兄弟
盃を交わしたのは、出会ってから間もない頃だった。
第一印象は、どこにでもいるチンピラ。
そんな奴と今、兄弟になろうとしている。
「兄貴、これから宜しくお願いします」
「もう交わしちまったんだ。兄貴じゃねぇよ兄弟」
人は見かけによらずとは、よく言ったものだ。
兄弟になったアイツは
礼儀と義理を重んじる奴だった。
対等な立場でありながらも
呼ぶ時は常に「兄貴」だった。
どうして「兄弟」と呼ばないんだと聞いても
俺にとって兄貴は兄貴ですから、と
屈託のない笑みを浮かべるだけだった。
組織の中で「兄弟」とは本当の意味では無い。
では無いのだが、兄貴兄貴と慕うアイツのことを
いつしか、本当の弟のように、と思えてきたのだった。
その日は、台風が接近していることもあり
朝からひどい大雨だった。
テレビではニュースキャスターが必死に
強い雨風に打たれながら状況を説明している。
しばらくは太陽を拝めそうにない。
事務所の扉が静かに開いた。
アスファルトに雨があたる音がよく聞こえる。
目の前には兄弟のアイツ。
声をかけようとした瞬間、視界が揺らぐ。
視点は天井を向いていた。
遠のく意識で聞こえた声。
「すみませんすみませんすみません...」
激しい雨音と、泣きじゃくるアイツの声と。
身体がフッと誰かに抱きしめられる。
何か言葉が聞こえたが、もはや耳には届かなかった。
初めて飲んだお酒は「黒霧島」ロックです。
自由な解釈・考察を求めて。
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