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『七行詩集』

七行詩 341.~360.

作者: s.h.n


『七行詩』


341.


紅葉(もみじ)が埋め尽くす 駅のホーム


電車の入りに 舞い踊る様は


貴方を包み 祝福する花びらのよう


その赤い絨毯の上で 迎えを待っていてほしい


その日が早く来ることを願えば


待たせることも 待つことも


ほんの少しだけ 似ているようだ



342.


恐れても 決して抗えぬものであれ


もしも星が消えたら 人が消えたら


時間は孤独に流れるだろう


記憶に残らぬ永久を


たった一人で埋めていくのだろう


今 時間は 僕らの行く末を見守り


僕らもまた 時に寄り添い 流れてゆく



343.


思い立ち 脇目も振らぬ その意志は


自分が誰で 成すべきことが何なのか


まるで判っていないよう


けれど私には分かります


今最も 貴方の目を光らせるものが


最も重要なことであると


私だけが 貴方を許し 送り出せるのです



344.


痛覚が寒さを訴えた


病室には 少しばかり広い 六畳に


立ち止まった日を しばし顧みる 独房に


どうして私は 一人なのでしょう


たとえば 私を想う誰かが居て


或いは同じく 病に伏せる人が居て


どうして貴方は 一人なのでしょう



345.


私が貴方に告げるのは


慰めではなく 運命(さだめ)です


雪の中 薄野行きの 列車に乗り


貴方は理想を語った


私は"必ず叶う"と言った


貴方がその手で勝ち得たとき


私は預言者となるでしょう



346.


もしも"自由"が 篭や額縁を持たなければ


羽ばたき すぐに 空へと溶けてしまうでしょう


それが"自由"であったことさえ


わからなくなってしまうでしょう


だから私は 貴方が形を失わぬよう


"自由"が貴方を 奪って行かぬよう


こんなに固く 手を握りしめてしまうのです



347.


十二月の 祝祭を告げる 鐘が鳴る


年を取ることを どうか恐れないでください


思い出を重ねようと思えば


それは前へと 進むことでしか得られない


純白に 美しいままでいることより


開いたばかりの 真っ白な頁を


美しく 彩ってゆければ 良いではありませんか



348.


よろこびや 感謝を伝えようとすれば


子どもの書く日記のように


結論から書きだせば良いのか


肩に触れ "ありがとう"と


一言 感謝を告げるのか


一声の 機会さえ 見出せぬまま


不器用に 赤い花束を 贈るのか



349.


遠い日の 狭かったはずの 世界さえ


低い目線には 十分なほど 広かった


草花が道を 覆っては枯れ


並び背を伸ばす 稲は刈られ


何度か繰り返される間 私は少年であったのだ


それは大きな鏡のように 水を張る田園の中


湿った風を飲み込み 私は自転車をこぎ続けた



350.


他人や運に 頼る占いの結果など


満足のいくはずもない


罵る口を閉じなさい 息を吸い 目を閉じなさい


生まれる場所は選べない


生み出すものは 選べるのだから


いつの日も 貴方は望む未来にとって


一番の功労者でなくてはならない



351.


真冬の夜空に 星は見えない


しかし 染み渡る 深い空


十二月の町明かりは


地上に降りた星たちであり


人々が 祝祭のために 呼んだのだ


明かりの道を歩こう


今の僕たちが 迷わなくても いいように



352.


あの人のように 傍で聴いたことがない


軽やかな声は 貴方の涙の落ちる音は


私には あと何秒で聞こえるのでしょう


もしも貴方を目の前にすれば


きっと失望させてしまう


その驚きに 時が止まったかのように


信号は 意識へ 指先へと 少し遅れて届くので



353.


息も切れ切れに 引き摺り歩く その荷物は


捨て切れぬ思い出であるのか


立ち上がれぬ 自らの姿であるのか


先に行くには この階段を上るには


手を解かねばならぬというのに


ここまで抱え 運んできたものを


どうして切り離せるのだろうか



354.


繰り返す この身の孤独や 困難に


その都度 耐え 越えることはできても


他人の強さには 敵わないだろう


最初の壁に 行き当たり


膝をつく頃に 生まれた子が


今や 野を駆け回っているというのに


私は変わらず ベンチで一息つくばかり



355.


たとえ短いひとときでも


二人で広場を眺めた時間は


二人分の記憶となる


私はそれ以上 貴方の時間を奪わない


与えるために 在りたいから


そして 分けてもらえた分だけを


こぼさぬ器を 私は胸に持っていたい



356.


お一人で 嵐の海に 出るというのに


その旅の行方が 分からぬなら


岸辺で祈り 待たせるよりも


私も同じ 船に乗せてくださいませんか


もしもその船が沈むとき


二人は 最後の空気を分け合いながら


珊瑚のように 海が見た夢の 一部となるよう



357.


歩きましょう 川沿いに並木を 見上げながら


花見に賑わい 花火に賑わい


歩む人もまた 季節を彩る


たとえば 数えてみてください


私たちが あと何回 春夏秋冬を迎えるのか


その頃 街は 私たちは


どのように変わっているでしょうか



358.


いつか大きな木の下で


眠りにつき 土や木の葉が 覆い隠す頃


私が生きて感じた全てを この大地へと還したい


私の一部は 子どもたちが駆け回り


踏みしめる野原へと 憩いの広場へと


そうすれば 私の最期は あなたにとって


終わりではなく 始まりの一歩と なれるでしょう



359.


本当の価値など 目の前で星が消えるまで


判らぬものではあるけれど


逃せば二度と 戻らないもの


それが貴方なのでは、と


そんな予感があった


貴方は星 たとえ届かぬ高さにあっても


いつも輝いていてほしいのです



360.


冷え込んだ 寒さの中で 気づくのは


一面の 雪に反射する 眩しさに


日を浴びれば その暖かさに


どれほど強い 光を受けていたのかということ


貴方の持ち得た優しさも


他の誰かという 細やかな鏡に映るとき


私は初めて その大きさに 気づくのでしょうか






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