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7月 7月27日⑦ ウチくる?

水雲(みずも)さんが島内設備グループの千中(せんなか)さんに連絡を入れ終わった頃には、僕を含めた残りの四人で「どの場所から清掃するか?」についての議論も、すんなりと終わっていた。


ほぼ即決というくらいのスピード議論で、僕の意見……つまりはトイレ洗面所付近の清掃から取り掛かる事になった。

水雲さんが間取り図を取り出してきた倉庫から掃除用具を出してくれて、トイレ洗面所付近に戻ってくる。

掃除は主に分担して、各所一ヶ所ずつ担当する事に。


トイレと洗面所は水雲さん。

そしてその洗面所と手前側で、室内庭園の真向かいにある部屋の三つを鵜久森(うぐもり)ちゃん、梅城(うめしろ)さん、みっちゃんという割り振りに。


僕はフリーで動ける助っ人枠。

ポジションも決まり、いざ開始────という時だった。


「ねぇねぇ、おとねちゃん」


みっちゃんが鵜久森ちゃんに話し掛ける。


「何ですか」


返事はするものの素っ気ない態度を見せる鵜久森ちゃんを気にもせず、みっちゃんは口角を上げながら提案をする。


「ここはどれだけ掃除をキレイにできるか、女子力勝負をしないかな?」


ほんの一月前は高学年で習う常用漢字はおろか、難しい言葉も使えなかったみっちゃんが女子力とは……語彙力の成長を感じる。


「女子力勝負とか、何の意味があるんです?そんな事より、ちゃんとやらないと──」


「ははーん……もしかしておとねちゃん、掃除が苦手なんだね?」


「────はい?掃除が苦手?聞き違いですかね。それ、私に言ったんですか?」


明らかに名指しだったよ……?


思いの外、沸点が低かったのにも驚いた。


「見くびらないでくださいよ。鵜久森家で家事スキルトップのお祖母ちゃんが、掃除している私を見て『音寧(おとね)の掃除に対する姿勢は、姑(しゅうとめ)さんみたいに妥協が無いわね』って褒めてくれたんですから」


それは褒め……られてるね。

綺麗で抜けがないってことだろうから。


「じゃあやろうよ、掃除対決」


「いいでしょう。吠え面かかせてやりますよ」


そう言って二人は担当する三部屋の両端を選んで入って行った。


ハチャメチャな有り様になったりしないよね……?

適度に様子を見に行かないと。


困りつつも、あらあらと微笑を浮かべている水雲さんは、床に置いていた諸々の掃除用具を持ち上げる。


「それでは、私もそろそろお掃除を始めていきます。こちらは一人で出来ると思うから、姫島(ひめじま)くんはお三方を手伝ってあげて。手伝ってほしい時があったら、すぐに呼ばせてもらうから」


じゃあ、と言い残して水雲さんは少し離れた洗面所へ向かった。


お三方といってもな……鵜久森ちゃんとみっちゃんの二人は今のところ手伝って良いような雰囲気じゃないし……。

自然と僕の視線は梅城さんへ。


「行く宛ないなら、ウチくる?なんつって」


それっぽい演技で茶化しつつ空気を和ませてくれようとする梅城さんは、底抜けに明るい笑顔を僕へ向けてくれる。


「では、お言葉に甘えて」


行き場を失くした僕は有り難く梅城さんの誘いを受け、室内庭園入口の真向かいにある真ん中の部屋へ梅城さんと入る。






水雲さんが別荘に入ってすぐ、みすぼらしいと自ら言ってたのもあり一体どれほどの物かと思っていたが、主観的に見ても部屋の中は散らかってる感じではなかった。


強いて言うなら至るところに埃が溜まっている状態で、部屋が広いのもあり掃除のし甲斐があるといったところ。


冗談だとしても、部屋に誘われるシチュエーションが魅力的だったとしても、入った部屋がこれじゃ百年の恋も一瞬にして氷点下まで急降下だ。


……別に僕達二人は恋人でもないから関係ないんだけれど。


部屋に入ると先程の話は嘘かのように、梅城さんは「埃が凄いねぇ。これは長期戦になりそう」と言って嫌な顔をするどころか、やる気を見せている。


ロマンチックなムードは廊下に捨てられたらしい。


小慣れた手付きで掃除を始める梅城さんの足手まといになるのは回避しようと、僕も部屋の上の方からパタパタと埃を落としに行く。


僕が真剣に掃除を取り組んでいると、梅城さんは手を止める事も目も合わせる事もなく「玲香(れいか)ちゃんに聞いたよ」と口を開いた。


咄嗟に僕は梅城さんの方へ向くが、彼女はそんな僕を余所に埃と向き合っていた。


「無人島(ここ)に来るの、一回は断ったんだって?高三だからっていうのを理由に」


「……まぁ、そうですけど」


海江田(かいえだ)先輩、そんな事を梅城さんに話してたのか。

もしかして……松之下(まつのした)さんや竹並(たけなみ)さんにも話してるのか?

あまり面白味のないこの話を。


「へぇ、ホントなんだ。頼斗(よりと)くんってちょっと変わってるね。受験生というのを加味しても、みんなで無人島に遊びに行こうなんて誘われたら、興味本位でも行ってみたいなってならない?」


「うーん、ならなかったですね。……これは偏見かも知れないですけど、誘われたから行きたくなるっていうのは、元々アウトドアが好きか、みんなで集まるのが好きな人じゃないですかね?」


「頼斗くんは嫌いなの?みんなで集まったりするのが」


「うーん……あんまりそういう事をしてこなかったんで、嫌いというよりかは誘われる事に慣れてなくて困るって感じです。アウトドアは苦手な部類ですけど」


高校生活も一年生の時は勉強漬けだったし、二年生で生徒会に入る事になってから外に出る機会が増えたくらいだしな。


「それは意外だね。……というか玲香ちゃんを見てる影響で、生徒会長のイメージがだいぶ変わってきちゃってるのかも」


「だとしたら大問題ですね」


生徒会長=海江田先輩になるのはもう風評被害と言える。

就任する人全員が好き勝手やってると思われるのは心底避けたい。


「玲香ちゃんから、この誘いを断ったやつがいたって話を聞いた時は、頼斗くんがどういう人か知らなかったから単なる推測ではあるんだけどね、別の人との予定があったからなんじゃないのかなー?って思ったんだよね」


「別の人?」


僕は率直に聞き返す。


「そう。恋人とか」


すると梅城さんはニヤッとしながら此方(こちら)を見た。


「いませんよ。そんな人」


実際に彼女いない歴が年齢と同じ僕はそう言いながら目を逸らし、せっせと手を動かして掃除に意識を向け直した。


だが、梅城さんは掃除も僕の方にも手を抜かない。


「じゃあ頼斗くんの好きなタイプは?」


その瞬間、僕の手は止まった。


これまで好きなタイプというものを自分なりに言語化した事がなく、ただただうっすら積もっていた埃に見入る。


「……何ですかね。僕にない物を持っていて、それで……ひたむきに努力できる人、ですかね……?」


僕にとって精一杯、脳の色んな所から言葉を引っ張り出して言語化した答えだったが──


「ははっ、何それ。バーナム効果?って聞きたくなるほどフワッとしてる」


笑いながら指摘された。


けれどその返答には正直言い得て妙だと思ったので、ぐうの音も出ない。


梅城さんはここぞとばかりに根掘り葉掘り尋ねてくる。


「髪の長さはこれくらいでーとか、自分より身長はどうとか、そういう具体的な好みは無いの?」


「特には……」


あまりにも味気のない回答に一瞬、梅城さんも言葉を詰まらせたみたいだが優しく微笑を向けてくれる。


「……なるほど、色恋沙汰にはあまり目を向けてこなかったんだね」


縁が無かったとバッサリ切り捨てても良い所なのに、オブラートに包んでくれた。

僕への配慮が隅々まで行き届いてる。


「となると……」


梅城さんは僕から視線を外し、掃除に力を入れ始めながら僕にも聞こえる声量でこぼす。


「勝負は五分五分って所かなー」


「……何の話です?」


意味が分からず、独り言に近かったのでスルーするのが良かったのかもしれないが、ついつい尋ねてしまった。

しかし、梅城さんは再び僕を見るや否や笑顔を向けた。


「私が教えるのは反則だよ。レッドカード……意味わかる?」


梅城さんの独り言に反応した形だったので恥ずかしさを滲ませるかと思ったが、そんな様子は無かった。

それどころか、ドヤ顔でレッドカードの意味を聞いてきたくらいだ。


「退場ってことでは……?」


「そうだね、一発退場。むしろ部外者と言っていいよ」


「はぁ……」


レッドカードの意味よりも、笑いながら掃除に戻る梅城さんにどういう反応すれば良いのかが僕には分からなかった。


「喋ってても分かるけど、頼斗くんは頭が良いからね。いつかはちゃんと理解する日が来ると思うよ。それまでは、遊びに誘われたら予定が合わない以外は積極的に参加すると良いんじゃない?安楽椅子に座ってるのは心地良いかもしれないけどね」


僕は言われてハッとした。


「そう……ですね。無人島(ここ)に来るまでは正直、遊びに出掛ける事に前向きじゃなかったんです。でも今日、久しぶりに会った人と喋ってる内に『ここまで来たら楽しまないと』って思うようになって……。それが自分にとっては新しい発見だったんですよ」


「ふーん……もう既に感じる物があった訳だ。じゃあ、そういう経験できるチャンスが今回みたいにあるかもしれないんだし、尚更誰かに誘われたら遊びに行った方がいいよ」


「自分にできる範囲で……やってみます」


「そうそう。無理ない範囲で間口(まぐち)を広げて行けばいいのよ。これ、少し上のお姉さんからの助言ね」


梅城さんの第一印象、言動が軽めな調子のいい人って感じだったけど、意外とそうでもないのかも。

ちゃんと考えて言葉にしてるし、おちゃらけた言動もわざとやってたり──


「ヤッバ、見て頼斗くん!!このホコリ、めちゃくちゃデカくない!?絶対ギネスに載るやつだよ」


……いや、素な気がしてきた。


埃ひとつでこんなにテンション上がる歳上、初めて見た。

そんな彼女を見て、ギャップを感じながらも先程の言葉を思い出す。


『遊びに誘われたら予定が合わない以外は積極的に参加すると良いんじゃない?』


あの時、梅城さんに母さんが重なって見えた。

微笑かつ真剣な眼差しを僕に向ける母さんの面影が、霞んで見えた。


『勉強も大切だけど、もっと誰かと遊びなさい。勉強を10したなら遊びを20くらい。それが頼くんにとって、かけがえのない物に必ずなるから』


いつぞやの日に言われた母さんの言葉を思い出す事になるなんて。


不思議と僕は口元が緩む。


「あっ。今、鼻で笑ったでしょ。デカいホコリ見て大声出す私がそんなに可笑しい!?」


「いや、違いますよ」


ミスった、タイミングが悪かった。


「ほーん……だったらどう違うのか説明してもらおうかー」


「説明と言われても、ちょっと……」


不意にやってきた笑いが、突如としてピンチを招いてしまった。


まさかもまさか、埃ひとつで掃除の最中(さなか)に梅城さんを宥(なだ)めるのに数分掛かるとは思わなかったが、一番の大きなタイムロスはこれくらいだったのが幸いな所だ。



あとがき



ここまで読んで頂いた皆様、お久し振りです。

マイペースにも程があるくらいカメよりゆっくり書いてる作者の景李です。


まずは、ブックマークして投稿ペースがバラバラでも読み続けてくれている読者様、途中からでも気になり読み続けてくれている読者様にお礼を申し上げます。

ありがとうございますっ!!

お時間ありましたら感想も頂けると嬉しいです!!


さてさて、挨拶もこれくらいにさせてもらって……



約2年半振りのあとがきになりますね。

作中7月の中盤くらいにあたるこのタイミングでの作者登場は、本人的には不本意ではあるんですが……

どんな形であれ、ここまで読んで頂いた方達に謝らないといけない事がございまして、中途半端なタイミングであとがきを書くことにしました。


何に対しての謝罪なのかに心当たりがある方は、それはもう覚えてくれてて有りがたい限りなのですが、読者の99.9%の方は忘れてらっしゃるor何のこっちゃ?な事でしょう。

説明するより見てもらった方が早いので、前回のあとがきである作中6月最後の51話で書いた、あとがき後半の一部を抜粋してきました。

それがこちらです。


────────────────────────

次回のお話は7月……位置付けとしては4話になります。


その後に続く8月の5話もですが、3話みたく長くはなりません。


せいぜい7月と8月を合わせて、6月よりちょっと少ないくらい……そう見積もっております。


正直そんなの、僕のさじ加減と寄り道でどうとでもなってしまうんですが(笑)

────────────────────────




ほんっっっっっっとうに申し訳ないです!!!


7月と8月の話数の合計が6月よりちょっと少ない……?

寝言は寝て言え、過去の自分。


作中6月の3話が全部で26篇に対して、7月の4話が現在時点で21篇……どこが少ないんだよ。

7月をバッサリと今終わらせても8月をあと4話でまとめなきゃ少ないとは言えねぇよ。

何なら6月より7月が長くなるだろっ!

さじ加減と寄り道の度が過ぎるわっ!



と、過去の自分をぶっ飛ばしてあげたいんですが……書いた物は引っ込められず、書けば書くほど自分の首を絞めてく

状況でしたので「そろそろみんなに謝らないとなぁ……」と思ってた次第です。


あ、謝罪という文言に不穏な感じがあったかもしれませんが、安心してください。

死なない限り筆を折る事はないですから笑

好きな事を好き勝手書いてるだけですので笑




約2年半振りのあとがき……

本文より長くなるのは忍びないのですが、この際です。

『どうして7月が長くなってしまったのか』を語らせて頂くとしましょう。


どうせ、次のあとがきは作中7月が終わるまでは出てくる

つもりがないので、お付き合い頂ければ幸いです。

(年内で書き終えれば良いですねぇ……ハイ)



長くなった理由 その1

海江田 玲香の過去回想を本気になりすぎた


ここがターニングポイントのひとつなのは確実でしょう。

構想当時の話ではあるんですが、正直2000字くらいでパッと終わらせて話を進めるつもりだったんです。


それが開いてみれば27000字越え……10倍を余裕で超えてましたね笑(気になって調べました)


いざ回想を書いてみたら途中から熱が入って、細かい設定も裏設定程度だった内容も全部あの回想に詰め込んだ感じですね。

ですが、時間が掛かったのもありますがそれだけ濃い話に出来たのと、未来に繋がる部分を盛り込めたのはやって良かったと思う所ですね。



長くなった理由 その2

ウミガメのスープ(水平思考ゲーム)に時間を取りすぎた


裏話ではあるんですが、この話は作中7月に入った2年程前から考えていたものでした。

でも最初は軽い気持ちで考えていて、友人に協力してもらったりして同じ内容でウミガメのスープをしてたりして、緻密に話を作り上げていったんですが、作品に落とし込むとなった時に大変な思いをしました笑


これだけで地味に4回分ですからね笑

今度からはもう少しシンプルにやりたいと思いました!

(やるかどうかは未定w)



長くなった理由 その3

無人島の話のボリュームアップ


作品7月で無人島に行く事は最初から決めてました。

が、新キャラをドバドバ出す予定はありませんでした。

出るのが確定してたのは空閑(くが) 千慧(ちさと)と、水雲 真澄(ますみ)のお手伝いさんである千中さんだけですね。


他の新キャラを出す事になった理由はこの後の話に関わってくるので、お楽しみにという事で!!

その為のボリュームアップですから。



以上が長くなった理由の大きな要因ですね。

1つ目と2つ目に比べたら、あとの寄り道なんて些細なものです。

3つ目は根本的な物ですし、致し方なしです(開き直り)




久々の登場でしたが、今回のあとがきも随分と長くなった気がします。

そろそろ作者の情報開示に飽きてきた頃でしょうし、お暇(いとま)させてもらうとしましょう。



次回の更新はまだ未定ですが、5月中に出来たら最高ですね。

そして何処まで話を進められるか。

端折(はしょ)りに端折っても最低年内は7月の話を書く事になるでしょう。

その分、最高の形で7月を終わらせる事をお約束したいと思います。



では、またいつか。

長い長い夏の狭間で会える事を願って。


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