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妖精のパーティ  作者: 碧衣 奈美


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ライトスの初恋

 ライトス達は、テットの村の近くにある森へと戻って来た。仕事で訪れた森だが、ばたばたしすぎて退治した魔物の記憶が薄れている。

 あの影の魔物が現れた場所だが、フィーエンが言ってくれた通り、魔物は確かに消えていた。それがわかって、ライトスは心底ほっとする。もうあんな恐怖を味わいたくない。

 ただ、魔物の存在に関係なく、完全に夜が更けた時間帯になっているので移動することはやめておいた。

 朝になってテットの村へ戻り、村長に魔物はちゃんと退治しておいたと報告して、今回の仕事は完了する。

 野宿している間にライトスはバートル達と話し合いをしたが、まずライトスはリュディを元の姿に戻すため、薬の調合に専念することになった。

 薬の効果が切れれば元に戻るだろうが、それがいつになるかわからないし、放っておいておかしな作用が出たりしないうちに戻したい。

 その間に、バートルとディアドはリュディや彼女の父であろう魔法使いのことを調べることにした。

 リュディは自分のいた村の名前をちゃんと覚えておらず、そこからたどることはできない。大雑把にこんな感じの村で、家族は父親だけで……というわずかな情報だけだ。村からほとんど出たことがないらしく、村の名前を意識したことがないようだった。

 何度か街へ連れて行かれたこともあると話していたが、同じくその名前はわからない。何か思い出したら教えてくれるようにリュディには言って、バートル達は自力で捜すしかなかった。

 そして、ライトスが薬を調合している間、リュディをどうするかだが……。

 放っておいて鳥や野良猫などに襲われたら大変ということで、母に事情を話して面倒をみてもらえることになった。もう隠す必要がなくなったので、ライトスとしても気が楽だ。

 小さなリュディを見て最初は驚いたものの、娘が欲しかったレイシアはかわいらしい少女のために早速服を縫い始める。

 人形のように小さな服が必要なのは今だけなので、元に戻った時のためにと布を大量に買い込んだ母を見て、最初から頼めばよかった、とライトスは後悔した。そうしていれば、おもちゃ屋で緊張しながら人形の服を買わずに済んだのだ。

 やっぱり隠そうとしたのがよくなかった、と反省したが今更である。

 子どものライトスは人間界へ戻った時、熱を出して倒れてしまった。しかし、リュディは熱を出す様子もなく、平気そうだ。

 本当なら妖精界から人間界へ戻ったあの夜に倒れてもおかしくなかった訳だが、さすがは妖精界の空気に馴染む人間、ということだろうか。

 数日後、ライトスの薬が完成するのと、バートルやディアド達がリュディのいた村を見付けたのはほぼ同時だった。

 捜索条件が「魔法使いの娘」と多少は限定できるものの、魔法使いは世界中にいる。妖精界へは妖精のパーティの招待状さえ持っていれば、人間界のどこからでも行くことが可能。しかも、十年以上も前の話だ。

 どれだけの時間がかかるかと誰もが心配していたのだが、予想外に早く見付かった。奇跡的と言うべきか、そんなに離れた場所ではなかったのだ。

「ライトス、最近仕事で行ったクインって村、覚えてるか? ほら、村と近くの森の境界に結界を張っただろ。そこの村長が、昔は村に魔法使いがいたって話をしてたのを思い出したんだ」

 妖精のパーティ以降、色々ありすぎて時間の感覚がマヒしそうだが、ディアドに言われてライトスもその仕事のことを思い出す。ずいぶん前のようにも思えるが、本当につい最近のことだ。

「そう言えば、そんな話をしてたっけ。子どもがいなくなって、見付けられないまま具合が悪くなって亡くなったとか……あ、それがリュディの父親?」

 言われてみれば、十年以上前にこんなことが……という話が出ていた。留守中に突然娘がいなくなり、どこをどう捜しても見付からなかった、と。

 ディアドがその話を思い出し、バートルと二人でまたクインの村へ(おもむ)いて村長にはっきり確認した。

 いなくなった魔法使いの娘は、リュディという名前である、と。

「レフィードって魔法使いの娘がいなくなったのは、十一年前の春頃。リュディの見た目年齢と合ってるだろ。当時五歳だったから、今のリュディは十六歳ってことだな」

 春頃と言えば、今くらいの時期。つまり、妖精のパーティの招待状が届けられる頃だ。これでリュディが人間界から消えた時期と、彼女が妖精界にいたことがつながる。

「ライトスが妖精界で最初にリュディを見たのが十年前。つまり、あの子の方が一年先に妖精界へ入り込んでいた、という訳だ。私の時とは違い、レフィードはリュディが自分の後ろからこっそり入り込んだことに気付かなかった。だから彼はそのまま帰ってしまい、リュディは妖精界に残された。そんな事情を知らないレフィードは、魔物か人さらいに連れて行かれたと思ってあちこち捜し回っていたんだ。まさか娘が妖精界にいるとは知らずに」

 恐らく、レフィードは想像もしなかったのだ。娘が妖精界にいるなどとは。

 それはそうだろう。普通、妖精界へ行けるのは招待状をもらった魔法使いだけなのだから。

 人間界にいる人間や魔物をどれだけ調べても、リュディが見付かるはずがない。村人が目撃していないのも、レフィードが自宅の部屋から妖精界へ行っていたからだ。

 当然、リュディも父の後を追ってその扉を使っているし、何か用事があってタイミングよく魔法使い宅へ来なければ、その時の状況を誰も目撃することはできない。父しか家族のいないリュディには、止めてくれる人間が家の中にいなかった。

 ライトスがリュディの着ていた服が寝間着のようだと思ったのも、本当にそうだったのだ。リュディがベッドに入って少ししてから、妖精界への扉が開いたのである。ライトスの元に残ったリュディの木靴は、父を追い掛けようと慌ててはいたものらしい。

 レフィードは妖精界にリュディがいると思わなかったから、妖精に尋ねなかった。考える余地もなかっただろう。彼にも顔見知りの妖精はいただろうし、もし尋ねていたらリュディの居場所がわかったはずだ。

 そうすれば、パルレがしてくれたように特別に世界をつなげてもらう(パルレの話では危険らしいが)か、一年待って招待状を受け取り、自分で扉を開けて娘を迎えに行けたはず。

 だが、現実にはレフィードは一年を待たずに亡くなってしまう。亡くなった魔法使いに招待状は送られることもなく、扉は開かれない。

 誰も迎えに来てくれず、いることすら知られず、リュディは妖精界に置き去りにされたまま……。

 この親子にとって、不運なことが重なってしまったのだ。

「父さんが気付かなかったら、俺もリュディみたいになってたってことか」

 あの時のライトスは行くことばかりを考え、帰る時になるまで帰る方法を考えていなかった。バートルがちゃんと見付けてくれたから、ライトスは置き去りにされずに済んだのだ。本当に今更だが、父に感謝である。

「可能性としてはあるだろうが、お前は彼女より歳が上だったし、いざとなれば妖精に頼むなりできたんじゃないか? リュディは完全に萎縮してしまっていたようだが、お前は小さい頃から妖精を見ても物怖じしなかったからな。リュディはお前と違って妖精界へ行きたかった訳ではなく、父親がどこかへ行こうとしているのを見て、ついて行っただけだろう。その辺りのことは、本人に聞かないとわからないがな」

 そのリュディは、ライトスが完成させた中和剤でようやく本来の大きさに戻った。

 やっぱりかわいい……と、リュディが元に戻ったのを見て、ライトスが最初に思ったのがこれだった、というのは内緒である。

 リュディに父親の死を話すべきか悩んだライトス達だったが、お父さんを捜す、と約束しているし、何もなかったことにはできない。

 リュディに事実を告げると、生死については理解できるようでずっと泣きじゃくり、彼女が泣き疲れて眠るまでライトスはずっとそばについていた。

 数日経ってようやくリュディも落ち着いてきたが、また問題が浮上する。

 本来の姿に戻れたのはいいとして、リュディの中身は妖精界へ入り込んだ五歳のままだ。身体は現実世界に追い付いても、勉強も色々な経験もしていないため、中身はそのままなのである。

 バートルが村長に尋ねたところ、レフィードには親戚筋に当たる人間がいなかったらしい。少なくとも、村長は聞いたことがない。つまり、リュディの引き取り手が誰もいないのだ。

 リュディは十六歳。外見に中身が伴えば、多少の援助が必要としても、ここルットの街でもクインの村でも一人で暮らすことができる年齢である。

 だが、現実には中身は五歳の子どもだ。自分のこともまともにできない人間を、一人で放り出す訳にはいかない。

「そんなことなら、うちで暮らせばいいじゃない」

 事情を知ったレイシアの一言で、リュディの行き先はあっさり決まった。まさに、鶴の一声である。

 リュディを預かってまだ十日程しか経っていなかったが、レイシアはすっかりリュディのことを気に入っていたのだ。バートルは、そんな簡単に……と思ったのだが、有無を言わせない妻の笑顔と雰囲気に飲まれて何も言えない。

 それに、母親のいなかったリュディの方でも、優しく世話をしてくれるレイシアにすっかり懐いていた。

 自分の状況や父親が亡くなったことで傷付いているし、この家が自分の居場所になりつつある彼女を、今更引き離すのもかわいそうだ。次の行き先がどこであれ、リュディにとっては知らない場所、知らない人ばかり。幼い心には重い状況だ。

 そう考えると、バートルも「仕方ないか」と思うのだった。

 ライトスはリュディがそばにいるとなって、心の中で「やったっ」と拳を握った。妖精界で少し話を、なんてものじゃない。その気になれば、これからは一日中だって話せるのだ。喜ばないはずがない。夢みたいな話だ。

 こうしてリュディの落ち着き先も決まり……五年の月日が流れる。

「ただいま」

「あ、ライトス! おかえりっ」

 飛び跳ねるような足取りで、リュディは仕事から戻って来たライトスを出迎える。

 あの言葉少なで、小首を(かし)げる少女はもういない。街を歩けばどこかで見かけそうな、元気でよくしゃべる女性がライトスに飛びつく。

「はい、おみやげ」

 ライトスが片手でリュディを抱き留めながら彼女の頬にキスし、もう片方の手に持っていた袋を彼女の顔の前で振った。

「わっ、この匂い……もしかしなくてもチョコクッキー?」

 はち切れそうな笑顔を浮かべていたリュディは、はっとしたようにふくれる。

「ライトス、あたし、もうクッキーで喜ぶような子どもじゃないもん」

「そう? 出迎えで飛びついてくるのは、子どもか犬くらいだと思うけどな」

「もうっ。意地悪」

 言いながらライトスから離れたリュディだが、その手にはライトスからぶん取ったチョコクッキーの袋がちゃっかりあった。それを見て、ライトスは笑う。

 十一年分の空白を埋めるのは大変なのではと思っていたが、妖精界に長くいた影響なのか、もともとリュディの理解力が高いのか。

 経験こそ少ないものの、この五年の月日で現在のリュディには外見とほとんど大差ない知能が備わっている。

 時々、今のように子どもっぽいことをしたりもするが、レイシア曰く「どこへ出しても恥ずかしくない二十一歳のレディ」になった。ライトスの予想通りに美人である。

「リュディ、あんまりたくさん食べるとドレスが入らなくなるわよ」

 顔の半分くらいもある大きなクッキーにぱくつくリュディに、レイシアが苦笑しながら注意する。

「はーい」

 と、返事だけはいいリュディ。食べる手は休めない。

「お前も甘やかしすぎだぞ、ライトス」

 その様子を見ていたバートルが軽く注意する。

「これが一番喜んでくれるし、つい」

 別のお菓子や、たまに花なんかを買って来ても、喜んではくれるがそれなりの反応。

 リュディがいい笑顔を見せてくれるのはチョコクッキーの時で、ライトスが一番好きな笑顔なのだ。

「時々、リュディにプロポーズしてうんと言わせたのは、チョコクッキーで釣ったんじゃないかと思えてしまうんだがな」

「さすがにそんなことしないよ……」

 以前、ディアドにも似たようなことを言われてしまった。二人とも、からかっているのか本気で言っているのか……。

 来月、ライトスとリュディは結婚する。

 一緒に暮らし始めた頃は、妹ができたような感覚もあったライトス。

 だが、元々ライトスにとってリュディは初恋の相手なのだ。存在する世界が文字通り違う相手だからとあきらめていたが、リュディが人間とわかればその点については何の障害もない。

 彼女の精神が年相応に成長するに従って、リュディに対する想いはどんどん強くなる。

 そうして、ライトスは自分の想いを告げて結婚を申し込んだ。

「うん」

 と、あっさり返事され、ライトスは嬉しいと言うよりは少し拍子抜けした。

 五年と言う、微妙な長さの年月。妖精界から無事に戻ってからはずっと一緒に同じ家で家族のように暮らし、兄のような感覚でしか見られない、なんて言われることもありえると思っていたのだ。

「リュディ、俺の言ってる意味、わかってる……よね?」

 精神的にも成長し、街の女の子と同じようになったとは言え、まだどこか子どものようにも見えるリュディ。自分の言ったことを本当に理解してくれているのか不安になり、ライトスはそんなことを聞いてしまった。

 リュディは「もちろん」と笑顔で(うなず)く。

「ライトスはいつも守ってくれるもん。あたし、ライトスと離れるの、絶対にやだ。ずっとライトスと一緒がいい。ライトスのこと、大好きだもん!」

 そう言って、キスをしてきたのはリュディの方からだった。子どもだと思っていた少女は、確かに大人の女性へと成長しつつあることを知る。

 そう言えば、女の子は成長が早いと聞いたことがあるような……。

 ライトスが両親にこのことを報告しても、全然驚かれなかった。そのうちそうなるだろう、と確信していたらしい。ディアドに話しても、やはり似たような反応だった。

 そんなに俺達ってわかりやすいのかな、とライトスは首を傾げたりもしたが、そんなこんなで式の日は近付いてくる。

 と言っても、リュディが人間界へ戻って来てからずっとこの家にいて、結婚してからもここに住むので、生活そのものはほとんど変わらない。

「あ、小鳥」

 リュディが窓から入って来た白い小鳥に気付いた。妖精のパーティへの招待状を持った小鳥だ。

 二羽いるのは、バートルとライトスそれぞれに招待状を渡すためである。

「ちょうど仕事が終わってよかったな。いいタイミングだ」

「うん。来るならそろそろだろうと思ってたから、急いで終わらせたんだ」

 あれから毎年、二人の元へは招待状が届いている。

 リュディの件ではごたごたしたものの、結果的に妖精の怒りを買うようなことは何もしてないからか、バートルはもちろん、ライトスもちゃんと招待されていた。次の年にあの小鳥が現れたのを見て、ライトスは心底ほっとしたのだ。

「あなた達の子どもが生まれて歩き出すようになったら、今の時期は特に気を付けないといけないわね」

 レイシアの言葉に、ライトスとリュディは首を傾げる。

「両親ともに、魔法使いでもないのに妖精界へ入り込んだんだからな。そんな二人の子が何もしないとは思えない」

 それを言われると、ライトスは何も言えない。この話は一生されるような気がする。

「あの時は迷惑かけたけど……って、まだちゃんと結婚もしてないのに、子どもって早すぎるよ」

「言ってる間にすぐだぞ」

 少し顔を赤らめながら言うライトスに、人生の先輩はからかうように笑った。

「あたしがその子をしっかり抱き締めて、ライトスを見送るから平気よ」

 にっこり笑いながら言うリュディを、ライトス達が見る。

「あっちの世界へ行っても、ちゃんと帰って来るってわかったから」

 父が妖精界への扉を開けるのを見た時、置いて行かれるのかと思った幼いリュディはその後を追い掛けた。

 次の年にライトスやバートルがまた妖精界へ行くと聞いた時は、彼らがいなくなってしまうのではと不安だった。レイシアが「大丈夫だから」と抱きしめていなければ、また彼らの後を追いかねない状態になって。

 でも、魔法使いは一、二時間程でちゃんと戻って来るのだとわかり、それまでは少し不安定なこともあったリュディの精神状態も落ち着いた。

 精神的な成長が、彼女の年月に急速に追い付き始めたのはそれからだ。

「うん、リュディがそこにいてくれたら安心だよ」

 魔法使いではない彼女と一緒に妖精界へ行くことはできないが、戻れば愛しいリュディがそこにいてくれる。こんな幸せなことはない。

 ライトスの言葉に、リュディは嬉しそうに笑った。

 小鳥の声が部屋に響く。

「ああ、ごめん。待たせちゃったね」

 二人の魔法使いは、小鳥から招待状となる竜のうろこを受け取る。

 用事を済ませた小鳥はそれぞれ窓から出て行き、暖かな春の空へと消えて行った。

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