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2話完結の予定です。

 「アイリーン・ドゥーテ。君との婚約は、解消する」

 高らかに宣言なさるのは、ジョセフ・サイラス様。母の遠縁のサイラス男爵家の三男で、私の婚約者。あぁ、もうすぐ元婚約者となるのだけれど、それはお父様にご報告して手続きをした後だわ。面倒だこと。


 ジョセフ様の横には、義妹のエメリンが寄り添っている。いや、どちらかと言えば、引っ付いているというのが正確ね。まだ、元がつかない婚約者なのに、そんな距離で良いのかしら。いくら我が家の客間だからと言っても、マナーがなっていない。まぁ、いつものことだけど。


 エメリンは、私の母が亡くなった後、父の再婚相手との間にできた妹。義母に似た華やかな美人で、隣に立たれると私が見劣りするのはわかっているし、陰でいろいろと噂されているのも知っているけれど、教養とか礼儀とか、もう少し頑張った方がいいと思う。


 私は、ため息をついて、ソファに座り込んだ。

 すかさず、侍女が紅茶の入ったカップを差し出してくれる。

 「ありがとう。お父様に使いを出して、サイラス様との婚約解消の手続きをお願いして頂戴。それから、エメリンの荷物をまとめるように、彼女の侍女に伝えてね」

 面倒な事は、さっさと片づけるに限る。それでなくとも、私には、やることが山積みなのに。

 私の命を受けた侍女が居間から出ていくと、ジョセフ様が驚いたように声を上げた。

 「アイリーン、君は婚約解消に賛成してくれるのか?」

 「あら、今更ですわ、ジョセフ様。私に会いに来るという婚約者の義務も果たさずに、エメリンとばかり遊んでいたのを、まさか、この私が、知らないとでもお思いでした?」

 そのような不実な婚約者は、こちらから願い下げだと言い放つと、ジョセフ様は肩をすくめた。

 「君は忙しいと言って滅多に顔を見せてくれなかったじゃないか。代わりに、エメリンが私の相手をしてくれたんだ。君と違って心優しい彼女に惹かれるようになったのも、仕方がないと思わないか」

 ジョセフ様はエメリンに、にこりと微笑みかけて彼女の手を取る。仕草が一々芝居めいていて、癇に障る。


 「私は、エメリン・ドゥーテと婚約をする。エメリンは、私の魂の一部だ。私は彼女とこの先、生涯を共にすることを誓うよ」

 「お姉さま、御免なさい。私は、ジョセフ様を慕っております」

 「はいはい、了解です。わかったから、とっとと早くここから出てってくださいな。エメリンの荷物は、後から送りますから」

 「え?お姉さま。何故私が出ていくことになるんです?」


 私は、ため息をついてカップを置いた。

 「エメリンの教育がなっていないと、あれ程お父様にお伝えしていたのに。お父様もお義母様も、貴女を甘やかしすぎよ。まぁ、ジョセフ様と結婚なさるのなら、これまでのような令嬢教育は不要よね。さすが、お父様。全てお見通しだったって訳かしら」

 「どういうことだ、アイリーン」

 「ジョセフ様も、ご理解頂いていなかったのかしら。我がドゥーテ伯爵家は、長女の私が後を継ぐことになっています。エメリンには、いずれ良いご縁を探すつもりでしたが、ジョセフ様という運命の相手を見つけられたようで、何よりです」

 まさか、母の血を引かないエメリンにも、ドゥーテ家を継ぐ資格があると思っていらっしゃったのかしらと続けると、ジョセフ様とエメリンは顔を伏せた。あら嫌だ。本当に勘違いしていたのね。


 この国では、基本的に長男が家を継ぐが、息子がいなければ娘でも爵位を継ぐことができる。私が生まれてすぐに亡くなった母が、前のドゥーテ伯爵だった。父は伯爵家とは関係のない男爵家から婿入りしてきたので、母の血を引く私が次の伯爵になる。今は父が暫定的に伯爵となっているが、来年成人を迎えれば、私が後を継ぐ事が決まっている。貴族の跡継ぎについては、陛下の許可が必要なので、父の一存で変えることはできない。

 私は伯爵家を継ぐために、父の仕事を一部引き継いでいた。昨年学校を卒業したばかりで学ぶ事は多く、ジョセフ様と会う時間が減っていたのは、反省している。

 ジョセフ様は婿入りして、私を支えてくれることになっていたけれど、私と結婚しないのであれば、彼の将来の事はサイラス家が決めることだ。姉の婚約者を横取りしたエメリンは、この家には居づらいでしょうから、さっさと出て行ってサイラス家で暮らして欲しい。

 「というわけで、私の家から、とっとと出て行ってくださいませ、お二方」

 ティーカップを置いて、ソファから立ち上がる。

 この日のために特別に用意させた扇で口元を隠し、華麗に微笑みながら宣言する。

 「ざまぁ御覧遊ばせ」


 決まった。とうとう言ってやったわ。

 これが、いわゆる『ざまぁ』と言うものなのね。

 ちょっとハイテンションが止まらない。


 ジョセフ様が、婚約したての頃から、美しいエメリンに惹かれているのは分かっていた。

 でも、彼の婚約者は伯爵家の跡取りの私で、エメリンではない。それは変えようがない現実。

 いつかは現実を、私と共に歩む道を選んでくれると思っていた。

 愛情からではなく、家のために。それが貴族のやり方だと、私は信じていた。

 そして、彼も同じように考えてくれるのだと考えていた。

 でもそれは、私の勘違いだったようだ。

 ジョセフ様は、エメリンを選んだ。

 彼らが人目も憚らず出歩くようになってからは、私の我慢はぎりぎりのところまで来ていた。私を蔑ろにしている彼と婚姻を結ぶつもりはない。どうやって父に婚約解消を認めさせようかと考えていたのだけれど、彼の方から婚約解消を言い出してくれた。てっきり、真実の愛を選んで伯爵家を諦めるのかと思ったら、エメリンと結婚して伯爵家を継ぐつもりでいたとは。どれだけ私は舐められていたのかしら。

 溜め込んでいた言葉を、彼らに吐き出すことができて、本当に、本当にすっきりした。


 「そこまでだ、アイリーン」

 私が独りで感動していると、開けっ放しの扉から、お父様が入ってきた。

 背後には、義母の姿も見える。


 「お父様?」

 「伯爵家の後継ぎは、ジョセフに決まった」

 「どういうことです?」

 「陛下からの書状が先ほど届いた。ジョセフ・サイラスが次のドゥーテ伯爵となることが認められた。という訳で、ジョセフの婚約者はエメリンになる。ごく自然な話だ。ああ、もちろん、お前とジョセフとの婚約は解消済だ」

 「いったい、何のお話です?」

 「アイリーンは病弱で、とても伯爵家の仕事ができる状態ではないため、伯爵家の継承権を辞退したいと申し出ていたのだ」

 「はい?」

 これは、何の冗談?


 「アイリーンは、ゆーっくり、領地で静養するといいわ」

 義母が、これ以上ないくらい嬉しそうに微笑んでいる。

 ざまあが一挙にひっくり返ったわ。

 詰んだのかしら、私。

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