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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

かわいいものが好きな幽霊 ブキミちゃん

 あまりにもノリの軽い彼氏について来てしまった。

 後悔してる。こんな薄気味悪い古ぼけた洋館、なんか怖いものが出ないわけがない。


 彼氏がチャラチャラ笑いながら、解説をはじめちゃったよ。

「この洋館にさ、ブキミちゃんて名前の幽霊が現れるんだって。見たいよなー」


「ブキミちゃん!?」


「おっと。過去にそういうキャラが某漫画に出てたらしいが、そいつじゃないぜ? 別モノだ」


 何格好つけてんだ? こんな時にこの彼氏。チャラチャラとあっちこっちにアクセつけてるし。こんなとこに来る格好じゃない。格好いいけど。


「そいつはなんでも、かわいいものが大好きな幽霊らしいぜ」


「かわいいものが!?」


「ああ。かわいいものだと判断したら、カラダじゅうの骨をバキバキに折って食べちゃうらしい」


「じゃ、あたし、食べられちゃうじゃん!!」

 あたしは恐ろしさに、抱いていたクマさんのぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。


 自分で言うのもアレだけど、あたしはかわいい。

 しかも今日はデートだっていうから、メイクもバッチリ、服もとっておきのかわいいやつ着てきちゃったよ! ロリータファッションやめときゃよかった!

 食べられちゃう……。あたし、食べられちゃう……!


「どうかな」

 彼氏が鼻で笑いながら、言った。ちょっとムカつく。

「俺は莉々奈のすっぴん知ってっから……、なんとも言えんな」


「んだと……!?」

 青筋がぴきりとこめかみで音を立てる。


「とりあえず入ってみようぜ」

 そう言ってあたしをリードするように彼氏が先に立って歩き出した。


 ついて行くしかないじゃない!?





「わぁ……!」

 中に入って、あたしは思わず声を上げた。表情は笑顔になった。

「かわいい!」


 おどろおどろしい外観とは打って変わって、洋館の中はかわいかった。

 アイテムはアンティークな燭台と赤いテーブルの上に並べられたティーカップぐらいだけど、壁紙も床も天井もかわいい。白とピンクでで統一されて、天井にはひよこ、壁にはねこ、床にはかわいいフェレットがちょこちょこ描かれている。


「あっ、こんばんは」

 彼氏が誰かに挨拶した。

「ブキミちゃんですかぁ?」


 彼氏が挨拶したほうを見ると、そこにあったロッキングチェアーに、いつの間にか女の子が座っていた。

 すごい女の子だった。必死で自分をかわいくしようとしてるのがわかる。

 かわいいは作れるものだけど、どれだけ頑張ってもかわいいにはとても到達できない化物もいるって知った。


「こらこら。失礼だろ」

 彼氏があたしをたしなめる。


「あたしなんにも言ってないよ?」


「表情が語ってるよ。ブキミちゃんを激怒させる気か?」


「ムキー!」

 ブキミちゃんが激怒して立ち上がった。


 こっち来る!

 怖い!

 顔がヒアルロン酸注入しすぎて膨らんでしまったイソギンチャクみたい!


「ギアあ!」


 叫びながらブキミちゃんがあたしの抱いてたクマさんのぬいぐるみを奪い取った。


 しばし見つめた。


 呟いた。


「カワ……イイ……」


 柿の化物みたいな顔をニヤリんと笑わせると、フェレットを激しく暴力的にかわいがるみたいに、グシャグシャにクマさんを両手で丸めた。すごい力だ!


 そしてそれを大きな口に詰め込んだ。開いた口にはサメのような牙が並んでる。ガシガシ、グチャグチャと音を立てて、綿の詰まったぬいぐるみを食べてしまった。



 次は彼氏だった。


 ブキミちゃんは彼氏に近寄ると、蛇みたいな目を光らせて、なんか聞いた。


「アンタ……ガタ……ドコサ」


 彼氏は愛想よく笑って答えた。

「俺は、俺です」



 彼氏の答えに興味なさそうに、ブキミちゃんが離れる。彼氏はブキミちゃんの目にはかわいくなかったようだ。



 ぐりん! と首を90度動かして、ブキミちゃんがあたしのほうを向いた。


 やめて……。あたし……、かわいいけど……、食べられたくない。


 食べたって美味しくないよ。

 莉々奈って名前は偽名で、ほんとうは竹子だし。

 メイクも加工レベルでしてるし、ウェストもロリータドレスでギッチギチに締めつけて細く見せてるだけだし。


「アンタ……ガタ……ダレサ」

 ブキミちゃんに聞かれた。


 あたしはガクガク震えながら、彼氏の真似をして、答えた。

「あたしは、あたしです」


 ブキミちゃんの目が、嬉しそうに、光った。


「カワ……イイ」



 いやあぁぁぁあ!!!


 でも、かわいい認定されたのは嬉しかった。



 ブキミちゃんは、あたしの真ん前に立つと、怪力であたしの肩をバキバキと折りながら、大きく口を開けた。

 サメみたいな歯がいっぱい並んでるのが見えた。あたしにはそれがギロチンに見えた。

 シャクッ! という音がしたかと思ったら、何も見えなくなってた。

 あたしの血がぶしゅぶしゅいいながら飛び散るのが、なぜか聞こえた。耳はもう胴体から離れてるはずなのに。






 そうしてあたしはブキミちゃんに食べられたのだった。


 え?


 どうして死んだあたしがこんな文章を書けてるのかって?


 けけけ。


 ブキミちゃんに食べられたあたしはブキミちゃんになってしまったのだよ。うけけ。


 あなた、あたしの目の中で、かわいく見えるよ。


 食べ……サセテ……(舌なめずりずり)





 シャクッ!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後こーわい。 ヘルプミー! ( >Д<;)
[一言] こんな軽いテンポだから、どうせギャグだろうな……と思ったら。 食べられた……!? しかも、けけけが、ゾクッと来ました。 来ました。 マジでギャグかと思ったんですけどね。 さすがです。
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