表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/73

4月 バスケ部主将と

職員室を出た僕と智絋(ともひろ)は、生徒会室に向かっている。


僕には生徒会室に行く理由があるが、智絋の目的地が僕と同じ理由は、なんとなーく、だそうだ。


どうやら智絋も、勧誘が終わって暇になったらしい。

職員室で僕と出会わなければ、そのまま帰るつもりだったんだろう。

まぁ僕もする事がないし、人の事は言えない。


暇人同士、職員棟の廊下を歩いている。


「はぁ~。そこの角で超可愛い女の子とぶつかって、運命の出・会・いになったりしねぇかな~」


「ないよ」


智絋の言葉をぶった切る。


「わかんねぇだろ~?人生何があるか。もしかしたら明日の朝、俺の隣でナイスバディな女の子が、添い寝してくれてるかもしんねぇじゃん!」


どこに可能性を感じてるんだ…夢を見すぎてるよ、智絋。


「もっと現実を見て?そういうのはフィクションだから」


「リアリストめ。ちょっとは偶然的産物を信じろよな?運命とか奇跡とか」


「運命なんてあるもんか。結果が複数集まっただけで、神様がどうこうしてる訳じゃないんだから」


「じゃあ奇跡は?」


「積み重ねの集大成だろ。やってきた全てが結実した瞬間だよ。じゃなきゃ、競争なんて全部ギャンブルになる」


「へいへい。中間テストと期末テストで、学年1位を取った生徒会長様の言葉には、重みがありますわー。ありがたや、ありがたや」


ふて(くさ)れながら、軽い嫌みを放り込んでくる。


てか、全然気持ち入って無いじゃん。

ありがたい言葉でもなかったし。

そっちの言葉が軽い軽い。


「テストで学年1位を取ったのは去年の話だろ?もう終わった事じゃないか」

「いいや、違うね!去年じゃないね!期末テストが一年の時で、中間テストが二年の時だったね!」


「お前、気持ち悪いよ…」


僕が覚えてない事を、どうして智絋が覚えてるんだよ。

僕が好きなのか?女好きはどこへ行った?



何度も言うが、荒家(あらや) 智絋(ともひろ)は天性の女好きである。


出会って早々イレギュラーだったが、智絋の女好きは下級生だけでなく先生陣にまで知られているし、僕達が二年生の時は上級生にまで知られていた。


そんな、女の子ばっかり追いかけ回してる智絋も、バスケットコートの上ではボールを追いかけ回している。

しかも主将というのだから、これ以上ないギャップだろう。


出来るならコートから出ないでもらいたい。

一歩でも外に出たら、あいつの良いところ全部無くなるからなぁ。


逆を言うと、コートの中だとカッコいい。

場所がかなり限定されている。

バスケに対する誠実さを、コートの外に持ち出してほしい、残念系男子だ。


顔はかなり良いと思うんだけど。



職員棟から外に出て、高等部棟に向かいながら、少し気になった事を智絋に質問してみた。


「ところでさ、智絋は何で部のみんなと一緒に帰らなかったの?勧誘も終わって暇なんだったら、一緒に帰ってご飯とか行けば良かったのに」


「いやぁ、データを(まと)めるのに時間がかかってさ」


「次の対戦相手の?」


「いや、新入生の女の子の」


「すぐ捨てろ、そのデータ」


危うく感心しかけたじゃないか。

勧誘してたんじゃないのかよ。


「頼斗、このデータを捨てるという事は、この後の学校生活において、大きな損失になるぞ?」


「ならないよ。損失があるとしたら、智絋を止めれなかった僕の沽券(こけん)の方だよ」


「あぁ、股間にも損失が出る」


「聞き間違いじゃないよね!?それとも言い間違いか!?答えるんだ!!」


「まぁまぁ、落ち着けって。俺が取ったデータの内容を見れば、頼斗も納得するはずだ」


「僕の話聞いてた?質問をスルーするなよ」


沽券(こけん)なんて言葉、使うんじゃなかった。

僕が下ネタに誘導したみたいになったじゃないか。


「ほらよっ」


智絋が一枚のメモを渡してきた。

メモには数字とアルファベットが、規則的に並んで書かれてある。


「智絋、一応聞くんだけど」


「ん、何だ?」


「一番上の行にさ、BWHの3つアルファベットが書かれてるんだけども…これは?」


聞かなくても判る。


でも、これは事情聴取だ。

原告には説明をしてもらわなければならない。


「Bは…」


「Bは?」


聞き返す僕。


「Bは美貌だ」


「ふーん」


誤魔化すか。

にしては悪くない答えだ。

美貌の3つ下に書かれてる数字の89の人なんて、さぞお綺麗な女子なんだろうな。


…数字はどうでもいいか。

僕は別に気にしてないし…。


そうやってこの場を上手く誤魔化すつもりだろうが、さぁ次はどうだろう?


「じゃあWは?」


「Wは…Wは…わ、矮躯(わいく)だ」


「へー」


頑張って絞り出したのは伝わった。


でも、矮躯の真下の61って数字は、どういう身長なんだよ。

指数100だと何センチなんだよ。

センチじゃないとしたら、単位は何を使ってるんだ?インチか?


まぁ突付きたい所は山ほどあるが、答えられた事は褒めるべきだろう。


続きを聞こうじゃないか。

智絋は何の言葉で締めてくれるんだい?


「じゃあHは?」


「エッチが上手(うま)そう!」


「はい有罪っ!!」


僕の手元にあったメモは、細かく千切って空に投げ捨てた。

千切られた紙は風に乗って、青い空に消え去った。


解ってるよ?勢い余ってポイ捨てした事は。


でも、今回だけはどうか許してほしい。

それもこれも、新入生の女子を守る為の行為なんだ。


名前が書かれてなかったとはいえ、智絋の推定で叩き出されたスリーサイズが、男子生徒に回る事のないようにする為には…。


いや、冷静に考えたらシュレッダーに通せば一番安全だったし、ポイ捨てにもならなかった。


不覚だが、時すでに遅し。



智絋は明るいバカでもある。


成績は申し分ないのだが、使い方というか方向性が果てしなくバカだ。


人を見る目はあるし、計算と運動は大得意。

メモに書かれていた数字は、智絋の推測が入っているが、ドンピシャではないにしても大方は合っている事だろう。

出鱈目(でたらめ)じゃないからこそ、厄介な部分だ。


因みに、智絋の成績は学年でトップ30には入っている。


智絋は僕の事を「学年1位を取った生徒会様」と言っていたが、僕の成績にはムラがある。

確かに1位を取った事はあっても、気を抜いたら50位近くまで落ちる僕に対し、智絋は常にトップ30をキープしているのだ。


1位に拘るのは解らなくもないが僕自身、智絋の方が凄いと思うんだけどな。


にしても…89か…。



僕にメモを千切られた智絋は落ち込む、かと思いきや、口をポカーンと開けただけで、それほどショックは受けてない様子だった。


「あーあ、俺が頑張って(まと)めたっていうのに、こうもビリビリに引き裂いちまうとは」


「こんな風紀の乱れる物を作る方が悪い」


「ま、良いんだけどさ。数字は全部頭の中にあるし、いつでも書き起こせるからな」


こいつの頭から記憶を消し去る方法はないものか…。

当分は見張ってないといけないかもしれない。


「それじゃあ今度は、俺が頼斗に聞こうか。質問返しだ」


智絋はニヤリとした。



「頼斗こそ、何で生徒会の奴らと帰んなかったんだ?」


「あー、それね。他のみんなは体育館で、何人かの先生と一緒に後片付けしてるよ」


「なんだ、ぼっちか」


「ぼっち言うな」


1人で居るとぼっちというのは、短絡的じゃないか?


「頼斗も手伝えば良かったじゃねぇか」


「あぁ、僕も手伝うとは言ったんだよ。でも鵜久森(うぐもり)ちゃんがね「「私達は入学式に出席しただけで、何もしていません。片付けは私達でやりますので、会長はどこかで昼寝でもして、明後日の朝まで目を覚まさないでください」」って言われて」


「最早、仮死状態だな」


明日は日曜日で学校は休み。

つまりは月曜の朝まで起きるな、と鵜久森ちゃんに言われた。


月曜の朝には目を覚ませというのは、遅刻はしない様にという配慮だろうか?

配慮があるのだったら、ちゃんとした朝を迎えさせてほしい。


「頼斗は何もする事がねーんだろ?じゃあ、あの可愛い可愛い音寧(おとね)ちゃんが戻ってくるまで生徒会室で待って、そのまま一緒に帰れば良いじゃないか」


「ん?何で鵜久森ちゃんを名指しなんだよ」


他にもメンバーは居るよ?


「何でって、それは…」


「それは?」


僕は智絋に聞き返す。


「ほほぅ…これはこれは…」


独り言みたく声が小さかったから、僕にはハッキリ聞こえなかった。

智絋の表情は、何かを考えてる感じか。


「何て言ったんだよ」


「別に」


「別に、なもんか。何か言ったのは判ってるんだよ」


「おっ、もう生徒会室は目の前だぜ?」


「いやいや、はぐらかすなよ」


確かに生徒会室はすぐそこだけど。


「そんじゃあ俺は帰るとするか。良い暇潰しだったぜ。また月曜な、頼斗」


「ちょっ、まだ話は終わってな…」


「じゃあなー」


智絋は廊下を走りながら、僕に手を振って去っていく。


全力疾走はしていないから、今すぐ追い掛ければ追い付くだろうが、そこまでする気はない。

廊下を走ってはいけないという校則があるから、とかではなく、する気がない。


歯痒(はがゆ)さは残るけど、あの感じだと追いかけて聞いても、飄々(ひょうひょう)とした態度で曖昧(あいまい)にされそうだ。

時間と体力の無駄になる。



目的地だった生徒会室に着いた。


扉に鍵が掛かっていたら、用務員さんにお願いしなきゃならない。


となると、また職員棟にいく羽目になる。

暇と言えど、行ったり来たりするのは嫌だ。

それだけは勘弁してもらいたい。


僕は扉に手を掛ける。

指先だけで、ほんのちょっとスライドしようと力を入れる。


すると、ガラっと音を立てて扉が3センチほど開いた。


鍵は掛かっていなかった。


「開いてる」


ポツリと言葉をこぼしてしまった僕。

生徒会メンバーの誰かが、鍵を開けたんだろうか?


でも、後片付けをやってる筈だし。


まぁ、良いか。


中に誰か居るかも知れないし、居なかったらメンバーの誰かに聞けば良い。

判んなくても、考えるのはそこからでも遅くないだろう。


僕は扉をスライドさせ、生徒会室に入った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ