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作者: リモーネ
掲載日:2020/12/21

「安西!」


駅の自転車置き場で、突然声をかけられた。


『おー…三木!』


三木泰智。


中学の頃からのツレ。


大人になった今でも、たまに呑んでいる。


「今日、休みか?」


『うん、これからちょっとフラっと気晴らしにでも行こうかなと…』


「俺も!丁度電車で出かけようかなって…何処か行くところ、あるのか?」


『いや、別に…いつもの…江ノ電に乗って、適当に…』


「そしたらさ、このままチャリで海行こうぜ、海!」


『………は?今、冬だぞ?寒くね?』


「良いじゃん、たまには。高校時代みたいに、コーヒーとか持って、海でぼーっと喋ろうぜ!」



『…そこの店で良くね?』



高校時代からよく使ってた、コーヒーショップを指差す。


「良いじゃん、海で!じゃ、そこでコーヒー買って、行こうぜ!海!」


いつも「お前が決めていいよ」ってゆうスタンスの三木が、ここまでグイグイ来るのは珍しい…


『…分かった。行こう!』


2人で連れ立って、いつものコーヒーショップでコーヒーとホットサンドをテイクアウトした。


「じゃあ、行こう!」


『…ああ。』



2人で自転車を漕ぎ出した。

「海ってさ、冬になると何でこんな風に荒々しく濁るんだろうな」


海を見てぼーっとしてたら、突然、隣に座っていた三木がそう言った。


『………………は?』


「いや、だからさ、何故に冬の海って、こんなに暗く荒々しいのかって話…」


『………いやいや、聞いてた、聞いてた…でも…何だよ、急に…』


「………」






『いや、黙るなよ!』


「お前に話してなかったっけ?俺の親父の話…」


『…いや…聞いてない…随分前に、話の流れで"暫く前に急にいなくなった"って聞いたっきり…聞きづらくて…』


「…だよな…そうだよな……………」






『…で、また黙るし!冬の海と親父さんと、どういう関係があるんだよ!』


「俺の親父…この海の中にいる。」


『…………!』


「多分…だけどな。遺体も上がらなかったらしいし。」


『…………』






「…………リーマンショックで株価が大変動した時に、はじめは親父も[バブルの時も何とかなった。今回だって…]って楽観視してたんだよ。

でも、今回はダメだった…そりゃそうだよ、バブルの時はまだ独身で若かったし、負債分を仕事して補填出来たけど、リーマンの時はもういい大人で、給料はしっかり貰ってたけど、色々な意味で株価暴落に耐えられる基礎体力が無くなってたんだよな…

現実を直視した時にあまりにショックだったのと、今までの激務のツケと…で、突然倒れて…脳卒中だった。

いわゆる[働き盛り]だったから、倒れてもまだ[俺はイケる!]なんて言ってたんだけど、右半身に麻痺が残って…何ヶ月もリハビリしても一向に回復しないし、リハビリつらいし…いつの間にか鬱になっていってさ…

ある日…冬の、丁度このくらいの時期…[散歩に出てくる]って言って出て行ったっきり…帰って来なかった…

お袋も俺も、その時について行くって言ったんだけど、[付いてくるな!]って何度も怒鳴り散らされて…俺達も介護に疲れてたんだよな…[勝手にしろ!]って…思っちゃってさ…」


『………』


「一晩たっても帰って来ないから、さすがに警察に行こうってなって…そしたら次の日の晩、警察から[三木 和夫さんの所持品が見つかりました]って…免許とか、携帯とか…親父が使ってた杖とか…それが見つかったのが、この辺りの砂浜…」


『…知らなかった…』


「俺、お前には何でも話してるけど…そうか、さすがに言えなかったんだな。相手がお前でもな…」


『…確かに、麻痺が残って、冬の海で杖がここに流れ着いたとなると…』


「………」




三木…だから、お前………




『だから、お前、理学療法士になったのか…』


「そ。俺、それまでは[全世界は全て俺中心に回ってる]くらいに考えてたけど、それは結局、親の後ろ盾があったから。

親父がいなくなって、お袋が倒れて…今は、それでも親父がある程度遺しててくれたから、家を売ってアパートに住んで、俺が専門学校に行く金と、お袋の介護にかかるお金くらいは何とかなった。

今年妹も高校を卒業するし、大学に行かせるくらいは何とか俺が稼げる。

あいつもバイトするって言ってるしな。

本当に考え方、180度変わったよ。

あー、甘かったなぁ…って。

人間、どこかで必ず[自分勝手に生きてきたツケ]を払うんだな…

お袋も、だんだん体力ついてきて、今は家事全般出来るようになってきたんだ。

[昔のあの大きな家を管理してたのに比べたら、ずっと楽よ!]なんて笑いながら。」


…三木…お前、本当に変わったな…

確かに昔はめちゃめちゃジコチューで、オラオラしてたよな、お前…


対して、社会に出ても実家暮らしで、そのくせ「飯がまずい」だの「○○買っといて」だの親に対して偉そうにしている俺…


…小さいな、俺…

…小さすぎるわ…



『三木…話してくれて、ありがとう。俺も頑張るわ…』


「…お…おう…」




「人間、必ず[自分勝手に生きてきたツケを払う]」


…俺も、少しづつでいいから、変われるといいな…


そのツケが大きくならないうちに…




冬の海は、暗く、荒々しく、濁っていた。

16時30分。


三木と別れた。


「『じゃ、またな!』」


いつも通り、明るく別れた。




…そうか…

…三木の家族は、いつも通りの日常を送っていたんだ…

そして、親父さんが突然消えた…


三木の後ろ姿を見送りながら、ぼんやり考えていた俺は…ゾクッとした。




「人間、必ず[自分勝手に生きてきたツケを払う]んだな」




その言葉が妙に耳に響いた。


…あいつ、親父さんの失踪はこの時期だと言った。


そして、何も聞いていなかった俺に[今]話した。



…背筋が寒くなっていく…


あいつ、まさか…


…まさか…




俺は、去っていく三木から目が離せなくなった。






嫌な予想とは反し、三木は住宅地へ消えていった。


ほっと胸を撫で下ろすが、まだ残る違和感。






〖三木、家に着いたら連絡くれ!〗


無意識にメッセージを送っていた。

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