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7月 その24

一往復目。

運んだ物──大量の瓶。



空の瓶もあれば、無色透明だったり淡い青やオレンジの液体の入った物までと多種多様だった。



二往復目。

キャリーケース及びリュック等。



泊まりだし、主に着替えとかが入ってるんだと思う。

阿川(あがわ)さんと二人で持てるだけ持って行った。

もちろん、中には僕のキャリーケースもあった。



三往復目。

ドローン本体とその他アタッチメント。



物自体はかなり大きかったが想像以上に軽かった。

重量以前にこれを持ってきた意図は……?

掃除に使えそうではあるけども。



四往復目。

よく判らない機材等を少々。



千中(せんなか)さんや阿川さんが使うものらしい。

検閲した荷物はもう三往復目で片付いたようで、桟橋に戻ってきた僕は引き返すと共に阿川さんのお手伝いをした。



別荘に着いた僕の顔からは、四往復もの道程により汗がダラダラと零れ落ちていた。

自分のタオルで顔を拭いていると水雲(みずも)さんがペットボトルの水を渡してくれた。


ごく普通の水(もしかしたら違うかも……)だったが、生を実感するには十分過ぎるくらいに美味しかった。


間もなくして、阿川さんはお昼ご飯を用意してくれてた(これも水雲さんのお父さんが提示してた食料提供のひとつ)ので僕たちに渡してくれる。


見た目から如何(いか)にも高級そうな雰囲気がするバゲットタイプのサンドウィッチ。

手の上に乗っただけで、結構な重量感と抜かりなく保冷されてたのが伝わってきた。


待ってましたと言わんばかりにお腹が空いてきて、貰ったサンドウィッチを食べようかと思った時、外にいる智紘たちを思い出す。

外のみんなは昼食を取らずにまだ掃除してるのかな、と。


そう思ったのは梅城さんも同じだったようで、阿川さんに聞いてくれた。


「ねぇねぇ、阿川さん。外のみんなはもうお昼ご飯は食べたの?食べてないならこっちのメンバーだけ食べるのはズルいなーって思うんだけど?」


「ご安心ください、梅城様。外の設備を清掃してくださってる皆様には、千中が渡すようになっております。連絡は少し前に衛星通信の端末で行ったので、そろそろ外の皆様にも行き渡る頃合いでしょう」


阿川さんの言葉に、僕の胸の中にあった小さなモヤモヤは綺麗さっぱり無くなった。

梅城さんの表情にも陰りは無いようだ。


「おー、それなら遠慮なく食べられるね」


梅城さんは「頂きまーす」と、カラッとした外の天気みたいな明るさで言い放ち、すぐにサンドウィッチをひとくち。


見開く目、頭上に飛び出てそうな感嘆符、そしてサンドウィッチを凝視。


「なにこれっ!?うんまっ!!今まで食べてきたサンドウィッチが霞むくらい!!」


お腹が空いた影響で感想に惹かれるものがあったが、ひとまず我慢。


僕は掃除対決後も掃除を続けてる二人を呼びに行き、阿川さん達が待つ玄関ホールへ連れて行く。

戻ると阿川さんは倉庫からテーブルと椅子を出していて、その(かたわ)ら梅城さんは満面の笑みを浮かべながらもう半分くらい食べていた。


対照的に水雲さんは椅子に寄り添う形で立っていて(テーブルを出す手伝いは止められたのかも?)、サンドウィッチにも手を付けていなかった。

到着した僕は何となく阿川さんの手伝いへ。


程なく、本邸メンバー全員でテーブルを囲み昼食を取る。

満足そうにお茶を(すす)る一名を除いて。






玄関ホールで談笑を交えつつ(喋ってたのは主に梅城さんだが……)昼食を取り終えた僕らは再び邸内の掃除に戻る。

ここでメンバーを再構成する事になったものの、鵜久森(うぐもり)ちゃんとみっちゃんはあと少し、今担当している部屋に手を(ほどこ)したいらしい。


僕らはその意見を受け入れ、阿川さんを含めた四人で次の掃除先の振り分けをした。


梅城さんと阿川さんはリビングを。

僕と水雲さんは玄関ホール右手にある四部屋。


正直な所、人数の足りなさは否めない。


あの広いリビングを梅城さんと阿川さん二人で任せるのも酷な話だが、こちらも四部屋を二人は相当厳しい状況と言える。


僕と梅城さんが最初に掃除した部屋の広さと同等の広さ……それを四部屋分。

それにまだ中央には室内庭園がある。


現時刻は十三時……ここの無人島の正確な日没時刻が分からないとしても、その辺りで一旦手を止めるとすれば、ざっと六時間ないし約五時間程度。

夕食やその他諸々を行ったとして、作れる時間はプラスで二、三時間。


僕はこのタイミングで今日一日じゃ邸内の掃除は終わらないと悟った。

規模の大きさを甘く見てた。


とはいえ現状はどうしようもないので、水雲さんと一番手前の部屋から掃除をする。


部屋の中は最初に掃除した部屋と同様の広さで、こちらも埃が目立つくらいなもの……ここも特別、大きな問題は見受けられない。

強いて言うなら、一人で居るには広すぎるこの部屋の面積だ。


……ダメだ、一旦ネガティブな事を考えるのは辞めよう。


この先の結果がどうであれ、まずは手を動かした方が良い。

僕は水雲さんと協力して部屋全体の埃を取り除こうと動く。


二人でやる分、そこまで時間は掛からなかった。

もしくは生徒会メンバー同士の連携力が為せる業か。


埃もほぼ取り除き、僕は先を見越して水拭き用に水を汲んでくる事を水雲さんに伝えて退室。


洗面所を目指して玄関ホールを通ろうとした時だった。


昼食時に即席で広げられたテーブルなどは綺麗に片付けられており、スッキリした玄関ホールに戻っていたのだが……。

そこに島内設備組の人がひとり。


外の暑さから解放されたように天井を仰ぎながら、手でダルそうに顔を扇いでいたのは──


「体調はもう大丈夫なんですか?海江田(かいえだ)先輩」


僕に気付いた海江田先輩はダルそうな表情はそのままに、扇いでいた手で軽そうに「よっ」と挨拶した。


僕の進路は洗面所から一旦外れて、その場から動く気の無さそうな海江田先輩の元へ。


「にしてもまさかねぇ。姫島(ひめじま)にまで心配させちまってたとは。お前は、私にそういう気持ちを抱かないタイプだと思ってたからさ。だから今、かなり驚いてる」


「心外ですね。あと、その割には表情が合ってないですよ」


僕は率直に言葉を返す。


「本当に驚いた時ってのはな、意外と顔には出ないもんなんだよ」


「……なるほど」


驚きよりも動揺が勝つ、みたいな感じか。

言われてみれば、いつもよりは表情が固いかもしれない。


数時間振りの再会だし、炎天下で体調不良がぶり返した可能性もある。

そこら辺は注視をしておくとして──。


「ところで話は変わるんですが、島の設備の掃除は順調ですか?水雲さん達しか連絡を取り合えないんで進捗が全然分からないんですよね」


海江田先輩がここに戻って来たのは、軽い休憩みたいなものかな。


「あー、それなら全然問題ねぇよ。順調過ぎて、私が本邸側に加わる方が良いと思ってこっちに来た」


「そうだったんですか。……個人的にはとても助かります。この別荘、思ってたよりも広くて今日中には掃除が終わる気がしなくて」


たとえ海江田先輩が参戦してくれたとしても、全ての部屋の掃除が出来るかは怪しいが……。


いや、やっぱり無理かな。

せめてあと二人は欲しい。


「設備側が順調なのは良い事ですね。人員が割けるなら、もう少し来てもらいたいですけど……それは出来そうな感じでしたか?」


「んあー……厳しいだろうな。設備側(こっち)の清掃は力仕事が増えたってのもあって、私がやれる範囲も減ってきてな。設備側は男共でって事で、私だけ本邸に戻ってきたんだよ」


「へぇ~……メンバー的な事になりますけど、智紘はよく、海江田先輩を快く送り出してくれましたね。本邸(こっち)の女性比率が高い事に、だいぶ不満を持ってたと思うんですけど」


「そうだな。でも荒家(あらや)は、私が本邸に合流する案が出た時に「「船酔いもしてましたし、涼しい所で清掃できるなら、そっちの方が良いと思います」」って言ってたな。苦虫を噛み潰したような顔はしてたけど」


「智紘らしいっちゃ智紘らしい……」


紳士的な側面と願望がぶつかり合った結果、紳士の心が勝ったんだな。


「つー訳で、ちょっとここで休憩はさせて貰うが、もう少ししたら私も本邸(こっち)の清掃に入る。でさぁ……聞いた感じだと、そこまで(かんば)しくないのか?進捗は」


現実を受け入れる為にも状況の共有は必要だ。

それに隠し通せるものでもない。

僕は包み隠さず海江田先輩に話した。


現状、どの部屋がもう終わり、誰が何処を掃除しているのかという今の進捗。


そして、海江田先輩を含めた人数でも今日中に掃除が終わる見込みがない事を。


僕の話を聞き終えた海江田先輩は、(あご)に親指と人差し指を添えながら視線を落とし気味の中、何かを考えているみたいだった。


沈黙の末、海江田先輩は僕を見つめ直す。

どんな言葉が飛んでくるかと思いきや。


「深刻に話してた割りには、言うほど悪くなくね?」


「え?」


僕の口からは気の抜けたような音がまろび出る。

まさに拍子抜けだった。

そんな僕を置き去りにして、海江田先輩は意見を述べる。


「確かに、私を含めた人数と部屋数、あと各部屋の大きさ等を考えれば、時間は足りないだろう。"今日だけで"全部を終わらせるならな」


そう言い終えると海江田先輩は微笑を浮かべた。


「私は(はな)から、今日だけでやるつもりなんてなかったさ。何の為に三泊四日あるんだよ。二日使って全部キレイにして、一日はバカンスを味わって、最終日はまぁ……帰る準備やらダラダラすれば良いんじゃねーかな」


…………掃除を二日でやる予定なら、今の所は首尾よくできてるのかもしれない。

だとすると……この後、効率よく進めるには──


「それなら、優先的にやるべき場所を絞ってやれば、困る事も少なくなりそうですね……」


「おっ、優先的にやるって何処をだ?」


口元を緩ませながら僕に問う様子はさながら、海江田先輩が考えている事との答え合わせみたいに思えてくる。

まぁ意見の擦り合わせと割り切って、ちゃんと自分から話そう。


「今はみんなを分散させてますけど、まずはリビングを掃除する方が良いかなって。タイミングがあって一度だけ中を見たんですが、間取りで見るのとは段違いに広かったというか、何より横の広さよりも縦の空間が凄かったなって印象がありまして……リビングをみんなで綺麗にしてさえすれば、掃除を二日に分けたとしても泊まる分に困る事は少ないかなって思いました」


「あぁ、間違いねぇな。今も鵜久森と……姫島の友達が清掃してる部屋が終われば、少なくとも三部屋の個室は使えるんだ。リビングにだけ人員を集中させたら何とかなるんじゃねーかな。他の個室は明日っつーか、後回しにしても良いだろ」


言葉に詰まってたけど、たぶんみっちゃんの名前が出てこなかったんだな。


細かい事はさておき……意見は一致、海江田先輩が思い描いてる答えは出せたと言っても良さそうだ。


「よーし……んじゃあ、私もそろそろ清掃を再開するとしようかね」


「休憩はもう良いんですか?」


「おう。お前が来る少し前からちゃっかり休んでたしな。それに、船酔いで心配させた分ここらで戦力になんねーと、現生徒会長である姫島様に何て言われるか分かんねぇからな」


小馬鹿にしたような笑いで僕の方を見る海江田先輩。


「何も言いませんよ」


正確には何も言えませんよ、海江田先輩には。


僕の言葉を信じる気がないみたいな口調で「はいはい、くわばらくわばら」と言いながらリビングへ続く廊下へと歩き始めた。


こうしちゃ居られない。


僕も水雲さんにこの事を共有して、リビングに向かわないと。


……でも、取り敢えずは目的だった水を汲みに行くか。

手ぶらで戻るのはダメな気がするし。


そう思ってからは即行動。


目的地だった洗面所まで一直線で向かい、バケツに水を汲んで水雲さんの元へ急ぐ。

掃除をしていた部屋に到着した僕は、着いて早々、水雲さんに事情を説明する。


水を汲むのにどれだけ時間が掛かってるの?とは思われてたみたいだったが、海江田先輩との話をすると腑に落ちたらしく、諸々に理解を示してくれた。


だが、水雲さんはここの部屋を終わらせてからリビングの掃除へ合流したいと言う。


理由は、この部屋の掃除がほぼほぼ終わってるのもあり、途中で放置したくないとの事。


僕が海江田先輩と話をしている間、彼女は出来る事をテキパキと進めていたからだろう。

部屋を見渡したところ、水拭きをすれば完了と言っても過言ではなさそうだった。


状況を踏まえて水雲さんと話し合った結果、僕だけ先にリビング組に合流して、水雲さんはこの部屋が終わり次第リビングへ向かう事となった。

放り出すのが(しょう)に合わないというのは、素敵な事だし水雲さんの気持ちは尊重するべきだ。


僕は「じゃあ、また後でね」と言い残して、海江田先輩や梅城先輩達が居るリビングに向かう。


海江田先輩達とリビングで合流してからは、全体的なスピードが格段に上がったのが見て取れた。


的確な指示、無駄のない動き、梅城さんや阿川さんとの連携……どこを切り取っても文句が付けられないクオリティ。


僕も──後から合流した水雲さんやみっちゃん達とも協力したとは言え、気付けばあの横にも上にも広かったリビングの掃除を、夕暮れ時にはもうほぼほぼ完遂していた程だ。


横の広さだけでも推定二十畳はある、だだっ広いリビングを。

更には二階とまでは言えないが……一階半くらいの位置にある小空間があるのにも関わらずだ。


初めて見るけれど、これがロフトというものなのだろうか?

正式名称は定かじゃないが……ともかく、この別荘に相応しいリビングに一体どれだけの時間が持ってかれるのかと思ったが、意外にもあっという間だった。


海江田先輩の参加により後半からはテキパキと掃除をこなし、日没前には粗方(あらかた)リビング全体が綺麗になっていた。


その後、阿川さんが夕食の支度をするという事で細かな手伝いをしていると、島内設備組の全員が帰還。


露天風呂等の僕達が泊まるのに必要最低限の掃除は何とか終わったらしい。

それを聞き付けた梅城さんと海江田先輩は、千中さんを除いた女性陣を引き連れて露天風呂へ向かう事に。


中でも鵜久森ちゃんは頑なに断っていたが、梅城・海江田コンビに強制連行される姿を見て、可哀想な気持ちがないではなかった。


「無駄なものでマウント取られるのに、こんなメンツで一緒になんて入りたくないぃ……」


これが力ずくで連行されながら言い残してった、鵜久森ちゃんの遺言(仮)である。


そんな光景を羨ましそうに見つめる智紘の目からは、血の涙が流れる勢いで悲しんでいた。

だが、こっちはこっちで日常茶飯事だったので、僕が冷めた目で見ていたのは言うまでもない。


「くそっ……今この一時(ひととき)だけでも俺が音寧(おとね)ちゃんの代わりになってあげられたら、どんなに良かった事か……」


「智紘。妄想は頭の中で完結するから許されるんだよ?口に出した時点でもう、(ばっ)せないだけの変態だよ?」


いっそのこと、目から全身の血を流し切って倒れてもらった方が、世のため人のためかもしれない。


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