教室までお供しますね」


「はい。いつもありがとうございます、マリア」


「……っ」


 マリアの耳が赤くなる。

 それに気づかず歩くユウの横顔に、

 リリスは建物の角から気づかれぬよう視線を向けてしまった。


(……仲がよろしいのですね……)


 胸の奥が、ちくりと痛む。


 彼らは主従関係であり、家格も違う。

 嫉妬などすべきではない。

 そう分かっているのに。


(……私、何を考えているの……。ユウ様の前では、どうしてこう……)


 去年までは完璧にできていた心の整理が、

 この少年の前ではまったく機能しない。


 ティアが小声で囁く。


「リリス様、嫉妬なさってます?」


「ち、違いますっ……! ただ、その……マリアさんはとても綺麗な方ですし……」


「でも、ユウ様が見ているのはリリス様ですよ」


「~~~っ!!」


 顔が真っ赤になり、リリスは思わず俯いた。



 Sクラス教室。


 ユウとマリアが先に入り、

 少ししてリリスとティアも到着した。


「おはようございます、ユウ様」


 声が、かすかに甘く震える。

 誰よりも自分がそれを自覚しているから余計に恥ずかしい。


「おはようございます、リリス様」


 ユウが微笑むと――胸の奥がふわりと熱くなる。


「……きょうは、その……えっと……お早い登校なのですね……?」


「はい。新しい年度ですので、気持ちを整えようと思いまして」


 さらりとした答えなのに、

 リリスには優しい音色だけが強く残る。


 そこへマリアが静かに一礼した。


「リリス様、おはようございます」


「……おはようございます、マリアさん」


 丁寧に返しながらも、

 表情はほんの少しだけ固い。


(……どうして私は、マリアさん相手だとこんなに落ち着かないの……?)


 自分でも理由は分かっている。

 ユウとマリアが、息の合った主従に見えるからだ。


 それが――嫉妬に変わる。


「リリス様?」


「っ、なんでもありません……!」


 少しだけ棘のある返事をしてしまい、

 リリスは慌てて口元を押さえた。


(……マリアさんに八つ当たりだなんて……!

 しっかりしなきゃ……っ)


 だが、マリアは微笑むだけだった。


「ご安心ください、リリス様。

 ユウ様のお傍は、私よりも――あなたの方が、ずっとお似合いですから」


「~~~っ!?!?」


 その言葉は、不意打ちだった。


 ティアは隣で小さくガッツポーズをしている。


「やっぱり……マリアさん、味方だ……!」


「ティア!? 声が大き……!」


 教室に柔らかな笑いが広がる。


 授業が始まると、リリスは“完璧な公爵令嬢”に戻った。

 しかし――


 ユウがページをめくるたびリリスの指の動きが止まり、

 ユウが考え込むとリリスの視線がそっと彼に向かう。


 そんな小さな変化を知っているのは、ユウと従者たちだけ。


 ティアは小声で囁く。


「リリス様……完全に恋してますね」


「ち、違っ……いや、違わなくも……ないけれど……!」


 耳まで真っ赤になりながら、

 リリスはノートで顔を隠した。


 放課後。


 ユウとマリアが並んで帰り支度をしているのが、

 どうしても気になってしまう。


(いつも一緒に帰っているのですね……いいな……)


 彼女はひとつ息を吸い、勇気を振り絞って声をかけた。


「ユウ様……きょう、お時間は……その……ありますか?」


 ユウは振り返り、優しい顔で答える。


「ありますよ。どうかされましたか?」


「新しい年度も……また、隣で勉強していただけたら……嬉しいです……」


「ええ。僕でよければ、いくらでも」


 その瞬間――


 リリスの胸の奥で、何かがほどけるような感覚があった。


(ああ……私、本当に……ユウ様のことが……)


 その“気づき”は、

 舞踏会の夜よりも深く、

 二ヶ月の間に育ってしまった恋心だった。


 ティアがそっと耳打ちする。


「リリス様。……嫉妬も恋も、ちゃんとユウ様に届いてますよ」


 リリスは真っ赤になりながら俯いた。


「……届かなくても良いのに……届いたら……もっと好きになってしまいます……」


「それでいいんです」


 ティアがそっと微笑む。


 春の風が校舎を抜けるように、

 リリスの恋もまた静かに、しかし確実に広がっていた。

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