第2話:背中を預ける五人
第2話:背中を預ける五人
Sクラスの教室には、ユウとリリスが揃っていた。
その後ろには、控えるようにマリアとティナが立っている。
四人だけのこの空間は、いつも通り静かだった。
「……今日は、説明があるそうですわね」
リリスが前を向いたまま言う。
ユウは軽く頷いた。
「三年生全体で何かやるって話だ」
扉が開き、教師が入ってくる。
無駄のない足取りで教壇に立つ。
「静かにしろ」
その一言で、空気が張り詰めた。
「……次回の合同授業より、魔物討伐実習を開始する」
ティナが小さく息を呑む。
マリアは表情を変えず、ただ主の背を見守っている。
教師は黒板に円を描いた。
「これは試験ではない。
諸君らが将来、領地を治め、剣や魔法で民を守る立場になるための――通過儀礼だ」
淡々とした声だが、言葉の重みは十分だった。
「編成は五人一組。クラスの垣根は設けない。
学生同士で話し合い、パーティを組め」
チョークを置き、教師は生徒たちを見渡す。
「……いいか、これは遊びではない。
貴族には、自分に何ができるか、そして誰が信頼に足るかを見極める責任がある」
静寂が落ちる。
「誰を仲間に選び、どう戦うか。
そのすべてが、お前たちの“貴族としての在り方”そのものだ」
教師は最後に短く告げた。
「次回の合同授業までに、己の背中を預けるにふさわしい者を見定めておけ。……以上だ」
それだけ言うと、教師は教室を出ていった。
扉が閉まる音だけが響く。
しばらく誰も口を開かなかった。
最初に動いたのはリリスだった。
椅子に背を預け、ゆっくりと息を吐く。
「……五人一組、ですのね」
ユウは黒板の円を見つめたまま答える。
「俺たちは二人。
あと三人、選ばないといけない」
マリアとティナは黙って控えている。
彼女たちが“数に入らない”ことは、誰も言葉にしなくても分かっていた。
リリスが静かに言う。
「誰でもよい、というわけにはいきませんわ。
判断を乱さず、足並みを揃えられる方でなければ」
「そうだな」
ユウは短く頷く。
「戦力より、信頼だ。……教師もそう言ってた」
ティナが不安げに指を絡める。
「三人……どなたが良いのでしょう」
マリアが控えめに口を開く。
「……合同授業には、王太子殿下も参加されるはずです。
各クラス、動きが大きくなるかと」
リリスは小さく微笑む。
「殿下がどこに入られるかは殿下のご判断ですわ。
わたくしたちは、わたくしたちの最適を選べばよろしいのです」
ユウは黒板の円を見つめたまま、静かに言う。
「……三人。
誰を入れるかで、全部変わる」
リリスが頷く。
「ええ。
五人一組というのは、そういう意味ですわ」
ティナは胸に手を当て、深く息を吸った。
「……わたしも、ちゃんと見ておきます」
四人の視線が自然と交わる。
教師の言葉が、まだ教室の空気に残っていた。
次回の合同授業までに──
誰を選ぶか。
誰に選ばれるか。
それは、Sクラスの二人にとっても、
避けて通れない“通過儀礼”だった。




