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台風TSコロッケ

作者: 代々木良口

テレビから女子アナが台風の接近を伝える中、3人の親子が慌ただしく台風の支度をしている。


『~勢力を伸ばした台風は今日未明には日本へ上陸するものと…暴風圏内にお住まいの方は戸締まりをしっかりとし、性転換に備えるよう…十分に注意をしてください』


「おかあさーん。トランクスどこ」

「もう。昨日洗濯して脱衣所に置いておいたでしょ。それよりアイロンかけるからズボン早く出して」

「かあさん、俺のパンツどこだっけ」

「アナタ! 自分のことぐらい自分でして頂戴!! あたしだって自分の男物引っ張り出すだけで精一杯なんだから。全く! 毎年のことだけどやになっちゃうわ!」

「なんで台風が来るとTSするんだろうねー」

「知らないわよ。大昔からそうなんだから」

「そうだぞ。昔は男ばっかり戦場に居たから嵐が来ただけで戦が終わったりしたんだ」

「おとーさんものしりー」

「そんなの良いから!! ふたりともちゃんと支度して頂戴!」

「「はーい」」



TS女子アナの読み上げるニュースを聞きながら、TS少女はTS用詰め襟制服を着込み、登校する。

前方にはクラスメイトのTS少年が丈の合わない男子用制服の袖をまくり、今にも弾けそうな胸のボタンを押さえながら歩いていた。


『~今朝日本へ上陸した台風は徐々に勢力を弱めながら北上し…通勤、通学には十分注意を……次のニュースです……』


「おはよ!」

「おはよう」

「あれ、ズボンなの?」

「そう。親がスカート出し忘れてさ。まあ男のままスカート履くよりはマシだけど、胸がね……」

「あはは、たしかに」

「そっちはちゃんとズボンなんだ」

「そりゃスカート履くわけには行かないじゃない!」

「ごもっとも」

「台風、やんなっちゃうよね」

「ああ、またすぐ次の台風が来るって言うしね」

「うっそ、またぁ?」



おはよーございまーす

おはよー


「先生おはようございます」

「おう、おはよ……おいそこ。女子になったらちゃんとスカートを履かないとダメじゃないか」

「やべ、見つかった……」

「見つかった……じゃない! 今日はもう良いから明日からはきちんとスカートを履いてくること。わかったな」

「はーい(自分は良いよな体育教師だからどっちでもジャージで)」

「何か言ったか?」

「いえ! なんにも!!」

「先生だってな! ちゃんと昨日女物のジャージを用意したんだぞ!」

「はーい……」

「ほらそこ!! 男の格好でスカートを履いてくるんじゃない!!」

「…今のうちに行こ」

「うん」



「……ふう。朝からひどい目にあった」

「あはは、自業自得でしょ」

「いっそリバーシブルで男女兼用の制服にしてくれればいいのに?」

「映画とかで出てくるやつ?」

「そうそう! スカートのチャック閉じるとズボンになるやつ!」

「えーでもあれかっこ悪いじゃん。あたしは男の子のときはちゃんとズボンが良いな」

「そうかなー。便利でいいと思……う、け…」

「どうしたの……まさか! はじまっちゃった……?」

「ちょ、声が大きい……」

「ドジねー。タンポンあるから貸してあげようか?」

「いや…怖いからいい…購買で買ってくる…」

「男子ってタンポン嫌い多いよねー。今は女子だけど」



購買ではTSした男子たちが黒山の人だかりとなりナプキンを買い求めている。


「おばちゃん! こっちに一つ!」

「こっちにも!!」

「こっちも早く!!」

「今はおにーさんと呼びなさい! はいよ。そっちもね!」

「おばちゃん…こっちにも」

「はいよ! …そんなに具合悪いなら保健室行ったら?」

「うん……付けたらそうする。だから早く!」



「クラスの半分が居ない。台風後の光景よねー」

「TSすると急にはじまるの、なんでなんだろうね」

「さあ、でもいつもこっちが苦しんでる時に笑ってくる男子が苦しんでるのはちょっといい気味」

「えー可愛そうだよー、きゃははっ!!」



――保健室。ベッドには不機嫌な猫のようなうめき声をあげるTS男子たち。よく見ればそれはベッドだけでなくソファー、床に敷かれた体育用の運動マットに倒れるている者までいる。


「すみません……気分が悪いんでベッドを……なにこの野戦病院みたいな状態」

「ああ、見ての通りベッドは満員だから気分悪いなら床に寝て」

「マットがあるだけマシか…カビ臭い…」

「文句言わない! 症状が重い子は薬出すけど」

「ください!」

「俺も!!」

「オレもオレも!!」

「こっちも!!」

「薬足りるかなぁ……まあいいや足りなかったら栄養剤わたしとこ」

「おい今さらっとひどいこと言ったぞ!」



普段、夕食時のスーパーでは筋骨隆々、エプロン姿のTS奥様たちが特売品を求め血で血を洗う闘争を繰り広げていた。


「安いよ安いよー! ちょとそこの奥さ…じゃなかったおにーさん方! 今日はコロッケが大安売りだよ! 台風といえばコロッケ! たくさん買ってってねー!」

「コロッケかー。そうね。今日はコロッケでいいか。台風だし。すみませーんコロッケ10個!」

「毎度! おにーさんイケメンだからサービスしちゃう!」



オフィス街の一角、TSOLたちが手鏡でしきりに艶のある黒髪ロングをしきりになでつけにやけている女を怪訝そうに眺めていた。

女の机には課長の札が立っている。


「……ねぇ、今日の課長なんだか機嫌よくない?」

「ほら、台風で女になったから頭が……」

「ああ。それでずっと鏡見てるんだ」


「キミたち、何か言ったかね?」


「「いえ、何でも!」」


鼻を鳴らすTS課長に、同じく手鏡でしきりに髪を見てはにやけていたTS男性社員がすり寄ってきた。


「ふん。女になわからんよ」

「課長! 今日のヘアセットは決まってますね!」

「君か。ふふん。君こそ縦ロールとは凝ってきてるじゃないか」

「ええ、朝イチで美容院に予約しましたよ! こんな時でないと出来ませんからね。お互い」

「ああ。台風は面倒だがこれだけは台風さまさまだな!」

「ですよね! どうです今夜は一杯」

「良いね! 飲もうじゃないか」

「「はっはっはっ」」



『……太平洋で発生した台風は明日にも日本へと上陸する見込みで……』


「えぇ! また!?」

「せっかく服取り替えたとこなのに!」

「そうか……また台風か」

「おとーさんなんか元気ない?」

「いや……なんでも」

「いいからふたりとも準備するわよ!」



『~昨日通り過ぎた台風よりさらに大型の台風が太平洋沖で発生し、このまま進めば日本へと……』


「今年台風多くない!?」

「もうクリーニングが間に合わないわよ!」

「そうか。また台風来るのか」

「おとーさん嬉しそう……」



『相次ぐ台風の上陸により、日本各地で混乱が続いており、とくに生理用品の消費が激しく。スーパーなのでは品薄の状態が続き、場所によっては購入制限が起きるなど……』


――今月何度目になるのかもわからない台風接近の報にもう飽き飽きと言った感じでTS少女が愚痴った。


「ねえ。もうズボンで良くない?」

「そうねぇ。ズボンならまあ」

「そうかぁ? お父さんはスカート好きだぞ?」

「アナタ洗濯する身にもなって頂戴!!」

「はい……」

「あー、今日もコロッケ」

「いいでしょ。台風なんだから」

「台風が来るたびコロッケもメンチカツに変わればいいのに」

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