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『異世界ダイナリー〜創造神に選ばれた僕は、婚約破棄された公爵令嬢リリスを全力で幸せにします〜』  作者: ゆう
第一章 異世界ダイナリー ― 黄金が静かに根を張る

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幕間 微熱の夜と、静かなぬくもり

幕間 微熱の夜と、静かなぬくもり


夕暮れの離れは、いつもより静かだった。


机に向かっていたユウは、何度か瞬きをしてから小さく息を吐く。

視界がわずかに揺れていて、頭の奥がぼんやりと熱を持っているのが分かった。


(……少し、熱がある)


昼間の詠唱訓練では集中できていたものの、終わった途端に身体の重さがはっきりと意識に浮かんできた。


「ユウ様……お顔が赤いです」


マリアが心配そうに近づき、そっと額に手を当てる。


「少し熱があります。無理をなさらないでください」


「大丈夫です。ただ、なんとなく身体が重いだけです」


そう言ったものの、立ち上がった瞬間、足元が少しふらついた。


マリアは慌てて支える。


「今日はもう、訓練は中止にしましょう。お休みください」


「……分かりました」


素直にそう答えたのは、自分でも少し意外だった。



夜。


布団に入っても、なかなか眠れなかった。


身体は熱を持ち、意識だけがぼんやりと浮いたまま。

普段ならすぐに眠れるはずなのに、今日はどうにも落ち着かない。


(……眠れないな)


小さく身をよじったとき、扉の向こうで足音がした。


「ユウ様……お加減はいかがですか?」


マリアの声が、いつもより柔らかい。


「少し、眠れなくて……」


「お側にいてもよろしいですか?」


ユウはほんの少しだけ考え、それから小さく頷いた。


「……お願いします」



マリアは静かに近づき、枕元に膝をつく。


「大丈夫ですよ。ここにいます」


その声は、とても穏やかだった。


「寒くはありませんか?」


「少しだけ……」


そう答えると、マリアはそっと布団を整え、躊躇いながらも小さく身体を寄せた。


あくまで、看病としての距離。

けれどそこには確かな温もりがあった。



「……あたたかいですね」


「それはよかったです」


マリアは小さく笑う。


「お熱がある時は、眠れなくなるものです。ですので、ここにいさせてください」


「迷惑ではありませんか?」


「迷惑だなんて……そんなこと、思ったことはありません」


その言葉には、飾り気のない本心が滲んでいた。



ユウはぼんやりと天井を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……少しだけ、安心します」


「そう言っていただけるなら、嬉しいです」


マリアの声は、静かで柔らかくて、どこか落ち着く。


その温もりと声に包まれているうちに、身体の力がゆっくりと抜けていった。



「ユウ様、眠れそうですか?」


「……はい。もう、大丈夫です」


「よかったです」


そう言って、マリアはそっと頭を撫でる。


その仕草が、ひどく自然で、優しかった。



やがてユウの呼吸は穏やかになり、規則正しく寝息が聞こえ始める。


マリアはその様子を確認し、小さく息を吐いた。


(熱はありますけれど……苦しそうではありませんね)


そっと布団を整え、静かに身を引く。


だがしばらくは、その場を離れなかった。



翌朝。


目を覚ましたユウは、少しだけ身体が軽くなっているのを感じた。


「……マリア?」


視線を向けると、椅子に座ったまま、うとうとしているマリアの姿があった。


「……ずっと、いてくれたんですね」


小さくそう呟く。


昨日の夜の温もりを思い出しながら、ユウはほんの少しだけ、柔らかい表情を見せた。



誰かに甘えるという感覚。

それは彼にとって、まだ慣れないものだった。


けれど不思議と、悪くはなかった。

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