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妖精のパーティ  作者: 碧衣 奈美


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13/14

リュディの事情

 フィーエンは、リュディと初めて会った時から……と話していた。その「初めて」というのはつい最近のことらしい。

 もっとも、妖精の「つい最近」は人間にとってずいぶん前、ということも少なくないのだが、とにかく出会ったのは最近なのだ。

 元々一緒にいた仲間ではない、ということ。

 ライトスと初めて会ったあの場所に、リュディは一人でいた。何だか事情がありそうな様子でフィーエンは声をかけたが、あまり……いや、ほとんど自分のことをリュディは話そうとしない。

 無理に問い詰めても話は前に進まないだろうと、フィーエンや仲間達はそっとしておくことにした。そのため、彼女達はリュディの名前を知らない。

 ライトス達は自分達の事情を話すのに必死だったし、話の流れが特にとどこおることもなかったため、フィーエンがリュディの名前を呼ばないことに気付いていなかった。

 くせのない黒髪に、緑の瞳。

 身体の大きさが違っても、姿はよく似ている。だから、フィーエン達は疑うことなくリュディを仲間だと思っていたのだ。

 つまり、フィーエン達はリュディがどこの誰か、ということをちゃんと知っている訳ではない。似た姿で妖精界にいれば、同じ種族でないとしても近しい存在だ、と思い込んでいたのである。

 だから放っておけず、いなくなったことに気付いて調べると人間が絡んでいるとわかった。人間界でならともかく、妖精界からいなくなったのなら大問題だ。妖精のパーティに来た魔法使いの仕業なら、そのままになんてできない。

 それで、取り返そうとした。あの影ような魔物を送り込んだのである。

 一方、ライトスはリュディがいたのは妖精界だったし、自分の部屋へ来てからは人間ではありえない成長の仕方をしたしで、妖精だと信じて疑わなかった。

 魔法使いなら妖精から独特の気配を感じるものだが、バートルやディアドはリュディからそういったものが感じられないので、多少の違和感は覚えていたのだ。

 しかし、それは彼女が魔法も使えない程に幼いからだ、と思っていた。妖精でも人間でも、誰もがみんな同じとは限らない。中にはこんな妖精もいるのだろう、と。

 それに、妖精界から来たのであれば、妖精だと思うのは自然なことだ。

 パルレは、初めてリュディを見た時に自分達と同じような大きさだったので、人間とは思っていなかった。バートル達と同じで、小さくなったのがライトスの薬のせいだと聞いても妖精界にいたのなら、とリュディが人間である可能性を疑うことなく消していたのだ。

「リュディが人間って……俺が初めて会ったのは妖精界なんだけど」

 トルージャの言葉に、ライトスは呆然としながらつぶやく。にわかには信じられないが、こんな場で、しかも竜が嘘や冗談を口にするとは思えなかった。

 確かに、ライトスがリュディと出会ったのは妖精界である。

 だが、よく考えればリュディは一度も自分が妖精だと話していない。妖精が「私は妖精です」と自己紹介するのを聞いたことがないし、だからリュディもわざわざ言わないだけだ、と勝手に判断していた。

 何の妖精だろうとは思っても、わざわざそのことを聞かなければならない状況でもなかったから、余計に聞くきっかけを失っていたのだ。

 リュディにしても、妖精なのかと聞かれなかったから「人間です」と答えるチャンスがなかった。聞いてもちゃんと答えられたかは、これまでの受け答えからしてちょっと怪しいが……。

 とにもかくにも、ライトスの部屋へ来てから大変なことが立て続けにあったので、それどころではなかった、というのもある。

 だが、本当に人間なら。

 急に大きくなった理由はともかく、出会った時は幼い少女だった。自分の事情もうまく説明できず、迷子になったために不安で一杯になり、誰と会っても怯えていたというのも納得できる。

 子どものように見えるのではなく、本当に子どもだったから情報をちゃんと伝えられなかったのだ。

「きみは……ああ、いつだったかこっそり妖精界へ来た子だね」

「え、どうしてそれを……」

 トルージャにあっさり言い当てられ、ライトスが目を丸くする。それは横で聞くバートルも同じ。

「この世界で起きているだいたいのことはわかるよ」

 何でもない、という顔で笑うトルージャ。人間にとっての十年が竜にとってどれだけの長さになるか知らないが、それを知っていること、覚えていることにただ驚くしかできない。

 バートルはともかく、ライトスの見た目は成長したことで当時とずいぶん変わっているはずなのに、ちゃんとわかる辺りは「さすが竜」と言うべきだろうか。

 トルージャに十年前のことを言われ、ライトスは思い出した……ような気がする。妖精界に来ていた魔法使い達の中に、彼のような人を見たことを。

 さっき覚えた既視感はこれだったのだろうか。昨夜も人間にしておくのがもったいないな、と思った人がいたような気がするが、それもこの竜だったのかも知れない。

「トルージャ、あなたがご存じのことを、今ここで全て話していただけないかしら。私、あなたの言葉の衝撃が強すぎて、状況が理解できないわ」

 フィーエンが頭を抱えている。本当に衝撃が強すぎたようだ。彼女ほどでなくても、ライトス達だって十分に衝撃である。

「そのお嬢さんはね、魔法使いと一緒にこの世界へ来たんだ。きみと同じようにね」

「え、俺と同じって……こっそり潜り込んだってこと? だけど……」

 ここへ来た事情はわかった。でも、リュディとは十年前に出会い、十年経った昨夜にライトスは再会した。その間、彼女はずっと妖精界にいたことになる。

 妖精界はともかく、人間界ではきっちり十年という時間が流れているのだ。彼女と一緒に来たはずの魔法使いは、その後どうなったのだろう。

「関係性まではわからないけれど、その魔法使いとは恐らく親子だろうね。彼は娘が一緒に来ていることに気付いていなかった。そして……一人で帰ったんだ」

「置いて……行かれた?」

 おとうさんがいなくなった、と話し、泣いていたリュディ。彼女を妖精と思っていたから、父親も妖精だと思っていた。

 その彼は妖精界、もしくは人間界のどこかに行って……などと考えていたライトスだが、真相は全然違っていたのだ。

 よその国どころか、よその世界へ置き去りにされてしまった。どれだけ不安で怖くて淋しかっただろう。

 それを聞けば、事情を理解しきれないであろう年齢のリュディが、フィーエン達に対しても怖がっていた理由がわかる。

 彼女がどこまで妖精に親しみを抱いていたかはわからないが、人間ではない存在に囲まれてどうすればいいのか、途方に暮れたに違いない。仮にフィーエン達が人間であっても、迷子が知らない人に何をどう言うべきかなど、判断できないだろう。

 そんな中で、リュディは子どもだったライトスと会った。

 自分と同じように、魔法使いの目を盗んで妖精界へ潜り込んだ少年。

 リュディはもちろん、ライトスが自分と同じことをしでかしていたなんて知るはずもないが、大人ではない人間を見て少し安心しただろう。

 しかし、彼はすぐ大人に、つまりバートルに連れて行かれ、次に来た時はなぜか大きくなっていた。

 そうか。だから、どうして大きくなったのってリュディは聞いたんだ。

 妖精界では、時間の流れ方が人間界とは違う。リュディはさっき会ったはずの子どものライトスが、いきなり大人になってしまったことが不思議だったのだ。

 聞いた時は意味不明にも思える質問だったが、事情がわかれば納得できる。

「まさか、ライトスと同じことをしている子がいたとは」

 バートルが苦々しい表情でつぶやく。

 行く先は妖精界なのだ。余程の警戒心を持ち続けない限り、進行方向に意識を集中している大人の後ろに子どもがいたって気付かない。そんなことをすると思っていないから、なおさらである。

 バートルはライトスを連れて人間界へ戻った後、ずっと猛省していたのだ。自分が魔法を使わない場合であっても、魔法が関わる行動をする時にはもっと周囲に目を向けなければならないのだ、と。

 こんなことは自分だけに起きたことだと思っていたが、隙を突かれてしまった魔法使いが他にもいたことを知った。まったくもって、子どもの行動はあなどれない。

「父さんが気付かなかったら、俺もここに残されたままだったってことか。リュディと一緒に来た魔法使いは? その後、来てないのか?」

「ああ、一度も。呼ばれなくなってしまったのか、来られなくなったのか。私も人間界へはしばらく行っていないので、その辺りのことは何とも言えない。妖精界からは何も持ち出してはいけない、というルールはあるけれど、妖精界へ何かを持ち込んではいけない、というルールはないからね。持ち込まれたとしても、世界が危険と判断したらすぐに排除される。そうならなかったから、このお嬢さんが置いて行かれてもその時近くにいた妖精達は何も言わなかった」

 フィーエンはそういった事情を全く知らなかったので、リュディがライトスと一緒に人間界へ行ってしまったことに気付いた時「仲間」を返せとせまったのだ。

「次のパーティの時に、と事情を知る妖精は思ったんだ。だけど、その魔法使いは現れない。さらに、どういう訳か他の魔法使い達にお嬢さんの姿は認識されないらしい。見えたのはきみだけだったんだ」

「え、俺だけ?」

 同じ形で妖精界に入った者同士だから見えたのか、子ども同士だったから見えたのか。リュディが昨夜ライトスに見えたのは、一度見えたから、ということかも知れない。

 もしくは、他の魔法使い達に見えていても、まさか妖精界に「人間の子ども」がいるとは思わないので、リュディの存在を気にしていなかったか、だ。

「ですが、妖精と人間では気配も違うから、彼女がいれば誰か気付きませんか」

「あなた達もお嬢さんが人間だとは気付かなかったんじゃないかな?」

「それは……」

 バートルとディアドは、それにライトスもそう言われると反論はできない。

 多少おかしいと思いながら確信するまでには至らず、こうして言われるまで結局断定できなかったのだから。

「この世界にいれば、魔法使い以外の存在は全て妖精だと思ってしまうのも、無理はないよ。お嬢さんの例は別として、それが普通の状態だから。それにね、たまにいるんだよ。妙にこの世界の空気に馴染んでしまう人間が」

 この世界へ来るのは、子どもの頃のライトスやリュディのように特殊な例を除けば、魔法使いだけ。その中に、ずっとここにいても疑われないだろうな、と思える人間がいるのだとトルージャは言う。

 もちろん、招待された扉を通れば帰りもその扉が現れるので、どれだけ妖精界の空気に馴染んだとしても居残ることなく帰って行く。それが通常。

「お嬢さんもそういう人間のようだ。馴染むと言うか、溶け込むと言うか。最初からそこにいたように思われてしまうんだよ」

 リュディに対して、保護する責任を持つ妖精は存在しない。だから、何とかして彼女を人間界へ帰してやれるよう、よその魔法使いが来た時に交渉してやろう、と奮闘する妖精がいなかった。

 事情を知っている世話好きな妖精が近くにいれば、そういうことをしてくれただろうが、そんな妖精に限って魔法使いが来た時にリュディの近くにいなかったりするのだ。

「お嬢さんが人間界で成長したのは、本来の世界へ戻って本来の姿になったんだよ。そのサイズになっているのは……そちらの都合かな?」

 リュディが人形サイズになってしまった点については、さすかにトルージャもわからない。

「えっと……まぁ、そうです」

 ライトスが作った薬が妖精に対して効果があるかは不明だが、このことで少なくとも人間には効果がある、ということが図らずもわかった形だ。

「パーティを待たず、リュディを妖精達が送り返すことはできなかったんですか? 我々はパルレの力でこちらへ来ましたが、そういった方法を取ることは……」

「できなくはないけれど、できれば同じルートで戻った方がいいだろうね。妖精や竜は何も問題はないけれど、人間が来た時と帰る時の道が違うとどういう影響が出るかわからないんだ。前例がないからね」

「人間に見えない糸がついてると考えてみて。その先端はあなた達の住む場所につながってるの。妖精界へ入って、同じ扉から戻れば糸が絡まることはないわ。だけど、別の方法で戻ると糸が絡まったり、最悪だとどこかで切れるかも知れない。そうなった時に、あなた達の命は保証できないの」

 リュディは、魔法使いが招待されて使った扉から妖精界へ入った。だから、扉こそ別になってしまうが、扉から戻る方がいいのだ。

 パルレが作った抜け穴のような通り道でも帰れるはずだが、存在が歪みかねない。もしくは、何かのきっかけで世界と世界の間に落ちてしまうことも。

「妖精界へ行けるって気楽に喜んでたけど、そんな危険が潜んでるのかよ。それ、聞かなくてもよかったな」

 妖精界と人間界のつながりにそんな裏側があると知り、ディアドは身震いする。ライトスも想像もしなかった危険を知ってぞっとしたが、逆に言えば妖精達はそうならないよう、強制的にリュディを帰そうとしなかったのだ。

 もっとも、自分と関係のない人間に対してそんなに親切ではないから、という理由もあるようだが……人間だって自分と関係なければ動かないことも多い。

「私がわかるのは、これくらいかな。彼がお嬢さんを連れて行ったから、返せという話になった? 彼女は人間界の住人なのだから、その理屈は成り立たないよ」

 トルージャの言葉で、魔法使い達の表情が明るくなる。

「じゃあ、ライトスは無罪放免ってことか。ったく、はらはらさせやがって」

 ディアドにこづかれながら、ライトスもほっとする。バートルも安堵の表情を浮かべていた。

 フィーエン達の方も、文句を言う筋合いではないと知らされた形だ。怒る理由がなくなり、妖精達の表情も穏やかになる。

「悪かったわね。私もそういった事情があるなんて知らなかったから。あの魔物は消しておくから、戻っても問題ないわ」

 フィーエンがそう言ってくれたので、ライトスも安心して帰れる。寿命を奪われなくて済んだのだ。

 リュディだけが会話を完全に理解できていないらしく、きょとんとしていた。しかし、ライトス達が笑っているのを見て安心していいとわかったのか、不安の表情はもう見えない。

「あの、リュディの父親について、何かわかることはないかな」

 ライトスの問題はこれで解決した。でも、リュディについては根本の部分が何も解決していない。

 リュディからの少ない情報とここでの話から、リュディは魔法使いと一緒に妖精界へ来たが、置いて行かれた。トルージャも親子だろうと話したし、話に出た魔法使いはリュディの父親に間違いないと思われる。

 それなら、彼は今どうしているのか。なぜ来なくなったのか。

 その点についての話は出て来ない。

「こちらでは何ともね。さっきも話したけれど、私はしばらく人間界へ行ってないので、その辺りのことはわからないんだ。今のお嬢さんの姿から見て、十年近く経っているね。だから、その頃に魔法使いの子どもが行方不明になった話がないかを調べれば、手がかりが掴めるんじゃないかな」

 ライトスがリュディと出会ったのは、十年前。リュディがそれより前から妖精界にいるとなると、十年以上前だ。

 トルージャにわかるのはそこまでということで、あとは人間側で調べるしかない。

 ライトス達はトルージャやフィーエン達に別れを告げ、再びパルレの出してくれた光の穴を通って人間界へと戻った。

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