出会い
また短めですが楽しんでください。
広くて狭い世界……
何もない世界で孤独で過ごす……
名を呼ぶ人もいない……
ただの孤独。私が私を呼ぶ……
忘れないように……
誤魔化すように……
* * *
<???side>
「やっと……桜が咲いた」
この神社でどれだけの時を過ごしたのだろう。
誰とも交わることのない世界でただ一人。私の思いは叶うこともなく時間は過ぎてゆく……
私の世界と外の世界でどれほどズレがあるかもわからない。もうわからない……
諦めたい……
諦めたくない…………
揺れる……
ゆれる……
ユレル…………
「あと……どれだけ待てばいいの? いつになったら私を……紺野 藍莉の名を呼ぶ人がここに来るの?」
もう孤独は嫌なの……だから誰か…………
<紺野藍莉side out>
* * *
<夕也side>
石段を上り終え、鳥居をくぐると世界が変わった気がした。その感覚は決して勘違いではない。
何故なら、目の前には季節外れに舞い散る桜。そして、その奥にはかなり巨大な神木と神社。空は薄暗い……まるで日が昇ったばかりのようだ。
(何だ……これは…………!?)
理解ができない。
しかし……理解しなくてもいいとも思ってしまう程に引き込まれた。この世界のもつ神聖さに魅了されてしまった。
だから気が付かなかった。すぐそばに来ていた彼女の存在に……
「あら……人間なんて珍しい……。どうやって来たのかしら?」
澄んだ声の先には、風になびく長いきれいな黒髪を軽く抑える女性が立っていた。
巫女服を着た、凛とした……しかし、優しい空気を纏った女性。彼女の手には竹箒があり、掃除をしていたことがわかる。……見たところ同じか少し上くらいの年齢だろうか?
「どうやっても何も石段を登って来ただけですよ」
「……変なことを聞いて悪かったわね。とりあえず、はじめまして。私の名前は紺野 藍莉。見ての通りこの神社で巫女をやっているわ。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」
「緋咲 夕也……です」
「夕也……ね。私のことは藍莉でいいわよ。それに敬語も必要ないわ」
女性……藍莉は、ふわりと微笑みながら軽い調子でそう言う。その笑みに見ほれそうになりながらも、俺は彼女に質問をなげかける。
この不思議な空間について…………。
「……ここには結界が張られているの」
「結界…………?」
非現実的だと思うが、真夏に桜が咲いている時点で今更だと思い直す。
「えぇ。理由は言えないけどここには二つの結界を張ってあるの」
悲しそうな顔をしている理由を聞くことが出来ず、俺はそのまま彼女の説明を聞くことにした。
「一つ目は人払い……というか、ここを気にも留めなくする結界。だからここには人が来ないのよ。」
藍莉が最初にした質問はそう言う意味だったのか。人が来るはず無いのに俺は来た……。
驚くはずだ。
「そして、二つの結界は霊力収集。……力を維持するためね」
「…………なら、時間が外とズレてるのは?」
彼女は苦笑いをしながら
「たぶん、結界自体の問題ね。結界というものは要は、内と外で異なる空間を作るって事だから、長い時間をかけてズレができてしまったのよ」
と答えた。ふと腕時計を見ると、針は17時半を指していた。そろそろ旅館に戻らないといけない。
「悪いがそろそろ旅館に戻んねぇと。外での明日にまた来るから……じゃあな藍莉」
何でか明日もここに来ると無意識に口にしていた。しかし、悪くない。
軽い足取りで俺は旅館にかけていった。
<夕也side out>
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